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ロリータ・コンプレックスという言葉自体、結構曖昧な定義だ。学術用語でもないのだから仕方がないことなのだが、幼女や少女を性愛的に見ている事と慈しむように愛する事では意味合いが違うのに殆ど同列にこの単語の中で意味が混在している。そもそも揶揄するための言葉でもあるのだし、当事者である俺にはどうしようもない話だ。……当事者というか、該当者か。


「周りが指をさすのと同じくらい、自虐なさる方のも辛いと思いますがねぇ……いや、この主観も個人差ですね。」


それこそ、個人の趣味のように。

上手いことを言ったつもりか本心で言ったのかを突っ込む隙も与えず、常盤娘は少女然とした態度で分厚いパンケーキにクリームを添えて口に運ぶ。突然上司からSNSで流行っているパンケーキ屋を聞かれた後輩は気が気じゃなかったろうが、儚い犠牲だった。少女が幸せそうにしていられるなら俺としては基本的になんでもいい。


「こういうのもなんですが、今から私を出て行かせるのもなかなかに大変ではありませんか?父から送られてくる養育費代でも、流石にワンルームを借りるくらいはないでしょう。」


夢現にこの状況を楽しむ気もなかったが、一瞬の気の緩みも吹っ飛ばされた。俺もブラックコーヒーではなくパンケーキを、せめてカフェラテを頼めば、もう少し心が安らいだかもしれない。


「預かると言ったのにやっぱり無理だ、なんて言ってるからな、生活費は俺が出す。養育費は勉強や娯楽に少しずつ使えばいい。そのくらいの管理はする。」


「預かると言ったからには腹を括って欲しいところですけどね。先程鴨脚さんのことを誠実だと言いましたが、その展開で事を進めるのは逃げだと思いますよ。」


痛いところを突いてくる。常盤娘の身の安全を守る為に離れるよりも、俺が絶対に何もしないと断言する方が字面は不気味だろうが、約束を果たす方が大人としての責任は果たせる。海外出張から帰ってきた時友人に、「もう一室借りてそこに住ませている。」とはあまり言いたくない。一人にさせたくないから、防犯上の意味でも警察官の俺に大事な娘を預けたのだ。一人暮らしさせてしまっては本末転倒だ。


「勿論無理意地はしませんが……そもそも、鴨脚さんの趣味って、性愛的なものじゃないでしょう。そこまで気にすることですか?」


たしかに、俺の性癖(この言い方も字面が揶揄っぽくて好きではない)が性的趣向というか、性愛に直結するかと言われるとそうではない。少女又は少女のような人が好きと言うだけだ。性の捌け口にしようと思ったことは、一度もない。

でもそれは今までなかっただけで、これから先ないなんて保証もない。石橋を叩いて渡るより、叩き割って再建する様子を観察した方がよっぽど安全だ。この選択に間違いはないと確実に断言出来る方がいい。


「先の話に戻りますが。この土壇場で、もう鴨脚さんの本性は割れているようなものだと思いますけどね。」


「それは、常盤娘の話じゃなかったのか。」


「私の話でもありますし、鴨脚さんの話でもありますよ。お互いに土壇場ではあったじゃありませんか。私は、父親の友人で未来の同居人な警察官にロリータ・コンプレックスだと告白された訳ですが。それ以前に鴨脚さんは、ずっと押さえつけていた趣味趣向のままに好きにできる相手が自宅という自分のテリトリーに上がり込んできたんですから。」


土壇場どころか修羅場で、狩場でしか無かったのに。



「目の前に好物があるのに、いけないことだからと食べないでいるのは結構精神にクる事だと思うんですよ。私に例えるなら、今食べているパンケーキを残して帰れと言われるくらい辛いことだと思います。」


そんなに好きなのか、パンケーキ。逆に、人に揶揄される性癖と同列にするほどの好きなのかは分からないが、まぁそういう人もいるだろう。食欲と同じで性欲は三大欲求だ。喉から手が出る程欲しがるやつだっている。

そう自分がなった時の事を考え、早々に自宅ではなく、普段は絶対に来ないSNS映えするカフェに場所を移したのだから。


「そもそも、性愛で少女というカテゴライズが好きな訳でもないという話だったじゃないですか。」


「まぁ……今はそうだな。」


「昔がそうだった訳でもありませんよね。鴨脚さんのご趣味はそれこそ、少女がビスクドールを可愛いと言うくらいのものだと想像します。まぁそもそも、犯罪を犯していないなら性的な目で見たところでダメではないですけどね。」


「駄目ではなくとも、そんな性的趣向の人間と同居するのは正気の沙汰ではないな。」


「鴨脚さんは違うでしょう?」


「だから、」


「ですから、」


さっきから話が堂々巡りだ。話を逸らしたと思えば着地点は"そういう目で見ていないなら問題ない"になる。こいつ、話を聞いてはいるがまるで意見を揺るがそうとしない。父親の友人で警察官という属性でそこまで信用するか、普通。


「父親だから安全って話も変な話ですけどね。父親が娘を性的に搾取する事件だって、多くは無いかもしれませんが少なくもないと聞きます。私のこういう知識は基本フィクション産ですが。」


ないといえばそりゃあ嘘になるが、あれはロリコンかどうかの話ではない……はずだ。管轄が違いすぎて動機まで俺に回ってきた事がなく、それすらフィクションと言われたらそうとしか言えないが。


「私がブラウスにロングスカートなんて清楚で少女らしい服装を好んで着るように、鴨脚さんもそのくらいの軽さで少女という概念が好きって思うくらいは、別になんの問題もないんですよ。どうぞ、家に等身大の好みどんぴしゃな人形がいるくらいに思っていてください。」


鴨脚さんの心配事は、ロリコンと少女が暮らさなくても起きえます。その理屈で言ったら男女は男女間の間違いがないように全員別の家で暮らすべき……という思考になってしまいますよ、と続けて発言してから少女然とした振る舞いでカトラリーを置き、


「SNSの情報操作に情緒を掻き乱されすぎです。法律に違反して迷惑をかけていなければ、個人の趣味趣向は日常生活の選択肢を狭める理由になりえません。」


13歳の少女は、37歳の大人を諭した。


又は、説得した。

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