雨宿り
三題噺もどき―はっぴゃくはちじゅうろく。
ぱたぱたと、雨粒が傘を叩く。
そこまでひどい雨ではないのはありがたいが、最近はいきなり強くなったりするから油断ならない。それに少し風が強いから、傘をさしていてもあまり意味がないような感じがしている。
「……」
回りには同じように傘をさしたり、屋根のある場所に立ったりして、雨宿りをしている制服姿がいくつか見える。
友達どうして会話をしたり、それぞれでスマホをいじったり、時折目の前に停まる車に視線を送り自分の迎えかどうかを確認したり……放課後だからまぁ、何をしてもいいんだけど。
「……」
私は、いつもだったら、この集団を横目に自転車で帰っている。
この程度の雨なら合羽は着ないで、少し急ぎ目で自転車を漕いで帰っている。
それがなぜ、こうして傘をさして雨風にさらされたまま、立っているのかと言うと。
「……」
今朝がた、さて学校に行こうというタイミングで。
自転車のパンクが発覚したのだ。その前までは普通に乗っていたので、休みの間に何かあったか、何かされたか……された可能性は考えたくもないが、住宅街とは言え最近物騒だからその可能性も考えなくてはいけない。
「……」
それはそれで。
そのせいで、朝から母に迷惑をかけたもので……全く今日が休みだったからよかったものの、仕事の日だったらもう、申し訳なさで死にたくなるかもしれない。
その場合、帰りは徒歩になるのも面倒だ。普段自転車で数十分程かかる距離を歩いて帰るのはさすがに。
「……」
こういう時に部活が緩いとありがたいんだよな。
今日、本来は部活のある日なんだけど、事情を話せば帰ってもいいと言われたし、何なら今日の部活なしにしようかとか言っていた。そこはまぁ、部長の判断なので結局どうしたのかは知らないが。部長は同じクラスなので、その辺色々と楽ではある。
「……、」
屋根のある場所で、他が立っているのも気にせずに、きゃらきゃらと話している声が耳に飛び込む。全くうるさいというかなんというか……しかしあそこに知り合いがいるので気付かれないように私は空気と同化した気持ちで少し離れた位置に立っている。
あの知り合い、私は苦手なんだが、あちらは私を見つけるとやけに絡んで来て面倒なのだ……勝手に仲が良いと勘違いされているようでなんとも。
高校1年の時にクラスが一緒だっただけで、それ以降の関りはないんだけど、見かけるたびに絡んで来て……。
「……」
今日は雨予報が出ていたから、あの子も車で送迎してもらったものだと思っていたのだけど、朝は降っていなかったので自転車で来たらしい。
つい先ほど、自転車で帰路につくあの子を見送った。
「……」
今日は少し肌寒い日だったから、最近は結んでいる髪を今日は降ろしていた。
どれだけ手入れしているんだろうと不思議に思うくらいに、綺麗な黒髪を無防備にさらしながら、自転車で帰って行った。
今日は帰ってから推しの配信を見ると言っていたので、ちょっと楽しそうに帰っていた。
……可愛いなと思った。
「……、」
そんなことをぼうっと思いだしながら、突っ立っていると。
足元に何かがぶつかった。
近くを歩いた人が居たわけでも、何かが飛んできたわけでもなく。
「……ん」
足元に居たのは、いつかの黒猫だった。
相変わらず人懐っこいというかなんというか……今日は雨宿りでもしに来たんだろうか。そこまでひどい雨ではないが、若干体が濡れているように見える。
「……」
しかし今日はかがむわけにはいかないのだ……すでに地面が濡れていてスカートをつかないようにとしても、リュックの底が濡れてしまう。
それでもまぁ、こちらの事などお構いなしに体を擦り付けてくる。もしや体をふきに来たわけではあるまいな……その可能性もなくはない。
「……、」
けれど、それもまぁいいかと思えるのが猫の不思議なところだと思う。
こちらに多少の不利益があれど、可愛いと思ってしまうのは仕方のないことだろう。
あの日にお前が来てくれたことで、可愛いあの子と可愛いお前が戯れているのも見れたしな……今日のところは許してあげよう。
「……」
かがむ事はせずに、ただ上半身を折り曲げて手を伸ばして撫でる。
冷たい表面の奥に、ジワリと熱を感じる。ん―やはり猫はいい……。
「あ!!」
「!」
小さな頭を撫でていると、そんな声が響いた。
私も驚き、猫も驚き、ついでにひゅんと逃げて行った。
嫌な予感は私も猫も感じたようだ。
「あ~猫ちゃんどっかいっちゃった……あ、――ちゃん!」
「ぁは……」
喧しいことこの上ない……なんというか、もう少し年相応のふるまいを覚えた方がいいと思う。小学生じゃないんだから。
傘もささずに、こちらへと寄ってくる。見れば、一緒に居た集団は迎えが来たらしく、いなくなっていた。
しかし関わるのは面倒だ……そう思った矢先に助け船。
「あ、ごめん、迎え来ちゃった」
「え~、」
それをして、私が一緒に車で待つのはあの子だけなので。
可愛くもなんともない、うるさいだけの人とは待つことは出来ない。
「じゃーね」
「ん~ばいばい」
そそくさと歩道沿いに停まった車に乗り込む。
運転席に座る母に良かったのか見たいな顔で見られたが、無視する。
「ありがと」
「……ついでに買い物行っていい?」
空気の読める母で助かる。
今日はほんとに助けてもらってばかりだ。
「ん、どこいくの」
今日はどこにでも付き合わせてもらおう。
お題:同化・猫・傘




