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第34話 運転開始

 バントムが手でホイールを回してくれた。

 そのお陰で、ハムスターホイールならぬ『スライムホイール』が順調に加速していく。


 シャー、シャーっ!


 軸受けの立てる小気味良い音が、この装置から伝わる振動と共にスライム皮、スライム液を通してスライムコアにまで届く。


 何度か前転したため、折角ミッシルさんが乗せてくれたハチマキは早々にどこかに飛んでいったけど、下手なハムスターより上手く回せる俺にミッシルさんが凄い凄いと喜んでくれた。


「これなら、カマドウマをローストしても大丈夫そうね」

「それなら、シリンダーに入れて下さい」

「どこから入れるの?」

「ホイールを一度止めて下さい」

「分かった」


 ガシッ


 ちょーーーっ!

 ポヨンッ! ポヨンッ! ポヨンッ!

 

 突然ホイールを押さえて止められたから、慣性で飛ばされた俺が何度も跳ね返った。


「ラグム、凄いっ!」


 凄い……じゃないしっ! くっ! 吸着力アップ!


 ポヨンッ! ポヨンッ! ペチャッ!


 円弧になっているホイールに張り付くことで、ようやく跳ね返るのを止めることが出来た。

 実害はない……まぁ、期待していたお約束だし。


「次から止める時は、ラグムさんが走るのをやめる時にして下さい。

 傷むかも知れないんで」


 おー、バントム、君こそ運命共同体ブラザー

 俺は初めからお前のことを信じていたぞ! 痛くないけど。


「このホイールが」


 え? 俺の心配……じゃなかったんかい……。


「それで、ですね。

 シリンダーのここ、パカッと開くのでここからカマドウマを入れて下さい」


 俺のこと、無視するんか?


「ここね。分かった」

「出す時は、シリンダーが熱くなっているので、耐熱手袋を着けて、このロックを解除して下さい。

 シリンダーがポコっと外せます」

「了解、了解」


 ミッシルさんが何故かバントムに俺を渡す。撫でろ、と?

 意味が分からないのか、固まるバントムの手から早々に脱出し、作業台に着地。


 その間に、ミッシルさんが真っ二つにしたカマドウマをタッパーから取り出していた。


「あら、ラグムったらそんなにホイールが気に入ったのね!」


 楽しいけど、そこまででも。


「材料を入れてローストする時は、この炎のマークのレバーを『燃焼』の位置にします。

 それから回転させると火が点きます。火力はこのレバーで調整します。

 説明はそれぐらいですね」

「思ったより簡単ね。」


 ミッシルさんがロースターにカマドウマを入れようとして、はたと手を止めた。


「あ、そうだ、バントム君、何か飲む?」


 カマドウマを持ってる右手を人に向けたら駄目っ!

 バントムも目の前のカマドウマに引いてるからっ!

 そう言や、確か昨日もトラウマさん……じゃなくて、トラネコさんにこのパターンをやってたな。


「それ、カマドウマですよねっ?  飲めませんよ!」

「あっ、これ?  内臓を取り除いて、特製ヒールポーションで五分煮てるから大丈夫」

「カマドウマのヒールポーション煮……勿体無い……」


 やっぱり、それが普通の感想なんだよな……。

 けど、大きな昆虫を安心して食べる為には、それぐらい気を付けなきゃいけないってことなのかも。


「そうかな? まぁ、いいわ」


 今度はちゃんとシリンダーにカマドウマを放り込み、カチッとロックを掛けたみたい。

 それから俺をスラホイールにセットする。


「オッケー。じゃあ、ラグム、カマドウマのロースト、本番行くよっ!」


 今度は『スター・ダスト』の号令でミッシルさんが回してくれた。

 それから10秒ぐらい走ったところで、ボシュッと火が点く音がした。


「どれぐらいの時間で?」

「130℃で一時間ぐらい炙るかな」


 つまり……俺に一時間も走り続けろって?


「うわー、可哀想」


 うんうん、やっぱりお前は心の友(仮免中)だよ。……今度は、俺の心配だよな?


「そうだ、面白いお茶が手に入ったんだけど、飲んでみる?」

「どんなお茶です?」

「んーとね、簡単に言ったら『シルクワームのウンチ茶』ね」

「えっ!?  虫の糞……キショっ!」


 ちょっと、ミッシルさんっ! 知らない人に蚕沙さんしゃを出すなんてハードル高過ぎでしょ。

 もう完全にバントムから『虫好きすぎてヤバい人』に認定されたと思うよ。

 でもミッシルさんはいつもシルクのシャツを着てるから、養蚕業者との繋がりがあってもおかしくないか……無理な理論だけど、そう言うことで手を打とう。……ポン。


「そう言わずに、一杯どうぞ。

 ラグムにはローストが終わったら出涸らしをあげるからね。美味しいわよ!」


 思わぬ被弾っ! グハッ!


 お陰で脚がもつれたじゃないか! ポヨンッ! ポヨンッ! ポヨンッ!


「まぁ、楽しそうっ!」


 見てないで助けてっ!



 体勢を立て直している間に、問題のシルクワームティーがバントムにも出された。彼に拒否権は無いらしい。

 生ハム車輪の中を走りながら、その香り成分を分析してみた。するとヨモギに似ていると、俺のスラ核が富岳並みの早さ(言ったもん勝ち)で弾き出した。


「そうだ、このシリンダーの温度が分かれば良いのにね」


 ミッシルさんがシリンダーに手を翳し、匂いを嗅ぎながらそう呟いた。意外にも美味しそうな匂いがしているのにビックリだ。


「温度ですか……温度によって色が変わる金属、は確かにあります。ありますが、余りにも貴重でして」

「そうなの?

 子供の頃に見せてもらったの。えーとね……あっ、あれは多分マナを流しながら使ってたのかも」

「そんな物があるんですね」


 ファンタジー世界の素敵マテリアル、キターーッ!

 サブジロンの黴玉、黴玉を燃やすイベントでしか魔法を見ていないから、ここが異世界ってこと忘れてたよ。


 スライムに魔法を使う能力があるとは思えない。

 それに、これ以上出来ることを増やすのは、どこにあるか分からない俺のクビを絞めるようなもの。

 もし使おうとして、事故を起こす可能性だってある。自爆したら当てる目すら吹っ飛んだ、なんて絶対イヤだ。


「戻ったらブルックさんに聞いてみて。

 あれば便利、程度だから無理にとは言わないわ。

 経費で落とせるかな?」


 さすがミッシルさん、その前向きさが素敵です。


「ラグム、そんなに急いで走らなくていいよ。フライパンを揺するぐらいの早さでかまわないから」


 え? もう30分は全力で走ってるよ。

 カマドウマの水分が大分抜けたのか、音もカシャカシャに変わってきてるし。

 それにしても、良い匂いだ、海老みたいな。……そういや昨日の定食に入ってたイナゴも、みんな美味そうに食ってたっけ。俺は食ってないけど。


「しまった! 換気扇を回すの忘れてた!」


 カマドウマ一匹ローストしたぐらいなら大丈夫!

 揚げ物をした時みたいに、油の匂いが部屋中に漂うほどじゃないから。でも、食欲を刺激するのは確かだな。

 あの、後ろ脚と髭がやたら長いコオロギ擬きのくせして、こんなに旨そうに思えるなんて。

 走ってお腹が空いたせいなのか、それとも俺がもう「スライム」に染まりきってるせいなのか。


 ここでジリリリリと、内線電話が鳴った。


「あっ、お昼ご飯の注文だ」


 毎日厨房から掛けてくれるのがありがたいね。


「はい、ミッシルです。……はい、そうです、Aランチ大盛りオヤツ付きでっ!」


 ヨッシャ! 今日も俺のお昼をゲット!

 成分分析の結果からも、ここのランチはハイクオリティなんだよ!


「ラグム、お昼から厨房だよ」


 ……また掃除か。あそこの床なら、カーペットじゃないからラクで良いけど。

 てか、俺っていつから予約制になったんだ?

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