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第42話 体力測定、失敗!

「ラグムっ! 今度こそ体力測定を始めるわよ!」


 そう張り切るミッシルさんの右手には、0.5と書かれた鉄アレイが。この丸いスライムボディでそれを持ち上げろ、と?


 有無を言わさず俺の頭頂部の真上に鉄アレイを持ってくる。金属製の持ち手が触れるか触れないかの位置に近付く。


「じゃあ、手を放すからしっかりと支えてね!」

と、俺がそれを支えられること前提で話し掛けてくる。

 いや、話し掛けているのでなく、これは無自覚な命令だな。


「では、行きます! それっ!」「では、行きます! それっ!」


 ぽよ


 ぺちゃっ!


 ギブ! ギブギブっ! 体が潰れるっ!


 ……じゃなくて、潰れたじゃないか!

 俺がスライムじゃなかったら、全身骨折してたから! 


「あれ? そんなに筋力ないんだ? おかしいなぁ」


 ミッシルさんが不思議そうに頭をかしげ、俺を殺しかけた凶器を取り除く。

 持ち手部が俺の頭からお腹にかけて圧縮したせいで、玉ねぎが潰れたよりスプラッタな形になっている。


「私の計算では、1.3キロまでなら耐えられるんだけど。男ならもっと根性見せなさい!

 持ち上げられるまで繰り返すわよ!」


 それ、もう体力測定って言えないからっ!


「少し頭を凹ませてから放せば良いのかな?」


 今度は持ち手部を俺の頭にぐいぐい押し当て、ぴったりフィットさせてから、

「行きます! よいしょっ!」


 結果は変わらず、鉄アレイの刑を執行……。


「むぅっ、私のラグムならもっと出来る!

 出来るまでやるわよ!」


 出来るまでと言われても……確かにたったそれぐらいの鉄アレイで潰れる程ひ弱とは思わなかった。

 でもさ、ミッシルさんの指が第二関節以上もズポッと埋まるぐらい俺の体は柔らかい。それなら簡単に潰れるのが当然だと思う。ミッシルさん、早くそれに気付いてよ!


「これが出来ないなら、スラーリーガー養成ギプスが必要かしら?

 それともやっぱり、ハーネスを作ってもらおうかな。スプリング式じゃなくて、今はウィーン、ガチャンなアクチュエーター式よね。

 それなら手を付けて……ラグムが触手出してくれたら早いのに」


 そんな物を出したら、今以上に便利使いされそうな気がする。俺の必殺技、Bristle(ブリスル)発射ファイヤーも見せないぞ。ただの宴会芸だし。


「持ち手この丸い棒だと、荷重が分散されるからダメなのかな?

 ラグムの頭の形に合わせたブラケットを作ろうか」


 作るのは良いけど、そのブラケットだけで0.5キロあるんじゃないか?


「圧縮試験はやめて、引っ張り試験にしよう」


 ……体力測定の要素が完全に消えたんですけど!

 趣旨が変わってますよね?


「ロープだと局所荷重になるから体が真っぷたつ……外骨格オプションが必要なので……」


 ミッシルさんがそう呟きながら箱から尾錠の付いた、革のバンドを2本取り出した。鞄に付いているようなやつ。


「ジャジャーン! ラグム専用ボンデージスーツ!」


 色々突っ込ませて欲しいけど、一番言いたいのは、ボンデージなんて言ったらダメ!

 

「これを……一番太いところから上下に12ミリぐらいずらして……」


 1本目のバンドを巻き付ける――ギュッ!


 ウプッ!


「うーん、柔らかいから絞めにくいわね」 


 絞まるっ! 絞めすぎ! 首を絞められてるみたい!

 水風船を縛ろうとしたら、圧力でパンッ!てなるよ! 俺、水風船じゃないけど。


「滑って締められないよ。ラグム、皮の一部だけを滑りにくくして。ナンドダロー君♪の時に粘度調整やったでしょ」


 ゲッ! バレてる。どうしてバレた?


「どうしてバレた?とか思ってそうね。

 アナタの考えることなんて、まるっとズバッと半分お見通しよ!」 

と指を差す。


 まさか、エスパーっ!? 


「やらないとカマドウマロースター、生ハム車輪じゃなくて、お尻でシリンダーを回してもらうわよ」


 だーっ! それ、ほとんど火炙りの刑じゃん! やること過激過ぎっ! てか、そんな性格じゃなかったよね!

 キャラ崩壊してるって、全国三人ぐらいのミッシルファンからクレーム来るから少し落ち着こ!


「ね? だから大人しくお姉さんの言う通りにしようね」


 ここで俺の頭頂部をナデナデ。まさかそこから葱が生えないか、と思ってないよね?


 このムチャ振りを蹴ったら次はメスを出すかも。

 仕方ない、何とかやってみよう――


「ベルトの数を増やしたらハム……緑色と茶色の縞模様……ハム……じゃない」


 ウンウン、どう見てもハムじゃない! 俺が緑色の時点で野菜にしか見えないから。……野菜にも見えないよ。良くてスーパーボール?


 そんなことを考えながらベルトを体に貼り付けてみる。今一つフィット感が悪いかな。二本のベルトを縦のラインで繋いだ井桁にするか、いっそのこと幅の広いベルトを使う方が良い気がする。


 カチャカチャ音を立ててベルトを締められて、複雑な気分になりながらテーブルに置かれた錘に目をやる。

 0.5の文字が書かれている直方体。それに穴が空いていて棒を差し込んで錘の数を増やせるようになっている。どうせなら0.1キロ単位で増やして欲しい。



「はい! ベルトのセット完了!

 では、これからラグムが何キロまでの錘を引くことが出来るか、試してみようと思います。拍手っ!」


 ギャラリー? ケージの中から見てる蜥蜴先輩達に、拍手なんて高度な技は出来ないよ。出来るとすれば、愛想笑いぐらいだろ。


「では、先ずは0.5キロから。舞台は樫の木材、滑り止め加工仕様のテーブルです!」


 ちょい待った! 滑り止め加工? 摩擦係数、幾らだよ!

 出来れば摩擦係数は1か、それ未満で頼みたい。


「じゃあ、ラグム、牽引試験スタート! エイ、オーッー!」


 やってやる! ぐぐぐ――


 くそっ! ピクリとも動かねぇ!

 てか、ベルトのせいで液体筋肉に変な流れが生まれて体を動かしづらいんだ。

 あっ! お隣さんの蜥蜴先輩が目を細めて笑ってやがる! 腹立つわ。笑ってすぐ尻向けんな。尻尾しか見えねえけどさ。


 ゼーハーゼーハー……


 もう一回! そりゃっ!

 気合いを入れたから、体は僅かに前に出てる。その分だけ、二本のベルトが食い込んで気持ちが悪い。


「うーん。ダメだこりゃ。どうしてかな?

 ……あっ! もしかして」


 ポンと手を打って取り出して来たのは、俺専用体重計兼上皿秤。


「クラーラにあげたミニラグムの分、体力が落ちたのかもね」


 ボンデージスーツを外して、俺を秤に乗せる。


「やっぱり。1.33キロ。5パーセントぐらい軽くなってる。狡い、究極のダイエットじゃない」


 そう言うと、俺を手に乗せて揉みくちゃした結果、本日二度目のペラナリアと化したのだった。

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