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音のない音楽室で  作者: ku-ro
23/26

SKY

原は教室を飛びだし急いで音楽室まで走った。昼休みに鍵を職員室にとりにいっていたので着くなりドアを開けて中に入った。数秒後に廊下を走って音楽室に近づいてくる音が原に聞こえた。

「きたきた」原はひとりごとを言った。

「お疲れさまでーす」小谷が勢いよくドアを開けて挨拶した。

原は4階の窓越しから校門を見た。たくさんの生徒が自転車や歩いて学校から帰って行くところだった。「まだ帰ってないやろ」

「そうですよね」

二人は準備室に直ぐに入った。原は準備室の窓を全開にしてドラムのイスに座った。冷たい風が準備室の中に入ってきた。少し息を切らした小谷はケースからトランペットを取り出して2、3回軽く音をならした。

「いくよ」

「はい」

原のカンカンカンカンという合図に合わせて、二人で演奏を始めた。

窓を開けてるせいか、トランペットとドラムの音が部屋にこもらず外に抜けていくので、いつもとは違った音が響いた。


12月に入り、三年生は来年1月の卒業式を残すだけとなった。今年度、そして高校生としての最後の授業を終えた。大木と上條は自転車置き場に向かった。たまに別々に帰った日もあるが、いっしょに帰る日が断然多かった。

「あー終わったなー」

「あと卒業式だけやね」

いつも同じ位置に自転車をとめていた。いつものように自転車に乗り上條と校門に向かった。途中で音楽室から音が聞こえだした。

「SKYや」

演奏している曲がバファローズの球団歌だと上條はすぐにわかった。大木も野球の応援に行こうと決めていたので曲は知っていた。

「どうしたんやろ」

大木は疑問に思った。音楽室を見上げると準備室の窓が全開になっていた。普段は窓を開けて練習することはまずない。そして小谷の性格ではクラシックを基本的に練習すると思うのだが。まわりの生徒は吹奏楽部が練習しているだけであって立ち止まることなどはなく次々に出ていっている。そんな中で大木は自転車を降りて音楽室を眺めた。上條も大木と並んでとまった。おそらく原と小谷は自分たちへのメッセージとして演奏しているのだろうと思った。

「嬉しいなー」大木は上條に言った。

「ああ」上條も同感だった。そして二人の演奏している姿を頭に思い描いた。(いい後輩だな)大木は二人に感謝した。

「見に行く?」上條は大木に聞いてみた。大木は少し考えたが、

「会わなくなるわけじゃないからいいよ。優君は?」

「別にいいよ」

上條は二人の演奏に力づけられたような気がした。少し嬉しくなり上條は演奏に合わせて口ずさんだ。そして再び自転車に乗って門を出た。学校から離れていくにつれ、トランペットとドラムの音が薄れていった。上條はスマホを取りだしメールを送った。

「バイトありがとう。今度面接いくから。」

「いいよいいよ。一回働いているから採用するやろ」

大木からバイト探しの話がでた時、上條は自分のバイト先なら聞いてみるよと言ってくれた。そして話が進み面接の日も決まった。バイト探しに苦労するかなと考えていた大木にとっては願ってもないことだった。

「いつ出発するん?」

「卒業式後かな」

「大丈夫なん?」

「現地で案内してくれる人がいてるみたいやから何とかなるはず」

「まあ気をつけて。応援してるから」

「ああ、何とかうまくいってほしいなー」

「優君ならいけるよ」上條は何回かうなずいた。

「また連絡するから」

いつものわかれ道にだんだん近づいてきた。三年間が長く感じる短く感じるかは人それぞれだがいつかは過ぎ去るものだと大木は思った。上條と帰るこの道も最後だ。

「じゃあね」

いつもと同じように交差点でわかれた。そのほうが自然だと思った。


 原と小谷は今日が三年生の最後の授業だと顧問から聞いていた。だから最後の日には何か演奏で見送ろうと計画した。それが今日のSKYだった。繰り返し3、4回続けて演奏した。

(もう、いいかな)原はドラムをやめて窓の外を見た。

「聞いてくれたかなー」帰る生徒はまばらになっていた。

「もう帰ってますよね」

二人は準備室の窓を閉めて教室に移動した。原はスマホを見るとメールが届いていた。上條からだった。「上條さんからメールきてるわ。小谷君にも送ってるで」

「本当ですか」

小谷はカバンからスマホを取り出した。

ありがとう!!という一文と窓のあいた音楽室をバックに上條と大木が並んで写っている画像が添付されていた。

「分かったみたいですね」小谷が画像を見て言った。

「うん、よかったわー」原が答えた。

自分たちの思いが伝わって二人は嬉しかった。再び、原はドラムに座り練習を始めた。窓を閉めた準備室はいつもの音が響いた。

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