スターリングラード ~反撃~
パウルス司令はシャワーを浴びていた。彼は日に二回のシャワーを日課としている。
シャワーを浴びながら、彼は昨日司令部に挨拶に来た伍長の事を思い出していた。
(確か北アフリカ戦線に居たという話だったな…ロンメルは無事だろうが、元気にしているといいが。そういえば手紙で戦利品のゴーグルを自慢していたな。生還したら見せてもらおう。)
パウルス司令がそう思っていた頃、ネールバウアー伍長は心臓の鼓動や湧き上がる恐怖心と戦っていた。
そろそろ攻撃を受けて30分は経つだろう。彼にとっても敵にとっても、長い30分であった。
(少し移動するか。)
そう判断し、立ち上がった時彼の頭からヘルメットが…落ちた。
一方ソ連の部隊長は後悔していた。いくら探しても見つからない、これはどうやら取り逃がしたようであるとの結論に至っていたのだった。
周囲の捜索に時間を割きすぎたのが災いしているように思えた。
「貴様らのせいで俺は銃殺刑にされるか敵に殺される!!どうしてくれる!!」
叫びながら狙撃に失敗した部下を小突き回す。
先ほどから部下達は部隊長に怒りの矛先を向けられ、所々負傷していた。狙撃に失敗した部下は既に血だらけになってしまっている。
「部隊長殿!!」
部下の一人に呼ばれ、不機嫌極まりない顔をそちらに向ける。
だが、その部下の報告は彼を狂喜させた。
「物音がしました!!そちらの方向です!!」
ネールバウアーはヘルメットを拾い上げると急いで移動を開始した。
金属のヘルメットはなかなか良い音を立ててしまった。最悪である。
(クソッ!!ここまできて!!)
物陰に飛び込み、敵を確認しようと慎重に顔を出す。
すると、敵の一人とバッチリ目が合ってしまった。
「あそこだ!!居たぞ!!」
叫んだ部下の指差した方向へ、部隊長は射撃命令を下した。
興奮した彼は、当初の作戦を失念してしまっていた。もはやドイツ軍に見つかる危険を避けるという配慮もしていない。隠れていたドイツ兵を仕留めることに熱狂していたのだ。
ネールバウアーは頭を抱え、身体を縮めて銃撃を凌いでいた。
少しでも動くと、そこを狙い撃たれる。
だが、動かなければすぐに接近され、回り込まれるだろう。そうなればお終いである。
ネールバウアーは手榴弾のピンを引き抜くと、先程敵が居た辺りに放った。
同時に踊り出て少し離れた物陰まで走る。これは賭けだった。手榴弾が狙った場所に落ちているか…敵が移動していたら、意味は無くなってしまう。
ネールバウアーは振り返ることなく走った。
射撃姿勢を取っていたソ連兵達の少し後ろに何かが落ちた。落ちた物を見たソ連兵は慌ててその場から逃げる。
が、狙撃に失敗した兵士が逃げ遅れた。爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまった。
耳を抑えて身を低くしていたソ連兵が身を起こすと、仲間の一人が額を撃ち抜かれて卒倒する。
ソ連兵達は一気に混乱してしまうのであった。