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第8話 ギリギリ保護してもらえた

(この黴玉、どうしよう……しかし、邪魔な視線だな) 


 ロープで縛られたザンム団長とサブジロンは良いとして、護衛達からの視線が痛いぐらいに突き刺さる。


「サブジロン、お前の黴玉、放置しても爆発しないんだろうな?」


 護衛隊長がナイフをちらつかせながらそう問う。


「自動マナ吸引機能、自己保持機能は付けてあるんで、暫くはあのまま維持されるはず。

 よくよく考えてみたら、なんであんな魔法を取ったのか分からんです。

 面白そうだと思ったけど、自分まで黴だらけとか意味分からんです」


 それ、典型的なマッドサイエンティストあるあるじゃねえかよ。


「で、あのスライムのボール? に入れてて大丈夫なのか?」

「それはスライムに聞いて下さいよ。あんな意味の分からん回避方法があるのは面白いです、勉強になりました。ありがとう」

「礼ならスライムに……」


 礼とかいらんから、この身の安全保障プリーズ!

 そうだ、『お礼なら 条約結ぼう ほととぎす』、これでどうだ?


 クッ! お前ら俺をガン見してるのに、俺の目力だけじゃ誰にも言いたいことが通じねえ!


 あっ、それより俺の体、カビてないよね?

 中のスライム液、一回全部入れ替えしなきゃ不安が残る。どこで液の交換できるんだ?

 カビてないスライムを捕まえて、中身だけエクスチェンジ? なんか人工透析みたいだな。

 でも、黴玉のせいでバイオハザードなリーサルウェポンになったら、人目を避けて生きるしか選択肢が無くなるんだし。


「それで隊長、あのスライムはどうするつもりで?」


 護衛隊員の一人が俺を指さした。人に指を向けたらダメって教えられなかった? スライムは別?


「結果的には我々を黴から守ってくれた訳だが……」

「バッチイっすね」

「そうだな」


 俺もそう思う。今回は縁がなかったと言うことで、この人達とはバイバイするのが一番良さそうだ。

 むさ苦しいおやじ達には用がない……が、馬車の方に向かってズルリと進む。俺のとあるセンサーが馬車の中に美少女がいると告げているのだ。


 ……嘘吐きました! 俺にはそんな機能はありません!

 心配そうな少女の声が聞こえたから、そっちを見たら馬車の窓が開いて結構な美少女が顔を出したんです!


 すると、

「キャーッ! スライムよ!」

と黄色い悲鳴。照れますね。


「誰か早くあれをやっつけて!」

と、何故か『俺抹殺指令』を発動しやがった。


 くっそっ! この世に神は居ないのかっ!

 そうだ、どこかにプラカードは落ちてない?

 僕は悪いスライムじゃねえっ! て書かないとマジ消されるかもっ!


 彼女の声にショックを受けて思わず立ち尽くす。

 周りから見れば立ち尽くしたのか、単に止まっただけなのか判断は付かないだろうけど。


「あら、あのスライム。貴女の言葉を理解しているのかも」


 少女の向こうに見える顔は母親だろうか、どことなく二人には似たようなイメージがある。


「ギルツ隊長、その変わった色のスライムは何かしら?」


 日焼けおやじがマダムの上品な声でそう問い掛けられると、

「どうやらこのスライムが盗賊団の団長ザンムを攻撃したらしく……お陰で生け捕りに出来たのですが。

 スライムがそんなことをするとは信じがたく……しかも色々とおかしな個体のようでして」

と、困った様子で答える。


 俺はその場でエヘンと胸を張るが、誰にも気付かれない。


「そうなのね……」


 マダムがじっと俺を見つめる。品定め?

 それとも異世界らしく鑑定スキルか何か?


「そんな色のスライムなんて聞いたこと無いわね。

 ひょっとしたら特殊個体かも知れないわ。

 危険が無いのであれば、保護して観察してみましょうか。

 その子はギルツ隊長や隊員には危害を加えていないのでしょ?」

「はい、最初にザンムの頭に飛び乗って驚かせただけのようです。

 ただ……」


 隊長、さっさとゲロしちゃいな。吐けばすぐにラクになるぜ……って、俺のことで悩んでるのか?

 勿論分かってたさ、ハハハ……いや、深刻な場面って昔から苦手でさ。


「何とかハンジョーのことですね?」

「はい、その後にサブジロンの黴玉魔法を取り込んでしまって……その何と言うか……異常行動でして。

 恩はありますが、下手に知能を持たれても困るので、始末しようかと」


 フムフム、利口すぎる坊やは嫌いだから消せってことね。確かにそうだ、そう言う奴って、いつ牙を剥かれるか分からないし。曹操だって楊修を斬ったんだし……あっ、冷静に評価してる場合じゃないじゃん。

 この人、俺を消そうとしてるんだよね?


 マダムの視線は、俺と黴玉風船を行ったり来たり。


「その黒いボールが、スライムの封じた黴玉ですね?

 ならば、その子……が私達の命の……恩人ですわ。

 魔物だからと言って処分するのも……スライム浄化槽にでも入れて置けば暫く生き続けるでしょう」


 何だって?


 まさか、黴まみれになって社会的生命の危機を救った恩スラの俺を、トイレの処理に使うつもりかよ?

 そうでなければスラ・即・ダンだった?

 さすがにそんな使われ方はゴメンだと、大きく首を振って拒否を示す。


「フフ、やはりその子、言葉を理解出来ているかも知れないわね」


 どうやら母親には俺の意志が分かったみたいだ。

 『言語理解』スキルとかあるのかな?

 それだったら……英検三級の実力見せたる!

 ナイストゥミーチュー! アイムジャパーズ!

 アイムファイン! サンキュー!

 

「そうね……特務機関でこの子の生体を調べさせてみましょうか。

 荒事には向かなくても何かの役に立つかも知れないわ」


 知ってた、全然通じてねぇっ! 少しは眉でも動かしてよっ!


「ええっ? お母様、正気? スライムに言葉が分かる訳ないでしょ? どこに耳があるの?」


 あ、それは俺も知りたいな。

 俺の解析だと、スライムに耳は空気の振動を拾って解析する機能があるんだと思うわけ。

 コウモリみたいに超音波を発することが出来ない代わりに目が良い気がする。

 

「特務機関……あのオタク集団か。なるほど、預けるならあそこが適任ですね。

 そうだな、ロンベル、そのスライムを革袋に入れて運んでくれ」

「俺っすか? さっき黴を吸い込んでたから触りたくないんだよなぁ」


 俺も男には触られたくないって!

 でも護衛の中には女性隊員が居ないみたいだから仕方ないのか。ごそごそとクチを開けた革袋を持ってまだ二十歳そこそこに見えるロンベルとやらが近寄ってくるので、先にその中にジャンプして入ってやる。抵抗して捕まえられるより、絶対心証が良いだろ?


 それに、取り敢えず命の危険が無さそうだし、人の居る場所に連れて行って貰えるみたいだから甘えさせて貰おうか。


「あの皮、綺麗な緑色だし、お皿の飾り付けに使えそうでしょ」


 皿? マダムの声がかなり不穏――食材ではなく彩りのために切られるの?


「やめてー! スライムの乗ったディナーなんてイヤー!」

「あら、残念ね」


 名も知らぬ微少女よ、ナイスアシストじゃ!

 狭い革袋の中は意外と居心地が良く、俺は一度アクビをすると知らぬ間に眠ってしまった。



「隊長……あの黴玉、どうすんです?」

「下手に触って被害に会いたくないだろ? ……そう言うことだ。

 で、だ。ロンベル、悪いが先触れに出てくれるか?」

「イエッサーっ! 黴の無い所に行けるなら喜んでっ!」

「……少しは本音を隠せ」

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