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怪奇  作者: ミドリのヒト
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怪奇

 御堂まで向かう途中の客間も叔父の私室も障子は開け放たれており、畳も当然外されていた。ということは叔父のいる場所はここでしかない。坊さんであるわけで、日頃の大半は此処に居る事はわかっていた。だが、時たまふらっと何処かに出掛けているせいもあってか障子を開けて中を覗くと姿の見えないこともある。後、叔父の許可無しに御堂の中には入らないよう言われてもいる。

 「叔父さん」

 障子の前に立ち、目の鼻の先の中にいるだろうと予想しながら叔父にも十分届く声をかけてみた。別段叔父の耳に妙な癖でもないであろうが時々聞き取りにくこともある事をつぶやいていたのをふと思いだして、半音高い感じ、そして尾に続くすれ大きく声を出していた。

 しかしながら、身に受けて待つ反応が障子の向こう側から一切起きないため、少々ながら拍子抜けといった様子になった。それでも叔父の有無を確かめたい、なにより御堂内の畳が無いのであればおじは別の場所に必ずいるという決定打にもなる。決して御堂の中にひっそりとお邪魔するつもりではない。障子に手を掛けてゆっくりと引いてみる。予防線に再度「叔父さん」と声をかけながらも。

 すると今度も予想を大きく反して叔父の横顔が障子の引く方向に合わせてぬっと突き出してきて見えた。思わず障子に掛かっている手がびくりと反応して、動きが一瞬だけぎこちなさを感じた。けれどそのままではあんまりなので、徐々に力を込めつつ音も立てないように静かに努めた。障子を開ききる事無く、中途半端な位置ではあるが、そのまま体を前進させて御堂の内に入る。

 鷲、あるいは鷹であろうか。突き刺さるような鋭い眼光をギラギラと両目に、確りとした形を持った鼻。ピンと立つトゲのような耳を持つのが特徴的な塚勇の顔である。体型も兄弟の中ではかなりガッシリとした様子であり、体育系とも言えるだろうその二の腕は寺の天井を支える太めの柱にも匹敵するほどだ。叔父は、御堂の中に入り込んだ俺の方を見向きもせずに、ジットある一点を見つめている様子だった。

 もう一度呼び掛けてみようか?ふと、そう思いつつも、二本足は歩みを止めず、叔父の真横まで近づき、その視線に合わせて顔を向けた。ちょうど仏壇の辺りであった。

 よく見る必要もなく、違和感はしっかりと確実に目に捉えることができた。仏壇の上に祀られていた仏像の一つが力なくぐったりとうつ伏せのまま倒れている。おじの目線はその仏像に向かって刺さるかのようにささげられているのだ。

 「叔父さん、お早うございます。お堂でなにかありましたか?」

 「健か。遅い朝だが、お早う。」

 叔父さんはようやく気がついたように受け答えをしてくれた。そして付け足しも来る

 「それと、ここは”御堂”ではなく、”本堂”だ。前にもその事で話したはずだぞ?」

 「すいません」

 心なし謝りを入れる。よく間違えるわけではなく、わざとである。下手に覚えてしまえばそっちに引き込まれないかもしれないからだ。言うなれば、あまり信条深くない質である。別段神様とかそういうのを絶縁している訳ではない。天気が崩れそうな時とかお腹の調子が最悪な時にはついつい無意識に神頼みしてしまうのはあながち信じる気持ちも僅かにあるということであろう。確信ではないけれども。

 

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