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音のない音楽室で  作者: ku-ro
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始動

関西国際空港よりオーストラリア行きの便に上條は搭乗した。不安がないといえば嘘になる。一度諦めた夢を追いかけての出発。叶うかもしれない喜びもあった。音楽室で里崎がお父さんに競艇選手を目指せと言われたことを話した。その時自分は騎手になりたかったことをみんなに話した。数日後に大木がオーストラリアでは目がわるくても騎手になれるかもしれないと教えてくれた。海外なんて考えもしなかった。しかし挑戦したい気持ちが高まった。そんな時に父親の病気がわかり悩んだ。父親の死を考えた時、自分も一度死にかけた事が鮮明によみがえった。(夏休み、俺は死んでいたかもしれない。運よく生きている。騎手になるチャンスがあるなら踏み出すべきだ。自分は失敗しても後悔なんてしない。そこから就職しても遅くない。)そう決心して両親に話してみた。普通なら反対意見がでそうである。しかし闘病生活で弱りきった父親が「がんばれ」とあと押ししてくれた。母の下を向いた寂しそうな顔が印象的だった。

バイクの免許をとるために貯めたお金がこんな形ででやくにたつとは思わなかった。夢から決断そして準備へと日々を過ごした。今、上條は実行するために空路を進みだした。悪天候や上昇気流と揺れ動く飛行機が自分の気持ちを映し出すようだ。

母が父と二人だけで会話した時の内容を教えてくれた。その時の母の話している姿を思いだした。

「優がね、お父さんに僕の腎臓必要なら言ってねって言ってくれたことを喜んでいたよ。笑いながら、俺が優の為にならあげるけど、優からはもらいたくないわって言ってたけどね。」

「騎手は落馬がこわいからなー。体だけは特に大切にしてほしい。」騎手を目指すことに反対はしなかったが心配をしていたことを後から聞いた。

「お父さんは優が生まれた時、名前を優馬にしよって言ったの。でもお母さんが馬がつくとどっか遠くに駆けて行ってしまいそうだから、馬をとって優になったのよ」

そんなことも話してくれた。窓越しに外を見た。青い空と雲が流れていた。父親の闘病生活が続くならやめていたかもしれない。この遥か空の上から父が見てくれていると信じている。父親の病気そして死

、屋根からの転落、大木との出会いが今の自分を動かしていると思う。この道を進めというサインだったかもしれないと受け止めたい。

母は「休みがとれたらオーストラリアに行くからね」っと言って見送ってくれた。何千キロと離れてしまうのに現代社会では近く感じる。決断した一つの要因だ。朝早くに起きて出発したので目を閉じた。何故かバファローズのスカイのメロディーが流れた。原たちの演奏が心に残っているのが分かる。


夢追い人が行く 君は行けるだろう 光を目指し進め 総てを掴むために


空港におりたった。修学旅行でみんなでわいわい騒ぎながら歩いた記憶のある場所だ。旅行者と思われる日本人を多数みかけることで孤独から解放される気がした。手続きを終えロビーから外に出た。そして地上から再び空を見上げた。まだ騎手の道がひらかれたわけではない。ここから始まるところだ。しかしチャンスが目の前に舞っている。掴みとるために、新しい大地にきた。気分の高まりを覚えた。「さあ行こう」スーツケースを転がしながら上條は歩きだした。青く晴れ渡った空の下、柔らかな日差しが上條を照らした。

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