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音のない音楽室で  作者: ku-ro
10/26

新風

 上條、原、小谷がいつものように音楽室にやってきた。

上條の顔の擦り傷は消えていたので、二人は夏休みのことなど知るよしもなかった。まだ暑い日が続いている。エアコンをつけ三人はイスに座った。

「大木さんは?」

「もうすぐ来るんちゃうかな」

 そんな会話から始まった。長い休み明けだが何も変わらないメンバーがそこにいた。

音楽室のドアが開き大木がきた。その後ろに女の子が一緒に入ってきた。

「あれっさとちゃんどうしたん?」

上條がすぐに言った。

「野球部は夏の大会で引退でしょ。来てもいいよって言ってくれたからきたの」

 里崎と大木、上條は一年生の時同じクラスだった。二年になり上條だけが違うクラスになった。里崎は一年から野球部のマネージャーだった。小柄でショートカット、日に焼けた肌がスポーツ系女子という容姿だ。

「久しぶりに音楽室に入った気がする」

「音楽の授業は一年だけやからなー」

上條は答えた。校内で里崎とすれ違うが、軽く手をあげて挨拶するだけで話すのは久しぶりだ。大木と仲がよく、野球部に行かなくていいなら、吹奏楽部に来てみるっと冗談のつもりで言ったら、「いいの?」っということになり音楽室に案内した。

 里崎は緊張などしない、原、小谷と自己紹介をして大木の隣に座った。

「吹奏楽部なんてあったんや」

「あるよー」上條が答えた。

「楽器の音とか聞いたことないよ」

「防音設備がしっかりしてるから外に聞こえへんだけやわ、私学はお金持ってるからねー」

 上條は里崎と久しぶりに同じ教室にいることが嬉しかった。

「野球部はしんどかったん?」

「最初はね。二年からは慣れてきたからましになったけどね」

「上下間系は厳しかったんですか?」原が聞いてみた。

「男子はあったよ。」

「うちらないもんなー」上條が言った。

何も話さない小谷に向かい里崎が「先輩やさしい?」と聞くと小谷は「はい」とだけ答えた。

「前々から聞きたかったんですが、大木さんたちが一年の時は先輩はいたんですか?」

「二人だけ三年がおったよ」

「厳しさとかはなかったよ」大木も懐かしむように言った。

「まあ受験やしほとんどクラブには来んかったけどね。幽霊や幽霊」上條が笑いながら言った。

「練習熱心なクラブやったら入ってないかなー」

大木の言葉に上條、原はうなずいた。

いつもは男子だけだが里崎が来たことにより、いつもの雰囲気が一変した。誰も楽器を触ろうとはしなかった。

「演奏会とかないの?」

「あるみたいやけど出たことないよ」

「えーそうなんだ」

「昔は凄かったみたいやけどね、まあー昔は昔、今は今やなー。出たいならでたらいいし、その時の部員の思い次第やね。次は原と小谷が考えて決めたらいいんとちがう」

原は笑いながら「僕は今のままがいいですが小谷君がやる気なら考えますけど」と答えた。

急に自分の名前がでたので小谷は驚いて話した。「できそうなら出たいですけど」

「おっ前向きやなー!!」上條の声が少し大きくなった。

大木は小谷がコンクールに出たい気持ちがあった事を初めて知った。自分たちも一年の時は実質メンバー二人でコンクールなんて思いもよらなかった。そのながれで今に至っている。小谷に対して何か申し訳なかったかなと思ってしまった。

「これから窓開けてトランペット吹いて部員募集やな」上條が小谷の顔を見て言った。小谷も今のままでは変わらないと自覚している。出たい気持ちと無理だろうと諦めの気持ちが早くも交差した。

「最後の試合の後は泣いたん?」上條が里崎に聞いた。

「少しだけね」強豪が対戦相手だったという不運もあったが一回戦で負けてしまった。あんなに練習したのに一回も勝てなかった事が余計に悔しさとやりきれなさが涙となった。

「うちのクラスの石田は泣いてた?」

「泣いてたよ」

「えーまじでー、あいつ泣くんやー」

その時大木は夏休みの事を上條が言ったらどうしようか、どう返答しようか考えた。勿論上條は大木の涙の事は頭にあったが、この事は口外したくないと決めていたので言う事はなかった。里崎が野球部をはじめ他のクラブの活動や噂話しなどを面白く話してくる。大木と上條は他のクラブ活動などまったく興味はなかったので、里崎の話す話題が新鮮で楽しめた。

「また来ていいかな?」里崎は原と小谷に向かって言った。

「いいですよ」原が笑顔で答えた。

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