スターリングラード ~渋滞~
ニーデルマイヤー小隊は、悪路のスターリングラードを突き進んでいた。
受領したトラックは酷く揺れる。最高速度で爆走している為、路面の凹凸をモロに受ける。
荷台の部下たちの悲鳴や悪態は聞こえないふりをし、ニーデルマイヤーは煙草を吹かしている。
目標地点まであと数百メートル。いきなりタイヤが破裂する。運転手の上等兵がハンドル操作を諦め、ブレーキを思い切り足蹴にする。そうでなくとも、暴れるハンドルとの格闘で辟易していたようだ。荷台から「下手糞!!」「どこで運転習った!!そこを爆破してやる!!」等々の怒声が飛ぶ。上等兵は首をすくめてニーデルマイヤーの方を見るのであった。
「諸君、タイヤのパンクだ。上等兵はよくやったと思うぞ?」
フロントガラスにしたたか打ちつけた額をさすりながら、ニーデルマイヤーが言った。
「とりあえず早急にタイヤを交換する。早く降りられる者は付近を警戒しろ。奥に座っているメンバーは替えのタイヤを引きずり出して作業にかかれ。」
ニーデルマイヤーの指示で全員が動き始める。
レンチでタイヤのボルトを外し、取り外す。スペアのタイヤを転がしながら運んで、取りつければ完了だ。
「隊長はどいていてください。不器用なんですから。」
曹長にそう告げられ、ニーデルマイヤーはボンネットの方に回り、身体を預ける。煙草に火を点け、部下の作業を覗き込む。
その時ニーデルマイヤーの視界に、異変が映り込む。トラックのバンパーに、貫通した銃痕を発見したのだ。
「伏せろ!!!!」
思わず叫ぶニーデルマイヤーであったが、その瞬間、作業にあたっていた隊員の一人が狙撃された。
「全員ヘルメットを着用!!身を伏せて敵を確認しろ!!」
ニーデルマイヤーは命令すると、姿勢を低くし、攻撃を受けた隊員の元へ駆け寄る。大丈夫かとの問いに、隊員は苦笑して掠り傷だと返す。肩口を撃たれているが、弾は貫通しているようだ。
ニーデルマイヤーは自分の着ていたコートを素早く脱ぐと、そのコートで傷口を押さえる。
目標地点まで、かなりの距離があった。敵が居るとは予想していなかったニーデルマイヤー小隊は、思わぬ足止めを食うのであった。
ヴァシリ・ザイツェフは今、若干の焦りを感じていた。救援に向かわせたニコライとオットーが遅すぎるのである。
彼らが手こずっているのか、若しくは既にやられている可能性もある。どちらも考えにくいことではあるが、敵の兵力が予想外に多かった場合や、敵の力量が彼らよりも勝っていた場合、その可能性もあり得る。
敵の偵察部隊の最後の一人を射殺して、しばらく経つ。そろそろ敵の援軍が駆けつけてもおかしくないだろう。というか来たようだ。
索敵をしていたヴァシリのスコープに、こちらに向かって爆走するトラックが映ったのである。
距離は数百メートル。普通の兵士であればとても狙える距離ではなかったが、彼にとっては狙撃可能な距離である。
タイヤに狙いをつけ、引き金を引く。数秒開けて、着弾。トラックは停止した。
丁度残弾が無くなる。ヴァシリは余裕を持って弾を装填する。
そして、再度スコープを覗き込む。敵はパンクしたタイヤを交換しているようだ。
作業をしている敵の一人に狙いを付け、引き金を引く。が、突然風向きが変わった。
「あっ…。」
ヴァシリが狙っていた心臓から少々ズレた、肩口に着弾したようだ。他の敵は攻撃に気付き、身を低くしている。
この距離で身を隠す敵を狙うのは、ヴァシリにも少々難易度が高くなってしまった。一応足止めは出来たようだが…。
「まだか?遅すぎるぞ…。」
ヴァシリの零した悪態は、誰にも聞こえない。
申しわけないです。かなり遅れてしまいましたorz
私事の山場は越えましたので、これからはもうちょっと頻繁に更新できると思います。
拙い作品ではありますが、これからもどうかよろしくお願いします。