流星群
11月に入り、大木の入試が3日後となった。大木たちはクラブに行かなくなった。
二人で帰っている時に獅子座流星群が見れる日が近づいていることを数日前に知った。土曜日の深夜なので夕方から集まって遊んで、夜中に見てみたいと大木は上條に持ちかけた。どっちかの家に集まりたかったが、家族がいる家では迷惑がかかってしまう。上條も賛成だったので、原にメールを送った。原の家も無理だった。しかし小谷の祖父母の家が近くにあり、そこは空き家だった。小谷も他の家には夜中にいくのは難しかったが、自分の祖父母の家なら大丈夫だったので、土曜日夕方に集合することになった。
「大木さん、受験前に大丈夫何ですか?」原が心配そうに言った。
「まー今さら必死に勉強したっていっしょやって。積み重ね積み重ね。」
「そうですけど…」
「まー大ちゃんなら何とかなるよー」上條が言った。
三人は電車で小谷の家まできた。行きしなにコンビニで弁当やお菓子などを買ってきた。小谷はどんな家に住んでいるのか、個々に興味はわいた。駅まで迎えにきてくれたので小谷の案内でまずは小谷の家に行った。
「大きい家やなー」
上條が玄関前で家を見上げなが呟いた。きれいな洋風な玄関から小谷と母親が出てきた。揃って挨拶をして祖父母の家に行った。
築50年の家は色褪せた灰色の壁、玄関も時代を感じさせる古風な家である。
「お邪魔しまーす」
みんなは一応、一言声をかけて入った。
「年期の入った家やなー」上條が言った。
「もう数年間は誰も住んでないので」
「おじいちゃんとかは?」大木が聞いた。
「今は一緒に暮らしてるので。」
「そうなんや」
和風なテーブルに買ってきた物をおき、四人は座った。家は薄暗くひんやりと寒さを感じたので小谷は電気ストーブのスイッチをつけた。大木は腕時計を見た。
「7時前かーまだまだ時間あるなー」
いつものメンバーなので、何も気を使うことはない。時間潰しにでもとトランプを持ってきていた。泊まりの学校行事ぐらいでしかしないのでちょうどよかった。上條は小谷の父親が持っていたマンガを借りて読んだり、スマホで音楽PVや面白い動画をみたりとしているうちに12時をまわった。遊んでいる
時なんて時間ははやい。二階のベランダにでてみた。外にでて寒くなったのでみんなはジャンバーやジャケットをきた。わりと広いベランダは屋根がなく夜空がひろがっていた。
「めっちゃいいじゃないですか」
「あとは流れ星が見れるかやな」
大木は流れ星なんてめったに見れるものではないと思っていた。実際見たことがなかった。たまたま夜空を見上げた時に、星が流れるイメージだった。何十年ぶりかに流れ星が何回も見れる可能性があるとなるとどうしても見たくなった。ベランダで流れる予想の方角を向いてじっと待った。大阪の空は明るかった。雲のない夜空だが星は数えるくらいにしか見えない。大阪の空は寂しく感じてしまう。沈黙が続いた。明るさで見えないんじゃないか。本当に流れるのか疑ってしまう。みんなは夜空を見上げて待った。「あっ!!」みんな声がでた。
「今、流れたなー!!」
「うん!」
夜空に星が光ながら右から左に尾をひきながらとおりすぎた。
「すごいですねー」
「初めて見ましたよー」原がいった。
「俺もや」上條もいった。
「あっ、また!!」
数秒後にまた流れた。大木は受験前だったが、この感動はそんな憂いを忘れさせた。再び、空を見上げた。
流れ星といえば願い事とリンクする。大木も神頼みではないが心で合格しますようにと願った。その考えはみんな持っている。
「上條さん何をお願いしたんですか?」原が上條に聞いた。
「世界平和」上條がさらっと答えた。
「えっ壮大な願いですねー」
「今は世界中を行き来する時代やでー。平和にこしたことはないねー」
「そうですけど…」原は上條の返答にすこし驚いた。
しかし、上條の本音は今も自宅で闘病している父親の回復だ。ただこればかりは願い事なんての次元ではない。元気な姿に戻るということは奇跡を信じるしかない。もしかしたら大木は自分の為に流れ星を見ようと誘ってくれたのかもしれない。上條はそんな気がしてならなかった。
原も願いは当然ある。ドラムの腕がもっと上達するようにが第一だった。そして、横にいる大木上條が卒業してもこの関係が続いてほしいと願った。大木がバンドを組んでみたいということは知っている。大木のギターの腕も音楽の好みも共感できる。今バンドとかけもちでもいいので、大木とバンドを結成したいと思っていた。
小谷は吹奏楽部がうまくいきますようにとおおざっぱに願った。みんなの願いなど叶うかどうかなど分からないが、輝きながら消えていく流れ星に願いを託した。
その夜2時間の間に数十回の流れ星が現れた。
「冷えてきましたね。」
原が言うと、みんなはうなずいて中に入り、一階の部屋に戻った。部屋の中は温かかった。大木は腕時計を見た。午前2時を指していた。
「ちょっと寝るわー。」上條は横になった。それを見て大木と原は壁にもたれた。小谷も横になった。大木は目を閉じると、さっきの流れ星の映像が頭に巡った。3日後は受験だ。(大丈夫!!必ず合格する!!)と言い聞かした。部屋の電気とストーブの明かりが気になった。なかなか眠りにつけるわけではない。しばらくして目を開けてまわりを見ると、原は起きていた。目が合った原が控えめな声で大木に質問した。
「大木さんは携帯いつもつんですか?」
「卒業してバイトするようになったら持つつもりかな」
「もうそろですね」
「大学落ちたらそんなん言ってられへんかもしれないけどね」
「また携帯もったら番号とか教えてくださいね」
「わかったー。今のメルアドにまず送信するね」
今から吹奏楽部は小谷と二人になる。新しい部員が入部して、小谷のように輝くのか、流れ星のように期待だけさせて消えていくのか、責任を感じるようになってきた。
「また何かあったら相談しますね」原は大木に頼んだ。大木はうなずいた。
太陽の光が部屋を照らした。朝方だが部屋は暖かかった。
「もう電車動いてるなー」みんなは部屋を片付け家を出た。
「小谷君ありがとう」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。」
「じゃあまた学校でね」三人は小谷に礼を言って駅に向かった。三人の後ろ姿を見ながら、自分が役にたてたことが嬉しかった。