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音のない音楽室で  作者: ku-ro
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病院

上條は大学病院の入口を探した。植木がきれいに剪定してあり、きれいな病院だと一目でわかる。母親は用事の為、上條一人で病院にきた。行きしなの電車で父親の事を考えた。

数年前に腎臓癌が見つかった。早期発見、摘出手術で回復した。家族は覚悟したが助かった。しかし、数ヶ月前の検診で新たな癌が見つかってしまった。父親は命にかかわるぐらいな状況だという事は認識していた。上條と母親も覚悟しないといけないと個々に思っていた。そして父親は抗がん剤治療の為入院した。学校で友達に会うと父親の事が紛れて悲しみは薄れる。しかし、父親がいない家に帰ると悲しさと心配な気持ちが溢れてくる。

病室の番号は母から聞いた。エレベーターを降りて院内を歩いた。たくさんの人が入院している。今から手術する人もいるのだろう。父親が同じ状況にいてることにより、周りの入院患者を見る時には同情してしまう。父親の名前だけが書かれた病室を見つけた。(あー本当にいるんだ)と気分が落ち込む。病院のこの匂いがなおさら後押しする。ドアを開けた。父親はベッドの頭側を背もたれの様に上げて座っていた。

(ゆう)、来てくれたんやー、ありがとう」

父は笑顔で上條を見た。髪の毛はスポーツ刈りに散髪してあり、その顔を見た時、また痩せたように見えた。

「頼まれた着替え置いとくね。ご飯たべてる?」

子供の時に、腕にしがみついて回転してもらう事が楽しかった。そんな体格のよかった父の姿はなかった。43才、まだまだ働ける年齢だ。就職も決まり社会人として世にでる。 アルバイトとはまた違う責任がある。また学校とは違う困難やしがらみがあることは今のバイト先で重々感じている。工場で働く父親に相談できることが支えになると思っていた。母親に父の病を知らされた時は、頭が真っ白になり、何も考えられなかった。今父親に何をしたらいいのか、1日1日考えながら過ごしてる。

「就職決まってんなー、頑張りや。」

「うん」

「体痛むん?」

「ああ」

体は痛い時もあり、薬の影響でむかむかして気持ち悪くなる時もある。しかし息子の前ではあまり言いたくなかった。あの小さかった優がこんなに大きくなったことに今さらながら驚く。父親として何ができただろう。子供の為に休日は時間をとってどこかに行った。まだ優の為にしてあげないといけないことがあると考えていた。しかし癌が再発してしまい、目の前にいる息子の成長をここまでしか見られないかもしれないと思うと、無念、涙が込み上げてくる。

「俺、お父さんの様になりたいよ」

「お父さんのようにか?」

上條は言いたかった。いろいろ遊びに連れていってもらった事をよく覚えている。そして自転車からはじまり野球、将棋、競馬なども教えてくれた。私学なので裕福な家庭が多い。まわりと比べると、家の大きさなど劣るところは否めない。しかし、上條はそんな事は気にしなかった。父親が嫌いだとか仲が悪いとか聞くときがある。中学校の時は、考えも未熟な面もあり親に反抗した時もあった。しかし、しっかりと自分の考えを持つようになったと親が理解した時から、うるさい両親が特に何もいわなくなった。

「お前ももう大人やから、していい事と悪い事ぐらいはもう分かってるやろ」

その言葉を父親が言った以来、何かきつく怒られるということはなくなった。それ以降自分も自己責任で行動しないといけないと自覚した。そして親に迷惑だけはかけまいと心に決めた。

「あっそうや」上條がおもいだして、ショルダーバックを開けた。

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