焚火
上條はショルダーバックの中から、アロマキャンドルを取り出した。
里崎からもらった白い小さい円柱のキャンドルだった。病室だが個室だし大丈夫だろうと、お皿をひいてキャンドルに火をつけた。白く明るい部屋にぽつりと小さい灯火が輝いた。
「どうしたんそれ」
「学校でもらってん。」
二人はそのキャンドルの火を見つめた。小さな火がゆらゆら揺れながら輝いた。火が小さくなり消えそうになるかとおもうと、火が大きくなり、再び輝きを取り戻す。そうしていると、病室に甘いバニラの香りが放たれた。
「あっバニラの匂いや」
「へーこういうのがあるんや。」
父親はアロマキャンドルを眺めながら言った。その火を見た時キャンプに行った事が懐かしく思った。
「昔、二人で初めてキャンプに行ったなー」
「覚えてるよ。小学校一年の時やったかな」
「寒かったから焚き火して二人で何か話したな。あの時を思い出すよ。お父さんがキャンプに行きたくなって、優がついてきてくれてたんが嬉しかったよ」
「俺もキャンプ行きたかったし」
「ライト一つの明かりで料理して失敗した事が、優にはかわいそうやった。一緒に寝袋に入って寝てくれたことが幸せやったなー」
「それはもうないなー」
今、優と二人で話せることが嬉しかった。一人息子なので余計にかわいいのだろう。
「色々遊びに行ったけど道に迷ったり、結構迷惑かけたなー」
「いいよ別に、楽しかったし。」
「そう言ってくれて嬉しいわ」
甘いバニラの香りの中、二人で語りあった。父親と話をしている中で、上條は父親の眼差し発言を聞くと、もうダメかもしれないと思うようになった。なぜ父親がこんな病気になったのかと悔しかった。もしかしたら会えなくなるかもしれないと頭によぎる度に、大丈夫だと打ち消した。今この香りの中でまだ父親と話せる状況が心地よかった。
「バイクの免許とるよ」
「バイクかー、気を付けろよ」自分は20歳の時、バイクで転倒した。病院に運ばれたが後遺症などは幸いなかった。そこからバイクに乗るのをやめた。しかし、どこか諦めきれない思いがあった。
「バイク買ったら、後ろに乗せるね」
「優の?」父親が笑った。
「だから元気になってや」
「ああ、頑張るわ」
少し目が輝いたような気がした。
何時間二人で話しただろうか。窓の外に夕焼けの景色が見えた。上條はふっと息を吹きかけアロマキャンドルを消した。火が消え、黒い一本の細い煙がすっと小さく広がった。。父は誕生日ケーキのろうそくを消していたころの息子の姿が脳裏に映った。
「お父さん、今までありがとう」と上條は言いたくなったがやめた。まだ望みは捨てなくなかった。
「何かしてほしい事があれば遠慮なく言ってや」
「ああ、ありがとう」
病室に広がる香りのもと、終始優しかった父親と話し、その声を聞いた上條は満足だった。
「また来るね。」
上條は笑顔で手を振り病室をでた。父の顔が見えなくなると何故か分からないがすぐに涙が流れた。
(お父さん…)