明と暗
受験を終え、数日が過ぎた。三年の大半が併設している大学を受験した。大木は(今日だ)と合否が気になりながら学校に行った。2時限目あたりから親より連絡がくるクラスメートがいた。合否の通知が郵送で各家庭に届きだした。クラス内でも明暗はあった。落ち込み黙っている生徒の隣で合格を喜ぶ生徒。これからを左右する時である。見えない落とし合い、勝者と敗者、そんな結果が判明してきたように大木は感じた。そして、まだ分からない状態が続いているのがはがゆかった。昼休みに上條が大木のクラスにきた。
「大ちゃん、どうやった?」
「まだ分からない。」
「携帯貸すでー」
「家に誰も居てないから見てないと思う」
「そうなんやー」
「大学に合格者の掲示板があるから見に行けたら分かるんやけど。」
「そしたら見に行こうや」
大木と上條は併設している大学に行く通路に行くと教師が立っているのに気づいた。
「あかん、先生おるなー」
「考えることはおなじやね」
大木たちは高校の裏門から外に出て、走って大学の北門に向かった。
「先生おらんなー」
「うん」
大木は緊張してきた。(さあ分かる…)大学の門をくぐり階段を上がったところが合格発表の場所だということは入試要項に記載されていた。(1369MA)受験番号は覚えている。階段を二段飛ばしでかけ上がった。上りきると視界が広がった。両サイドに校舎が建ち、正面向こうは校舎はなく下り階段、運動場や住宅が見渡せた。左側の校舎入口の両サイドに合格発表が張り出されていた。大木はそこに向かい足を進めた。この緊張感は久しぶりか、初めてのような気がする。
1000番台から順に見ていった。(1200…まだ下…1300…1360…) (1369、1369MA!!)
「あったー!! あったー!!」
大木は声に出して喜んだ。そして思わず隣の上條に抱きついた。この喜びは大きかった。もう一度掲示板を見て確認した。覚えている数字がちゃんと載ってある。
「よかったー」
「やったやん!!」
上條も笑顔で祝福してくれた。国公立のようなレベルが高い大学ではないが、まず次の進路が決まった事が嬉しかった。大木はやっと受験から合格発表までのプレッシャーから解放された。特に必死で勉強したわけではないが、クラスメート内にも不合格者がいた。そんな中で自分は運がよかったのか、行くべき道が示されたのだろうか、これでまた新たな日が始まると思うと目の前が明るくなった。二人はきた道を引き返し大学の門をくぐって外に出た。
大木上條はともに卒業への単位は問題はなかった。後は卒業だけだと登校する日が始まった。合格発表から3日後、戸口先生に呼ばれたので帰りに職員室に寄った。
「上條のお父さんの事聞いた?」
「いや、何も知らないですけど」
大木はとっさに亡くなったかもしれないと悟った。
「昨日亡くなったらしい」
「そうですか」
大木はやっぱりかと内心思った。戸口先生から葬儀の場所と時間を聞いた。
「今日のお通夜には行きます」
「ああ、気をつけて」
頭をさげて大木は職員室を出た。職員室のドアを閉めると大きなため息をがでた。数週間前に上條から父親の事は聞いていた。父親の闘病生活の間、どういう気持ちで過ごしていたのだろうか。合格発表の時も何も考えないで自分一人が舞い上がってしまい、上條の父親の事は頭から離れていた。今、亡くなったと分かると申し訳ない気がした。家に帰りパソコンでメールを確認すると上條から一通メールが届いていた。父が亡くなったことの報告と葬儀の日時と場所、そして、原や小谷には言ってないので言わないでいいよという内容だった。原たちにも教えるつもりだったが控えることにした。お通夜は今日の7時。地図で場所を調べると、上條の家の近くだ。お通夜にはいきますと返信した。他に何を伝えたらいいのかわからなかった。ただお通夜だけには行かないと、という思いだけがあった。