葬儀
もうすぐ12月。夜の気温は下がり肌寒くなってきた。自転車で行こうと思えばいけるのだが葬儀場が駅から近いということもあり、電車でお通夜に行くことにした。6時過ぎだがもうあたりは暗かった。街灯の明るさの中、歩いて駅に向かった。上條に会った時、何て声をかけたらいいのだろうか悩んだ。さぞ落ち込んでいるのだろうと、上條の姿を想像した。歩いて10分最寄り駅に到着した。普段は自転車通学なので電車はほとんど利用しない。駅に着いた時から、地元の同級生にもしかしたら会わないかと回りを見渡しす自分がいた。そんな期待も空しく電車に乗った。 一度乗り換えをして上條の葬儀場に到着した。
空気は重たかった。棺を前に花が左右対称に飾られ、ざっと見て30人ぐらいの人が席に座り始まるのを待っていた。まだ若く笑っている写真が中央に置かれていた。上條が制服姿で座っていた。当然だが想像していたとおり落ち込んでいるような後ろ姿を大木は見て、後方の席に座った。回りを見てみても同級生は来てなかった。お坊さんが着席してお経がよまれた。何も考えられなかった。ただただ座ってお経を聞き流していた。数分後にお焼香が始まった。上條の母親、上條と続いた。一般の順番になり大木は制服を整えから列に並んだ。上條と母親が前に立っていた。お焼香を終えた人に頭をさげてお礼をしている。順番がまわってきたので焼香台の前に立ち大木は一礼してお焼香を終えた。そして上條の前に行った。目があったので大木は頭を下げた。
「ありがとう来てくれたんや」上條がおさえた声で言った。
「うん、元気だしてね」と聞こえるか聞こえないかのボソッとした声で返答して大木は出口に向かった。 何を言ったら上條は慰められるのかが結局分からなかった。出口で紙袋を受け取り外に出た。
来たときより寒く感じた。ポケットに手を入れ駅に向かった。早すぎる死に同情、上條が父親を失った悲しみ。そんな思いが頭の中に浮かんだ。駅前の交番を通りすぎた。大阪府の交通事故件数の掲示板が置いてあった。本日の交通事故死の欄に手書きで1の文字が書かれているのを見た。電車に乗り、ドアにもたれた。腕時計を見ると8時をさしていた。まだ仕事帰りの人がたくさん電車に乗っていた。交通事故で死んだ人は若かったのか年寄りか分からないけど、おそらく急に人生が途切れたはずだ。上條も屋根から落ちた時、もしかしたら死んでいたかもしれない。震災などもそうだ。若いから自分は死なないという過信の中であたりまえのように生活している自分に危機感を覚えた。電車内で何もすることがないので、余計にそんなことなどを考えてしまう。
乗り換えの駅についた。たくさんの人が歩く流れにのってホームに向かった。再び電車に乗った。まだ人が多く席には座れなかった。つり革を持って、外の景色を眺めた。左右を見渡すと、中学の同級生がすこし向こうに座っいた。(あっ同級生だ)大木は気づいた。ただ別に仲良かったわけでもないし、声をかけようとは思わなかった。確か成績優秀な女の子だったと大木は覚えている。大半の人がスマホを見ているなかで、その子は座りながら本をひろげて勉強していた。この違いが自分にはないところだと痛感した。もう少し勉強ができたら今より頭のいい高校に通い、今より満足な生活を過ごせていたのだろうかと考えてしまう。しかし上條や里崎、後輩との出会い、そして有意義な日々は今の学校でしか得られなかったかもしれない。人生を計画して学校や就職先を選択する生き方。その選択がプラスかマイナスかは知るすべはない。時がたち後から答えが分かるものだ。自分にできること。まずは教習所に通って車の免許。アルバイト。そして入学、勉強。これが目先の歩みになりそうだ。朝から学校そしてお通夜とよく動いた1日だった。電車を降り駅から歩き出した時に疲れを感じた。家の明かりが見えた時は、やっと着いたと気分が少しましになった。




