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第5話 迷子ったら道に出た

 俺の取った行動は、雄ゴブリンの脛にぶつかっただけだった――だがその行動が、あんな最悪の事態を引き起こすなど、一体誰が思い付くだろうか?


 雌ゴブリンの群れに捕まり、無料奉仕を強要された俺は、自己の尊厳を守るために視界と意識を閉ざして青い画面(ブルースクリーン)に身を投じた……つまり気絶していたのである。

 もしこの後に殺されたのなら、今回は運が無かったと潔く腹を括ったのだ。


 ――俺のスライム核に刻まれたゴブリン恐怖症は、今後も決して消えることはないだろう。

 それなら、次の転生を期待しよう――



 ピピピピッ! ……ピピピピっ!


 誰にも届かない目覚まし時計のような音が、最後の一仕事を終えたかのように鳴り響き、静寂が訪れた――



 どこかで何かが鳴ったような……


 スライムコアが静かに再起動する。


 ……なんだ?  妙に核が滑らかに回っている、というか、借り物のPCを使いこなした時みたいな高揚感。

 なのに……あぁ、そうか、きっと慣らし運転が終わって精神がこの体に馴染んだんだ。


 目が覚めた場所は……ゴブ……周りを見るより先に、嫌な記憶が核の中で開き掛けた。

 それを慌てて抑えるが失敗。

 だったら、記憶をゴミ箱フォルダに……残念、動画と違って記憶はファイル単位でポイっと出来るものではないらしい。

 それなら、せめてインデックスに表示されないようになって欲しい。


 どうやら悪い夢でも明晰夢でもなかったようだ……何もかも夢なら良かったのに――

 スライム核がピコっと信号を発した気がするが、きっと再起動完了のお知らせ的なものだろう。


「ん、飛蚊症か?」


 視界に何かモヤーとするものが映った。お目目を動かして確かめ……


「キショーッ!」


 目の構造が瞼方式(適当な命名)じゃなくて、助かった。

 体に何本かムダ毛が残っていたし、手垢か汚れか分からない物がスラ皮のあちこちに固着している。雨でも流れないとはタチが悪い。まさか俺の毛穴に詰まってないよね?


 気持ち悪いのですぐに『クリーン』アプリをインストしたつもりでポイポイした。

 アイツら、人の体で垢擦りまでしやがったな……くそ、許せん。


 しかし、あのままゴブリンの集落にお持ち帰りされることも覚悟したが、ヤツラにはそこまでの知能は無かったか。

 それにスライムなんて、ゴブリンでもその辺を探せばすぐ見つけられるだろう。新たな被害スラが出ても俺のせいではないから。


 身綺麗になったところで、気分一新、改めて周囲を見渡してみる。少し移動しているようだが、見覚えがある場所だと思う。

 いや、正直に言うと、森の中なんてどこも木が生えているだけで同じに見えるのだけど。


 あのおぞましいゴブリン達は欲望のままに俺を蹂躙(エステマシン化)した後、ゴミのようにポイっと廃棄したようだ。

 俺の体は木の股にギリギリのところで引っ掛かっていたらしく、身(じろ)ぎするとポトリと地面に落ちて勢いよく泥水が跳ねた。

 気絶してる間にひとしきり雨が降ったらしい。


 折角綺麗にしたばかりなのに……あっ? ……落ちた衝撃が脳震盪のように核を揺らす。

 痛みは感じないが、スライム核の回転が一時中断した。

 この間もちゃんと意識はあるし、視覚、聴覚も働いている。ただ、身体に指令を出すことが出来ない状態になるようだ。核が止まるとレジュームか。


「雨降って地ぬかるむ、か……」

 

 ただでさえズルズルとしか動けないスライムボディにとって、このドロドロの足場は不快指数マックスだ……でもないか。

 完全防水だし、服も靴も不要だから……おぅ、つまり素っ裸……スライムで良かった!

 綺麗にしても、どうせすぐ汚れる。乾いた場所に出るまで泥被り姫でも構わないか。そんな姫は居ないか。


 取り敢えず、行き先を目覚めた遺跡にしよう。あそこなら雨風しのげて、外敵も居ないだろう。

 それに、知らない筈の場所なのに、どう言う訳か少し懐かしい。そんな不思議な印象があったんだ。だから確かめてみたいと思う。


 この森には俺が絶対勝てない敵が居る……と言うか、俺には攻撃能力が無いからゴブリンにも勝てなかった。だから、ここで何もせず悠長にしている場合ではない。

 でも、しょせんスライム。強くなりたくても急いで出来るものではない。

 生き残る以外に何かを成し遂げる必要も今のところ思い付かないから、遺跡をキャンプ地にして、しばらくは自分より弱い何かを倒して強くなろう。

 これぞ究極の『命大事に』作戦だ!


 そう考えてズルリズルリと進みだしたんだけど、気絶から復帰して何時間か経つと星明かりに照らされ始めた。


 夜空を眺めていると、ふと元々は人間として転生する……そんな会話のシーンが微かに記憶に浮かんだが、すぐに流れ星のように消えていく。

 スライムになったこと自体は悪くないのだが、神様の仕業なら説明して欲しいよね。


 夜は倒れた木の陰に隠れて休み、何かに襲われないかと恐怖に耐えながら夜明けを迎えた。


 それから二時間ぐらい進んでみた。

 おかしい、俺ってそんなに方向音痴だったか? それとも、この森は誰かの大きな掌の上か?

 遺跡に戻るつもりで移動したのに、一向に辿り着く気配がない。

 それどころか、木々の隙間から向こうに広がる草原が見えてきている……つまり遺跡の方向に進まず、森から出てしまったってことだ。


 こりゃ大失敗。


 でもまあ、あの遺跡に懐かしい印象があったのは、きっと映画か何かで見た廃墟のセットに雰囲気が似ていたのだろう。

 戦う考古学者の活躍する映画など、冒険ものならたくさん見てきたし。そう思うことにした。

 決して負けを認めた訳ではない……。

 強くなるって目的も、出来たら良いな、だったし。


 これからのセカンドライフをスライムとして送ると決めた俺が、森から出たのは良かったのか悪かったのか。


 遺跡の廃墟があったのだから、人間が居たの事実だろう……今も生き残っているかは別として。


 サーッと吹く風にツルツルボディの表面を撫でさせながら、試しにポヨ……まだジャンプは無理か……ズルズル……でも、もう少しでジャンプできそうな気がしてきた……ポッ……ペチッ……悪い夢でも見ていたようだ。


 まさか、この世界のスライムはジャンプが出来ない仕様か? それだと……なめく……みたいに俺の通った跡に銀色のスジは出来てないよな? ――セーフっ!


 スライム皮とスライム液の使い方を、有無は不明だが脳内イメージ領域でジャンプ特化に編成し直して――トゥッ!


 ポヨ~ンっ! ――ベチャッ!


 よし、遂にジャンプが出来たっ!

 身長の五倍ぐらい行けたかな? 着地に難ありだし、なんかどっと疲れた気がする。

 大ジャンプは緊急事態以外には使わない方向で、小ジャンプは普段使いが出来るようにこれから訓練しよう。


 ゴブリン相手に使ったブリスル(Bristle)発射ファイヤーでもそうだったけど、この体は皮と液の両方を意図的に操作することで形を変えたりジャンプしたり出来るみたい。

 それをしないとズルリズルリとしか動けないってことだね。よし、把握。


 小ジャンプの訓練と休憩を行いながら適当に進んでいると、道らしき場所に出た。

 コンクリート、アスファルトは使われておらず、石すら並べていない土むき出しの道路だ。所々が穴になって少し湿気を帯びているから、こちらも最近雨が少量降ったのだろう。

 さてと、道に出たは良いが……このまま道なりに進んでも良いのだろうか?

 恐らく民家のある場所に辿り着くだろう。だが、スライムが人に会っても良いのか分からない。『一匹居たら百匹居る』と思われる、あの昆虫なみに嫌われている可能性もある。


 この体に生まれ変わってから、人の食事を食べたいとか、風呂に入りたいとか思うことはなくなった。

 なので、何も無理して町に行く必要性は感じない。

 ただ言えるのは……退屈ってことだな。


 サラリーマンをやってた時の休日と言えば、まる一日寝っ転がってスマホ見てた訳だ。

 なのに現状は毎日が休日、しかしスマホが無いのだから時間が過ぎるのが遅すぎるんだよ。

 ずっと寝っぱなしってのも芸が無いし、折角知らない世界にやって来たわけだから異世界コミュニケーション、取ってみたいでしょ。


 そう思って道から少し外れながらズルリンポヨンを繰り返しながら進んで行く。

 結構歩き続けているのだが、大ジャンプさえしなければ疲れを感じない。

 恐らくこの体には疲労物質が溜まるとか、脳が疲れを感じるとか、そう言う機能が備わっていないのだろう。

 大ジャンプは恐らくスキル判定で、連続使用が出来ないように制限が掛けられているのだろう。


 その反面、水が無くても生きていけそうだから、そちらはとても便利な体と思う。下手したら人類が滅んでもスライムは生き残るんじゃない?

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