表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円卓の騎士勲章  作者: zetsu
第一章 スターリングラード
4/12

スターリングラード ~潜伏~

ネールバウアーを狙った銃弾は、偶然によって彼の頭蓋を貫き損ねたが、彼の窮地はまだ終わってはいなかった。

身を低くして、廃墟の中を走り回る。敵の人数は不明だが、複数人居るようだ。足音の数が多い。

崩れた壁が人の字に重なり合っている隙間に飛び込み、じっと息を潜める。心臓の鼓動が早鐘のように感じられた。

しばらくは呼吸すら忘れていたネールバウアーだったが、幸運なことに足音は彼の居る隙間の側を通り過ぎた。

ニーデルマイヤー少尉の言っていたスナイパー、ヴァシリ・ザイツェフの噂を先任伍長に詳しく聞いていたので、嫌でも思い出される。頭を上げたら即打ち抜かれるのではないかという恐怖が彼を襲った。

(待て待て、奴がもし噂通りの男ならとうに俺は撃たれている。奴ではない。)

深呼吸し、彼は自分の装備を改めて見直した。kar98kが一丁、その予備の弾が30発。kar98kに装着可能な銃剣が一振り。手榴弾が2つに水筒や煙草にライター。後は制服、コート、ヘルメットにブーツ。基地周辺の地図も持っている。

(これでどうにかこの場を切り抜けなくては…)

ネールバウアーは必死だった。

(着任早々死んでたまるかっ!!)

声に出さずに叫ぶと、音を立てぬように身を起こし、慎重に周囲を見渡す。地図によれば基地までの距離は約3キロメートル。ドイツ軍の占拠している勢力範囲ギリギリの地点である。

ここまで単独で来てしまった自分の迂闊さを呪いつつ、活路を探す。

(落ち着け!!まだ手はあるはずだ!!)


ソ連の偵察部隊は見失ったドイツ兵を必死に探していた。ここは前線より更に奥の地点である。ソ連軍基地までは約20キロメートル。徒歩で来ている彼らは援軍を呼ばれると生還が難しくなる。

「クソッ!!」

部隊長は狙撃に失敗した部下を殴り倒した。

この偵察部隊の今回の任務は敵拠点の強行偵察であった。可能であればドイツ軍司令官の抹殺も任務に入っている。

発見されれば援軍を送られるし、当然警戒も強化されるだろう。任務の危険度は自ずと高くなる。

それに何より部隊長は出撃前、フルシチョフ政治委員と対面し、「作戦の成功を熱望する」との言葉を与えられていた。これはソ連で言うところの「失敗したら命は無い」という警告でもあった。何らかの戦果を挙げるか、重要な情報を持ち帰らなければ、帰ることもままならない。

もし発見出来ねば、完全に手詰まりとなってしまう。

「何をしている!!まだ遠くへは行っていないはずだ!!絶対に探し出せ!!!!」

部下の尻に蹴りを入れながら怒鳴り散らす。


ネールバウアーは自分を探しているソ連兵の怒声を聞いていた。ロシア語の意味は分からなかったが、自分を探しているのは間違いないだろう。

とりあえず、声のした方と逆の向きへ移動する。小柄な彼の身体はコンプレックスの種ではあったが、今回のこの状況では有利だった。

移動しながら考える。

援軍を呼ぶ手段はないか?付近に見回りの味方が居れば気付いてくれるかもしれない。派手な爆発でも起こせば味方がやってくるだろう。だが、現実問題手榴弾2個しか持ち合わせていない。

戦うとしても、敵の正確な数が分からないし、敵には居場所はともかく自分一人だということは知られているだろう。そうでなければ攻撃はしにくいはずだ。

突破するか。敵に居場所を知られてない以上、それも手段としては充分可能である。が、下手をすると見つかってしまう。

やり過ごす。あまり派手な動きを取らなければ、見つかる可能性は低くて済む。それにここまで敵が来ているのは大変な問題である。できるだけ敵の正体や目的を探らねばならないだろう。

結局ネールバウアーは敵の探索をかわしながら、ここに留まることに決めたのだった。

先任伍長=先任というのは、簡単に言えば先輩のことです。

強行偵察=敵がいるのが分かっている地域で、詳しい情報を得るための偵察です。

フルシチョフ政治委員=ソ連の政治家。現実世界では後に最高指導者となります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ