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第31話 念願のフライ級

 この世にエビフライは存在しないのかっ!

 その絶望感に脳内で頭を抱えてみる。


「そうそう。ラグムの食後のデザートは豚ガラの肉骨粉ペレットだからね。楽しみにしてて」


 多分、俺なら狂牛病も関係ないと思うけど、牛じゃなくて豚ならセーフ……なんて問題じゃないし!

 出来ればデザートは擦りおろしリンゴがいい。あれが一番消化に良かったし。


「ほれ、オークカツの衣、食ってみるか」


 センパイが俺に穴を開けて衣を投入。

 脂っこいのかと思ったら、意外とそうでもない、かも。肉そのものは無いがサクサクの衣を味わうと、気分だけならトンカツを食べた気に……なるわけがない。そんな物で誤魔化されてたまるか。

 今日のメニューの中にはセンパイの嫌いなものが無いのかな?

 誰かシシトウが駄目だったはず。昨日のメニューに天ぷらがあったような。確か……


「ラグムー、これ!」


 ミッシルさんが細長いフライを嫌そうに摘まんで俺に押し込む。あっ、シシトウだ。ミッシルさんが嫌いだったんだ。


「私も」

「じゃぁ、私も」


 二人がそれぞれ穴を開けてシシトウを突っ込むから、同時に三本のシシトウのフライが刺さってるぞ。順番に食うけど。


「こりゃあ、面白いわ。

 ブリントン名物、タイガーローカストフライも食ってみろ」


 センパイが手にしたのは昆虫の素揚げ。直訳すると、虎蝗か?


「海老芋フライならお裾分けしてあげる。さすがにボリューム多くて完食は無理だから」

「タイガーパファーのお裾分け」

「レモン掛けたら美味しいのよ」


 ミッシルさんが海老芋のフライドポテトを突き刺し、エイドリーがおでこに白身魚のフライを乗せた。


 ちょっと整理させて。


 タイガーローカストが虎蝗、海老芋、タイガーパファーは虎ふぐ。まさか、ブラックタイガーフライマックスって、柄は不明だけど虎、海老模様の芋、虎フグはズバリ黒い虎……そのミックスってオチ?


「さすがにブラックタイガーが揃うと食いごたえがあるな」

「うん、ラグムが好き嫌いの無い子で良かったわ」


 センパイ、良いタイミングで答え合わせしてくれたね。



「うぷっ。あと、ひとくち……」

「ミッシル、頑張れ! それを飲み込んだら完食だぞ」


 ミッシルさん、無理して食べなくていいから!

 オークカツの刺さったフォークを持つ手が微妙に震えてるよ。


 センパイはそうそうに完食していて涼しい顔。

 ABコンビはオークカツを先に平らげ、ブラックタイガーを適当に俺に差し込むもんだから、どれから食べるか非常に悩む。

 ミッシルさんが頑張って大盛りにチャレンジしたけど、やはり一人では無理らしい。海老芋フライをセンパイが強奪していく。フレンチポテトみたいにカットしてあるので、摘まんで食べるには最適だ。


 名物のイナゴフライは四人とも何も言わずに食べきった。エビフライの匂いがしてたのは、これが原因らしい。


 俺の体に刺さっていたフライ達を全て食べきってもまだミッシルさんがラストのオークカツと戦っている。このままなら敗戦もありうる。

 ならば飼い主のピンチを救って何が悪い?

 ミッシルさんの先にズルリと移動し、フォークを持つ手にジャンプする。

 接地面積は少ないが、皮の硬度と摩擦係数を調整すれば手にフィットすることは難しくない。先程の訓練が早速役に立った。

 それから体を伸ばしてフォークの先のお肉に……


「ラグムも食べたいの?

 仕方ないなぁ」


 フォークに刺したままのカツが俺にプスッと突き刺さった。どちらかと言えば、刺さったのはカツではなくフォークだな。俺が人間なら凶器攻撃だったけど、今の俺には狂喜攻撃だよ。

 取り上げられないようにオオグチ開けて体内にカツをとりこみ、フォークは邪魔だけど溶かさないように気を付けて。


「新しい技を覚えたみたいだな」


 俺のこと?

 四人の視線がカツに集まる。


「やっとスライムらしくなった感じね」


 モグモグ……そうなんだ。やっぱりオークカツ、うめぇぇぇっ!

 赤身と脂身のバランスの良さ、これはきっとロース肉。苦節三日、椎茸から始まった俺の飼育生活にも、ようやく人間らしさが芽生えてきた。


「お手て綺麗綺麗しとこ」

「俺も」

「私も」

「勿論やるわよ」


 人が感動してる時に、おかしな儀式を始めないでよ。

 それでもオクチの中でオークカツの旨味を堪能しつつ、最後にこっそりとガスを出す。

 もう最高でした! 次は本物のエビフライを食べたいけど、ブラックタイガーは居ないのかな?

 それならバナメイエビでもカワエビでも何でもいい。なんていったらカブトエビが出てきそうだ。


「じゃあ、次はお待ちかのデザートタイム!

 ジャジャジャーン、食堂のオバチャン特製豚ガラペレット!」


 ミッシルさんがタッパーから取り出したのは、豚の形をしたペレットだった。それ、豚ガラじゃなくて豚形のペレットだから。

 ドッグフードに骨の形のがあるのと同じノリだね。


「食品加工部が最近開発したってのが、そのペレットか」

「うん、廃棄物削減の名のもと、大量の廃棄物を作って完成させたって言ういわく付きのブツです」


 その言い方! 試作に失敗は付き物だし、失敗してもスライム浄化槽に流せば問題ないし。

 俺も随分ここに馴染んできてるな。


「ラグム、ペレット食べたい?

 食べたいでしょ?

 食べたくない訳がないわよね?」


 ペレットを差し出した右手を華麗なスウェーバックでさっと躱した――

 つもりが、俺にとってのパンチは指一本分の大きさだ。

 拳全体をもってこられりゃ、スウェーだけでは躱しきれない。


「あら、照れてるのね、可愛いわ」


 どこを見てその判断?

 最近の蜥蜴は、照れるとスウェーで躱すのか?


 俺を押し倒したまま、プニッとペレットを押し込む流れるようなミッシルさんの連続攻撃コンビネーションに俺は屈した。

 だが、これは生物学的敗北であって、決して俺の個人的な敗北ではないのだ!

 カルシウムと何か怪しい成分たっぷりの豚形ペレット、意外とイケルじゃん。


「これ、人間が食っても大丈夫なのか?」

「材料的には許容範囲だと思うよ。カルシウム、リン酸、葉酸の補給には良い筈。ギガント・エナジーのノウハウも利用されてるから、食べ過ぎると大きくなるかも」

「へぇ、そうなのか」


 センパイが一つ摘まんでクチに放り込む。ガリっガリっガリっ。


「骨っぽいクッキーだな。甘い飲み物にちょうどよいかも」


 とても人間の食べ物とは思えない音がしたんだけど。顎と歯は大丈夫?


「エイドリーも一つ食ってみろ」


 好奇心からか一つだけ取ってクチに入れたエイドリーだが、前歯では噛めず奥歯で砕いている。


「堅焼きクッキーと言うか、昔のレーションみたいな保存食ね」

「そう言や、カチカチに乾かしたパンに似てるかもな」


 骨の味がする乾パンだね。それを俺は旨いと、思ったのか。


「あっ、でも、それね、もともと肥料に使うやつだから、人の食べ物じゃなかったわ」


 センパイとエイドリーが何とも言えない悲しい目でミッシルさんを見つめるのだった。

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