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音のない音楽室で  作者: ku-ro
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岐路

音楽室には原と小谷だけだった。原は準備室内に置いてあるドラムで練習、小谷はトランペットを準備室からだしてきて、ジュピターを教室で演奏し始めた。その音が聞こえた原が、小谷を準備室に呼んだ。「上手くなったやん。久しぶりに一緒に合わしてみよっか」

「いいんですか」

小谷は嬉しかった。もう一度ジュピターを今度は準備室で演奏した。原はその音を聞きながら、即興でリズムを刻んでいった。原は曲調に合わせて最初めは弱く叩いた。同じメロディーを繰り返す2回目からはだんだんドラムを強く叩きだした。小谷はそれによって自分も気分が高まりながら演奏した。

「大木さんたちとも合わしたことあるんですか?」

「上條さんはないけど、大木さんとはあるよ」

「そうなんですね。二人を見てるとそんな感じがします」

原はこの間、小谷がバンドのライブに来てくれたことで見るめがすこし変わった。とにかく練習する小谷の姿を見て、一緒に演奏するのもいい考えだという事は頭にあった。また小谷の演奏する曲に合わせ、自分も色々考えてアレンジしながらドラムを叩く事が自分の練習にもなった。小谷も今は間違えたとしても別に何も言われない。伸び伸びと演奏できる状況がよかった。三年が引退する現実味がでてきたいま、クラブ活動の今後のあり方を原と小谷は考える時期がおとずれようとしていた。

「違う曲もいいですか?」

原はうなずいた。小谷はトロンボーンをだし中学校で覚えた別の曲を演奏した。


 大木は授業が終わると上條のクラスに行った。大木が上條にクラブに行くかたずねると、上條は行かないと答えた。

「そしたら一緒に帰ろっか」

「いいけど、ちょっと戸口先生に用があるから待ってもらっていいかな?」

大木は了承し職員室の前で上條を待つことにした。大木は最近、上條がいつもと少し違うことを気にしていた。自分が何か迷惑をかけてしまい、怒っているのかもしれないと考えたりもした。しかし、話せば無視されるわけではなく、普通に話してくれる。このままでも何かギクシャクしそうなので、一緒に帰って何かあったのか聞いてみようと考えた。数十分ぐらいで上條は職員室から出てきた。

「ごめんごめん、お待たせ」

二人は自転車置き場に向かった。それぞれの自転車に乗り校門を出ようとした時、音楽室の方からドラムとトランペットの音が聞こえてきた。

「おっ、あいつら練習してるやん」

上條は音楽室を見上げて言った。

「大丈夫?最近何か元気がないような気がするけど」

「ああ、ちょっと色々あって」

父親の事はまだ話していなかった。できれば黙っていたかったが、やはり大木には話すことにした。

「父さんが末期癌みたいで、ちょっとまずいねん」

大木は唖然とした。どう返答していいのか、とにかく言葉が見つからなかった。

「そうかー」

自分の親が頭にうかんだが、まだ死ぬことなんて想像もつかなかった。夏には上條が危険なめにあった。今度は父親がそんなことになるのかと上條がかわいそうになった。

「今日も病院に行くの?」

「家に帰ってどうするか決めるわ」

大木はどっかの飲食店にでも行こうかと考えていたが、誘えなかった。

 上條は大木にあとひとつ言いたい事があった。

「さっき先生に話したことやねんけど…」

自転車で並走しながら進んだ。いつもとは違い真剣に話す二人の姿があった。

 やがて上條といつも別れる分岐点が近づいてきた。

「じゃあ気をつけてね」大木は上條に言った。

「ああ、じゃあね」上條は親友の大木には言っておきたかったので、今日話すことができてよかった。そして大木と上條はそれぞれの道に別れて帰った。

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