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反乱の噂

「りゅ、竜吉公主様、た、大変なことが起きましたッ!」


 竜吉公主が部屋の中でくつろいでいると、赤雲女が声を荒げながら駆け込んできた。いつもは緻密にまとめられている長い黒髪が、ところどころ変な方向に垂れ下がっている。荒々しい呼吸をして、声も僅かに(かす)れている。


「あら、赤雲女ちゃんが珍しい。何か楽しいことでもあったのかしら」


 円形の木製の机に座り、竜吉公主の話し相手になっていた碧雲女が、甘ったるい声を出す。


「赤雲女。世の中には慌てる必要があるようなことは無いんじゃ」


 竜吉公主も赤雲女を窘める。だが、赤雲女は怒りもしない。普段より顔を上気させた状態で話し始める。


「竜吉公主様は、楊戩様をご存知ですよね」


「当たり前じゃ。ついこの間も会ったばかりではないか」


「性格はどう思われますか?」


「ふむ」


 赤雲女に問われて竜吉公主は首を傾げる。


 楊戩の性格は知っている。だが、その性格は本物か判らない。竜吉公主らが知っているのは余所行き見せ掛けだけの性格で、本来は複雑怪奇で容易に理解できないような性格かもしれない。


 竜吉公主は、いくつもの楊戩の姿を思い浮かべて推測してから単純に考えることにした。


「比較的判りやすい性格じゃ。裏表が無いとも言える。謀略は好きな方じゃが、陰湿な手段はあまり好まないのう。正攻法で相手を罠にかけるのが好む」


 赤雲女は、竜吉公主の分析を聴いて何回か頷く。楊戩の重大な話を暴露するのかと思いきや、唐突に話題を変える。


「国に関してはどう思われますか?」


「どうとは?」


「明日にでも滅ぶと考えられますか?」


「そんなことはないじゃろ。問題はたくさんあるし、皇帝もあんな調子じゃし、清廉で勢いがある国とは言うことはできまい。だがの、悪事に手を染めていない役人も沢山いるんじゃ。それに、数は少なくなったかもしれないが、勤勉な役人にもおる。だから、もし、国が滅亡するようなことがあるのならば、それは真面目に働いていた役人たちが耐え切れなくなって反乱を起こした場合じゃろな」


 竜吉公主は烏龍茶を飲みながら答える。一息つきながら考え込んでいるかのようだ。


「その、そのですよ。国を滅ぼそうと……、その、その楊戩様がですよ」


「赤雲女、何それ、鶏の真似でもしているつもり?」


 赤雲女が話を進められないのを碧雲女がからかう。しかし、赤雲女は烏龍茶を優雅に飲んでいる碧雲女を一瞥するだけで、身を乗り出して竜吉公主に身を寄せる。


「よ、楊戩様が反乱を起こしました。北部辺境の地にて北州総管を巻き込んで挙兵したとのことです!!」


 赤雲女が声を荒げながら報告すると、碧雲女は、豚の鳴き声を出して飲んでいた烏龍茶を水鉄砲のように吹き出す。水流は勢いよく赤雲女の頬にあたると周囲に拡散される。


「な、何すんのこの馬鹿」


「あ、あんたこそ、楊戩様が反乱を起こしたなんて、て、て、適当なことを言ってんじゃないわよ」


「ちゃんとした情報に決まっているじゃない。碧雲女(あなた)と一緒にしないでよ」


「なら、その情報源を連れてきなさいよ。今すぐ、ほら」


「できるわけないでしょ。って、その前に謝りなさいよ。人の顔にお茶かけたんだから」


「わかったわよ。あー、ごめん。はい終わり」


「何その謝り方、心が籠ってないじゃない。いい加減この上ない」


「そう? そんなのどうでもよくて」


「この際だから言わせてもらうけど、碧はいっつもいい加減で適当なのよ。そんなところがね……」


「あんたが堅物すぎるんだって、私だけは特別、みたいな顔しちゃってさ……」


 赤雲女と碧雲女は言い争いを開始する。丸机を挟んでいなければ掴み掛って殴り合いだしても不思議ではない状態だ。


 その時、突然、大量の水が二人にかけられた。霧露乾坤網の力で、頭上で満杯の水が入った桶をひっくり返されたのと同程度の水を浴びせかけられる。


 さすがに、二人とも頭を冷やす。前髪から水滴を垂らしながら目を細めている。碧雲女が鼻から勢いよく息を吐き出し水滴を飛ばす。


「ところで、わらわはどの辺りで驚けばよかったのじゃ?」


「りゅ、りゅー様……」


「落ち着いたかの?」


 竜吉公主が手を上にあげると赤雲女と碧雲女に付着していた水分は蒸発する。霧露乾坤網は周囲の水分を集めて網の形状を生み出す宝貝である。故に水を発生させるだけではなく、消滅させることも可能だ。


「申し訳ございません」

「すみませーん」


 赤雲女と碧雲女が頭を下げると竜吉公主はニコリと微笑む。


「このような時、どのような対策をとるべきでしょうか?」


 赤雲女が尋ねる。状況は竜吉公主にとってかなり悪い。竜吉公主が婚姻を反故にされて崑崙山に戻ったことは国民に知れ渡っている。そして、つい先日、皇帝を力づくで追い払った事件も人々に伝わるのは時間の問題に違いない。


 確かにそれだけで、竜吉公主が反乱に加担していると言われる根拠はない。しかし、楊戩は仙界の人である。楊戩と竜吉公主の関連を疑うべき人間もいるはず。それだけならまだしも、噂話の好きな人間らが一緒くたに非難してくる可能性は十分にある。


「逆に訊いても良いかのう。赤雲女はどう思うのじゃ?」


「わ、私でございますか?」


 赤雲女は困惑した表情を浮かべる。目を閉じて数秒間考えてから回答をする。


「楊戩様が反乱を起こした可能性は低いと思います。殺戒がありますから争いごとに加わる可能性は少ないはず。それに、もし、竜吉公主様のために反乱を起こされるのでしたら、一言あってしかるべきです。彼の御仁は権力に対して不遜なところがありますが、礼儀を(わきま)えた人物です。相手に罠を仕掛ける宣言をしてから謀略の限りを尽くして罠に引っかからせるような性格と記憶しています」


 竜吉公主は何回も頷いてから碧雲女に意見を求める。


「そうですね~。直接訊きに行くのはどうでしょう? そうすれば……」


「ちょっと。あんたねぇ、楊戩様は何処にいるか判らないから困ってるんじゃない」


「えっ? 反乱を起こしたのなら、反乱軍の中にいるんじゃない? いなければ反乱軍には関連していないんだから」


「そんな簡単な話じゃないでしょ。楊戩様は反乱に参加したけれど、何らかの伝令の役割をするために不在かもしれないじゃないの。いなかったらどうするつもり?」


「そんなのいないときに考えればいいじゃない」


「だから~」


 赤雲女と碧雲女の話が拗れそうになっていると、竜吉公主が話に割って入る。


「赤雲女、何も考えずに動いてみることも大事なことじゃ。その意味では碧雲女が正しい」


「ほらね。りゅー様も……」


「じゃがの、わらわは赤雲女の真摯さは好きじゃよ。よく考えさせてくれる」


 視線を床に落としていた赤雲女が顔を上げる。感情は読み取れないが、わずかに口元が緩んでいる。


「行ってみるしかないようじゃ。もし、楊戩が反乱に加わっていて殺戒を破るようなことがあれば、仙界も大いに巻き込まれる可能性があるからの。それに、わらわの勘じゃが、このまま手をこまねいてもいいことはなかろうて」


 竜吉公主は立ち上がる。


 戦に興味があるわけでも加わりたいわけでもない。けれども、見ない振りをしているわけにはいかない。無駄な血が流されるのも、その争いごとに竜吉公主が絡んでいると言われたくもない。三行半を突きつけた形の皇帝に再び乗りこまれて詰られるのは耐え難い。


 崑崙山でのんびりと過ごしたいだけなのじゃが。竜吉公主は心の中で呟くと、出立の準備をするよう赤雲女と碧雲女に指示を出した。

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