君を追いかけて
君が、遠く離れて行きそうなのは、気付いてた。
夢を叶える為、だよね。
僕はその夢を叶える手伝いは、出来ないのかな。
君と、これから先もずっと、離れたくないんだ。
今までいつも、一緒だったんだ。
僕と君は、幼なじみだからね。
君がいなくなるなんて、こんなに淋しいことは無いだろう。
僕は多分しつこいから、ずっと君を追いかける。
君なら、分かるよね。僕のことなら。
* * * * * * * * * * * * * *
君の夢、聞かせてくれたことは無かった。
だけど、僕は見つけてしまったんだ。君宛に送られて来た、一通の手紙を。
君の家に、いつもの様に遊びに行っていた時。
プルルルルルル……
洸輝の電話が鳴る。
「ごめん、ちょっと待ってて」
「あぁ」
洸輝は部屋を出て行った。
扉が閉まる。その反動で、ベッドの脇から何かが落ちた。
細長い、一通の手紙。
送り主は僕の先輩からだった。
その先輩は、僕の中学時代の同じサッカー部の先輩。
今は弁護士をしている。
いつの間に洸輝と知り合ったのか。
落ちた拍子に、その手紙は読んでくれとばかりに二つ折りが開かれていた。
洸輝はまだ戻っては来ない。電話の相手が知り合いだったのだろうか。
それを良い事に僕は手紙を拾い上げ、読んだ。
手紙には、僕には一言も言ったことの無い、彼の夢について書いてあった。
洸輝は弁護士になりたいのだという。その為に昔から勉強に励んでいたのか。
彼は勉強熱心だった。何の為かは僕に話してくれたことはない。
この先もきっと、言わないだろう。それが、洸輝だから。
手紙によると、洸輝は弁護士の資格を取る為、留学したいのだと言う。
留学なんていったら、もう僕とは会えなくなる、という事になる。
こんな大事な事、本人の口から聞きたかった。
それでも僕は彼のこと、認めてしまうのだろう。
僕は昔から洸輝に甘いから。自分の性格に呆れる。
それから何週間か経った或る日。
洸輝の家で、もう一通の手紙を見つけた。
送り主は又もやあの先輩。
手紙はしまい忘れたのか、机の上に開いて置かれたままになっていた。
洸輝がいない間にそれを読む。
留学することが決まったらしい。あと一年でいなくなる。
僕は将来、彼の助手でも何でもしてやると決めた。
もちろんこの事は洸輝には秘密だけれど。
洸輝が留学の事を何も言わないまま、もう一年が過ぎようとしていた。
洸輝はこのまま黙って行ってしまうのだろうか。
そんなのは許せない。行く前に聞いてやる。
僕は彼に電話をかける。
「もしもし、俺だけど、今良いか?」
「え…今?今は、ちょっと…」
やっぱりもう留学の準備をしていたか。
「何か用でも有るの?」
逆に聞き返された。用?もちろん、有るさ。
「聞きたい事が有って。今から行っても良いか?」
「あ、ごめん。家は無理…。じゃ、外で会おう」
「分かった。そこの公園で」
「うん、今から行くよ」
彼は少しためらいながら、そう答えた。
公園に一人の男が顔を出す。
ベンチに座る僕は手を挙げて居場所を告げる。
洸輝を僕の横へ座る様、促す。
「時間が無いから、聞きたい事だけ聞くよ」
「うん、何?」
「洸輝、お前、留学するんだろ?」
「え…何言って…」
「悪いけど、知ってるんだ。部屋で手紙見ちゃって」
「そうだったんだ…」
俯いて黙り込む洸輝。
「先輩と知り合いだったんだな」
「まぁね」
「洸輝、弁護士になりたいんだろ」
「うん。ごめんね。ずっと言ってなくって」
「本当だよ。隠さなくても良かったのに」
そうだよね、といって洸輝は淋しそうに笑う。
本当に一人で大丈夫か、心配になる。男なのに、か弱い奴だから。
「留学って二年だけなんだろ。ちゃんと勉強して帰って来いよ」
「許してくれるの?」
「許すも何も、お前は自分で決めたら絶対、だろ」
「うん。絶対やめない」
僕は洸輝を安心させる為か、自然と笑顔になった。
洸輝も笑みを浮かべる。
「頑張って来いよ」
「うん」
二週間もすると、洸輝は大空へと飛び立っていった。
次に会うのは、二年後、だな。
大丈夫。あいつには先輩も付いてる。
元気で帰って来る。僕はそれを待ち続ける。
* * * * * * * * * * * * * *
「10時30分着。間もなく参ります」
僕のいる空港で、アナウンスが告げられる。
もうすぐあいつが帰って来る。
僕の元に一人の男が駆け寄ってくる。
そいつは僕に向かって大きく手を振って来た。
僕も大きく振り返す。
「ただいま!」
「おかえり!待ってたよ、洸輝」
「うん。ありがと」
一ヵ月後。
プルルルルルル……
一本の電話が入る。
「お電話有難うございます。神谷弁護士事務所です」
「あの、依頼をしたくお電話差し上げました」
電話は、事件の依頼。
「では、後日こちらへお越し下さい」
ここは、洸輝と僕の、弁護士事務所。
――END――
何となく書いてたらこんなのが出来ちゃいました(;´∀`)>”友情物は初めてだったんで良く出来てるかは不安なのですが…