第40話 動く芋と連絡員
「ラグムっ! お待たせっ!」
「よぉ、エロイム元気か?」
今日はセンパイと二人か。センパイ、トマト嫌いだから俺に処分させようってつもりなんじゃ?
食えるもんなら何でも食うけど、肉食いたいな。
また食堂でシチュー鍋をガッシャンって……やってくれたら良いな。
まあ、あんなことはそうそう無いと思うけど。だって、鍋の取っ手がポロリ……俺にとってはラッキーだからね。次はビーフシチュー食いたい。
「さて、今日のメインは……鹿肉の赤ワイン煮込み」
ゴクリっ! 残り汁まで飲みたいっ!
「センパイって、メニュー表は見ないんです?」
「あれか。好物だけチェックして、後はずっとAランチだ。毎日考えるの、かったるいだろ」
「そうですね。Aランチはヘルシー、Bランチは現場の人向けって感じですし。嫌いな物はラグムに任せたら大丈夫だし」
「それなっ! ほれ、トマト食え」
予想通りセンパイが真っ先にプチトマトを俺に押し付けた……え?
昨日までは先に穴……じゃなくて、オクチを開けてから投入してたよね? 今日からショートカット?
「じゃあ、赤玉ねぎのマリネあげる」
コッテリの後にサッパリを食べるから美味しいのに。ミッシルさん、分かってないなぁ……で、俺の体表全体に赤玉ねぎのスライス置くの、酷く無い?
確かに自称玉ねぎ形だけど、そう言う玉ねぎじゃないから。
その後、センパイが悪のりして俺の身体にマッシュポテトを塗りたくった。
俺が食いたいのは、芋じゃなくて肉っ!
芋も接触吸収で食うけど。
「おっ? この芋、動くぞっ!」
視界になる部分のマッシュポテトを食べて、ミッシルさんのお弁当箱にスルリと移動。勿論狙うはメインディッシュ!
「あら? ニンジン食べたいのね!
はいっ! あーんして」
ちがーうっっ! お肉ーっ!
「そう言や、コイツ、前にローストビーフに飛び付いたらしいな」
「そうだったね。お肉好きなのかも」
センパイ、ナイス! 誰かから聞いてたんだね。
「じゃあ、食堂のおばちゃん特製フォン・ド・ジビエの出し殻粉砕ペレットっ!」
「うちのおばちゃん達、飼料とかよく作るよな」
「あれはね、粉砕機のテストも兼ねてるらしいよ。昔は石臼だったけど、今は魔導粉砕機の開発中だし」
「あれかーっ! 誰か腕飛ばしたやつ」
「うん。ローキが入ったらしいよ」
笑って言ってるけど、そこ、世界観っ!
えっ? ペレット、うま……
じゃなくて、お肉のあったとこ! そこにダイブさせて!
「ミッシル、ケチったらソイツ拗ねるぞ。
やるから俺の舐めろ」
「あ、センパイ狡い! 私の舐めていいよ」
「じゃあ、俺のは指でやるか」
ミッシルさんがメインディッシュの汁をスプーンで掬っているうちに、センパイが二本の指に絡ませて俺にグサッ! もっと情緒ってあってもいいよね?
◇
お肉の残り汁を堪能してお昼の休憩が終わった。
「さて、お昼からはお待ちかねの体力測定の続きをやるわよ」
体力測定と言ってるけど、トレーニングを兼ねてるんだよね。
ミッシルさんが鉄アレイを出しているとドアがノックされた。
どうぞ、と招き入れたのは、連絡係のお爺さんだ。
「天馬から連絡が来てましてね。
三日前に頼まれたスライムの話らしいんです」
「スライムの? もう捕まえてきたの?」
「いえ、その反対で。ネックハンギングの森からスライムが消えたって話なんで」
へぇ、そんなことがあるんだ。スライム集団失踪事件?
ミッシルさんみたいな人が乱獲したか、誰かがスライムだけ倒してレベルアップしようとしたか。
「その代わりに、おかしなゴブリンが目撃されたそうで」
「どんなゴブリンです?」
「それが……やたら肌の綺麗なゴブリンらしく。
新種かも知れないそうで、森の立ち入りが制限されたそうです」
スライムが居なくなって……肌の綺麗なGOB……それって……
間違いない、誰かの……俺、知ーらねっと――
「じゃあ、しばらく新しいスライムは手に入らないんですね?」
「近場で、安く仕入れるのは厳しいでしょうか。
浄化そ――」
「ダメです、ブブー」
俺も絶望色に染まったスライムなんて見たくない……どんな色か少しは興味があ……無いっ!
でも、浄化槽があるってことは、地下に下水道があるってことだよな。どんな技術レベルの施設か見てみたい。ウォータージェット加工機があるんだから、工作機械なんか凄いのがありそう。
「最後に、ウォータージェット加工機の利用申請ですが。
却下されていますよ。スライムを切るのに魔道師を十人も出せないと」
……つまり、純粋な科学技術じゃなくて、魔力による力業だったんだ。
で、水流で物を切る機械は動かすのに十人、黴玉魔法を焼却した時に魔法陣の中に居たのは六人。
ウォータージェットの方が戦略魔法の処理より高度な魔法じゃないか! そんな魔法装置でスライムを切ろうなんて、よく思い付いたな!
「これからはスライムが値上がりするかも知れませんね」
「気軽に使えなくなるのは困るわね」
「森の手前の草原で野良スライムを探してもらおうかしら。それなら冒険者見習いの子供達のお小遣いになるかも」
「生きたスライムの持ち運びは気を付けないと溶かされます……よね?」
「ラグムは大丈夫だよ。お利口さんだからね」
俺基準で、スライムのことを考えるのダメだから。
多分、他のスライムは全周囲カメラのせいで処理速度が遅いけど、革袋に入れてたら溶かして出てくるかもよ。
「ラグム、自分の仲間が居なくなったからって、そんなに寂しそうな顔しなくていいわよ。
またすぐ新しいのが来るから」
そう言うと俺の頭を撫でてくれる。
「確かに人に触られても平気なスライムは珍しいかも知れん。
おっと、忘れておった。備品庫からの話じゃが、バントムがミッシルとの仕事を拒否すると言い出したとな」
「えっ? 楽しそうにしてたのに……困ったわ」
楽しそうより、怖そうにしてたと思うけど。とどめは絶対『像のウンチコーヒー飲む?』だろ。
「じゃあ……そうだ、お詫びに一番良いコーヒーを」
ミッシルさんが棚からゴソゴソと取り出した缶をチラリと見た。
恐らく……いや、間違いなくあのイラストは……
「そんな高いものを……」
この爺さんはコレ知ってるのか。ここじゃわりとメジャーなのかな?
何かの袋に豆を入れ換えて爺さんに手渡すと、
「これをバントムに渡して」
と微笑むミッシルさん。
そりゃ、飲めば分かるけどさ。爺さん、大変なミッションを押し付けられたな。




