第6話 人恋しくて、テンプレイベント参加します
冗談はさておき、野を越え丘を越え、進み続けてついに前方に人と馬の姿を発見!
あれが馬車か。リアルで見るのは初めてだ。
その隣では、何やら道の真ん中で二つのグループが踊っているような……あっ、一人倒れた。
良く見てみれば、手には銀色に光る物体が握られていて、それを互いに振り下ろしたりして危ない踊り……あぁ、あれは剣舞だ。
シュパッ! あ、腕が飛んだわ……ガチなやつね。
こんなテンプレを、まさかこの目で見ようとは……
ならばこの機会を見逃すなんて勿体無い!
俺は迷わず猛スピード……のつもりで高速ハイハイ、たまにジャンプで近寄って行く。
偶然だけど、その途中で半端な禿げ頭で性格悪そうなオッサンが草むらに隠れているのを見つけた。
オッサンの手には弓矢が構えられていて、馬車から出てくる誰かを狙っているのではないか、と当たりを付ける。
話を聞いてみないと、実はこのオッサンが良い人で、馬車は極悪令嬢もしくは腹黒商人が乗っているケースも想像してみた。
でも、取り敢えず第一印象に従い、弓の狙いを定めようとしているオッサンをどうにかしてみようと思う。
幸い、オッサンは草陰に隠れるように片ひざを着いているから、ジャンプしたらギリギリ頭に乗れるだろう。
せいのーっ! トウッ! ポテっ。
あっ、頭までは届かないか。それなら、まずは腕か肩に着地して、それから頭に『パイルだーっ!ドーン!』
あっ……しまった、脂ぎっててバッチいかも。
「うわっ、何だっ!」
突然頭に何かがポトンと落ちてくれば誰だってビックリするかも。
このオッサンも例に漏れず、リアクション芸人ばりに叫ぶと弓と矢を放り投げて立ち上がって頭の上に手をやるのだが、その時にはもう着地している。
「お頭っ! 何やってんです!?」
突然奇声を上げて姿を見せたオッサンに、その部下が批難の声を上げたがそれが仇となる。
もう分かっているが、彼らは踊りではなく戦闘中であったのだ。
馬車を守るようにして剣を構えていた一人がチャンス到来とばかりに薙いだ剣はバンダナを巻いた男の首をはね飛ばす。
コスプレショーで持つ玩具の剣ではなかったらしい。勿論それぐらいは分かってたけどね。
「一気に畳み掛けるぞ!」
お頭の失態から来るショックのせいか、(推定)盗賊達の統率は無くなり人数的に不利だった防衛側の人達が色めきだつ。
恐らく一対一であれば盗賊など相手にならない実力者達なのだろう。
勝ち目が無いと悟り、我先に逃げ出そうとする盗賊達。それを馬車の護衛達が一人一人と打ち倒していく。
深追いするのは良くないぞーっ、と声を掛けたいが俺は声が出せないので仕方なくお頭と呼ばれたオッサンを体当たりで戦闘不能にしよう……
トオッ!
ペチッ! バタンキュー……
お頭の振った拳が俺のスライム核に衝撃を与え、またブルースクリーン状態となった。
◇
「この、スラ公っ! 邪魔しやがって!」
草むらに身を屈めて潜んでいたところに、突然スライムが頭に飛び乗ってくれば誰でも慌てる。
それが重要人物を誘拐、または殺害する人生最大の任務中であったとしてもだ。
馬車を守る護衛たちは、どこからともなく飛んできた矢に警戒し、積極的な攻勢に出ることが出来ずにいた。
しかしそこへ、盗賊団の団長が間抜けにも立ち上がって姿を晒したのだ。
それに釣られて潜んでいたもう一人の団員も立ち上がり、護衛たちは意味は分からずとも「好機」とばかりに一気に攻勢に移った。
団長の頭から着地したスライムは、続けて勢い良くジャンプしてリーダーの腹に体当たりを噛まそうとしたようだが、弓も矢も手放していたリーダーが反射的にペチッと叩き落とした。
地面にポトンと落ちたスライムを罵りながら団長がバンっと踏みつけるとスライムは動かなくなった。
「くそっ! 作戦は失敗だ! 命を惜しめっ!」
団長の声で攻撃をやめた盗賊団員達が現場から逃走を始める。防具を着けておらず休養バッチリな盗賊団に比べ、護衛達は胴と手足に硬い皮鎧を装備しているため走るにはあまり適していない。
団長はスライムが理由とは言え、自分の不注意が作戦失敗に結び付いたと判断して、出来るだけ団員が逃げ延びる為の時間を稼ごうと剣の勝負に挑むことにした。
その団長を父のようにしたっていた副団長もそこに残り、二人は獅子奮迅の戦いぶりをみせることとなる。
その二人の戦いが終盤に差し掛かった頃――
◇
俺は意識を取り戻した。スライム核の回転は正常だ。
しかし……くそっ、油断したぜ……
物理的な圧迫には、まだスーラーコンピューター『スガク(仮)』の防御コードが対応してねえみたいだ。
まぁ、そもそもそんな物自体、まだ無いのだが。
あの剥げたオッサンに体当たりを咬まそうとしたら、逆にカウンターで地面に叩き落とされ、無様に踏みつけられた。ちくしょーっ!
このままじゃ腹の虫が収まらない。せめてあのオッサンに一泡吹かせてやらねば、スライムの沽券に関わる。俺に何が出来るか分からないが、場を掻き回すぐらいは出来るはずだ。
ふと周りを見渡せば、俺がバタンキューしていた間に状況は激変していた。護衛数人に対して、盗賊はたったの二人。
どう見ても二人の負けだが、それでも恨みは晴らさねば。
「サブジロン! お前だけでも逃げろっ!」
オッサンが仲間にそう怒鳴ったが、この包囲網じゃあ無理だろう。
「分かりましたっ!」
そう力強く返事をしたのは、サブジロン……いや、その名前っ!
誰か突っ込めよと思いつつ見守っていると、モブだと思っていたそのサブジロンが急にやる気を出した。
右腕をバッと天に高く掲げ、掌を水平に開く。その姿は、まるで某作品のキエンザ……。
「さあ、全てを飲み込む地獄を醸そう——『招黴氾醸』!」
敢えてもう一度言おう! その名前っ!




