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第29話 ヒゲオヤジは発想する

「ミッシルさん、この古い穀物粉砕機はもう使わないのか?」

「うん、新しいのに買い換えたから」


 壁に作り付けの台には、グルグル手で回して豆や穀物などを粉にする装置がある。使っているのは見たことないが、餌の材料をミッシルさん自身で潰していたのだろう。まさか、次は俺をその中に投入するつもりじゃないよね?


「それなら、こいつをばらして使うか。回転軸周りは流用出来るだろ。問題は動力にスライムをどう使うかだな。

 一つ思い付いたアイデアがあるが、知りたいか?」


 勿論さ! だって俺に被害があることなら、断固拒否してもらわないと。


「えーっ! 私より先に思い付くなんてひどいです」


 クチを尖らせるのは可愛いけど、本職と競ってどうするの?


「念のため聞くが、案があった訳ではないと?」

「うん。ラグムには手がないからフライホイールの錘にしようかなって思ってたぐらい。でもそれだと私が時々回さなきゃいけないし。」

「フライホイールにするには小さすぎるが、方向性は大きく間違っておらんかもな。

 囚人が粉挽きをやっているのを知っているか?

 まぁ、知らなくても構わん。ホイールを何人かの脚で回させるやり方だ」


 それ、加熱したホイールの上に俺を置いて回させようって話だろ。俺が燃えるぞ、物理的にもな。


「もっとも、そいつは非人道的と批判があってな。

 だが、運動を兼ねると言う目的があるなら、こう言う方法もある」


 ヒゲオヤジが書くものを借りて、何やら書き始めた。


「平面の板の上を歩かせるの?」

「板ではない。二つのローラーをつなぐ、丈夫な布のようなものだ。この上を歩くことでホイールが回る。疲れたらホイールは止まるし、ホイールが止まれば火を止めることも出来るし、惰性でしばらく回転を続けさせることも出来そうだ」


 おいおい、マジもんの刑罰の道具からルームランナーを思い付くなんて、どこの世界も技術者の考えることは変わらないってか。

 でも、止まったら火を止めるって機能まで考えてくれたのはありがたい。


「ただ、この機構だとエネルギーロスが多くて、スライムの体重では上手く回らん可能性が高い。

 威張りくさる癖に腑抜けの兵士ども向けに、儂が作って軍に売り付けてやろう」


 ニヤリと笑うヒゲオヤジ。人が良さそうに見えるけど、見た目に騙されたらいけないタイプだな。


「加熱するシリンダーの横に、別途大回転ネズミ車輪を付けてそちらを動力源にした方が確実性が高い。

 こちらも回転が止まれば火が消えるようにして焦げないようにすれば行けるだろ」 


 ハムスターホイールを俺が回す訳ね。

 なるほど、確かにそれならフライホイールみたいな役割りをしそうだ。グルグル回っている車輪の中で急に止まったら、反対側に飛ばされちゃうから。

 そのホイールの名前は、『スラスターホイール』で是非!


 構造的にはランニングマシンの方がまだ人間扱いされてる気がするけど、さっき元ネタを提示されたばかりだからランニングマシンの方が拷問に思えてくる。


「分かりました。『生ハム車輪』方式で作って。もし駄目なら、別の方式を考えるわ」


 その名前はイヤだっ! ちょっと美味しそうなところとか余計にさ。


「熱したシリンダーの上にラグムを乗せて直接回させるって、これは非人道的だもんね。

 耐熱性試験のサンプル的には美味しいけど」


 そこで研究者の顔をしないのっ!


「ミッシルさんが手で回せば済むんだが」

「研究者にそんな時間はないのよ。その時間は次のネタの発想に使うべき。

 ただでさえ、爬虫類成長促進飼料『ギガント・エナジー』の後は失敗続きなんだから」


 それで俺をテーマに選んだの? どう見ても失敗すると思うけど。


「『生ハム車輪』、ラグムの能力検査にも使えそうだし。

 それに私のラグムなら、これぐらいはお茶の葉サラサラよ!」


 ……それ、お茶の子サ~ラサラ♪の短冊付けるやつだけど、ヒゲオヤジがスルーしてるから、この世界ではそれで正解なのかな。ボケてみた。


 まぁ、『生ハム車輪』でも何でもやってやるか。

 この体は肉体的な疲れが基本的に無いから、俺のやる気が続くまでの永久機関が作れるかも知れないし。

 でも俺以外のスライムがエンジンに使えるかどうか分からないから、そこそこの結果で終わらせよう。


「じゃあ、そうと決まれば車輪の設計しよっと」

「ミッシルさんよ、そこは儂ら専門家に任せてくれんか。今までも素人に手を出されて何回火を吐いたことか……」

「えーっ! ……分かった、しょうがないなぁ」


 特務機関でも爆発騒ぎがあったのかな? 絶対あったよね!


「あっ、ブルックさん」

「他にも要望か?」

「うん、共同開発者欄に私の名前、宜しくね」

「それぐらいなら構わんぞ」

「それと、もし軍に売れたら、利益の五%で良いから」

「……一%」

「ケチ。三%」

「二%。ほとんど何もしとらん癖に。

 売れんかったら実家に買い取らせてやる。ったく、研究員はこれだから……」


 ニッコリ笑って親指を立てるミッシルさんに渋い顔をするヒゲオヤジのブルックさん。

 可愛い研究者の言うことは、男なら何でも黙って聞くもんだからな!



「ふぅ、カマドウマを剥がすのに時間使っちゃったね。

 お昼御飯まで一時間程しかないわ」


 それ、すなわちオークカツとブラックタイガーフライのマックスフライ定食までのカウントダウン!

 転生してからこれ程食べるってことを期待した時間はない。人間の舌とは全く違うし、実は味覚も嗅覚殆んどない。だから食べることを楽しみにするのはおかしな話なんだけど。


 ここからは俺の勝手な推測だ。

 恐らくスライム皮とスライム液には、匂いと味覚を受け取ると、電気的な信号に変換する機能がある。

 そして、信号をスライム核が受け取り、複雑な処理を行う。その過程で、俺の記憶と結び付いて味や匂いとして仮定、再編しているのだ。

 そうでなければ、元人間の俺が何でも食える生物として存在できる訳がない。


 良く分からないが、今の精神状態なら円周率を二桁まで覚えられそうだな。


「うんしょ、よいしょっ。

 じゃあ、次は登坂性能試験を始めます!

 使用する機材はこちら」


 ミッシルさんが角度を調整し終えたばかりの機材を手で示す。


「こちらに見えますツルツルの平板! ただの板ではございません!

 なんとコレ、数々の軍馬を恐怖のどん底に叩き込んだ地獄の使者、その名も『ナンドダロー♪君』!

 その初代コンセプトモデルなのです! はい、ラグム君も拍手!」


 拍手と言われても、感動するような機構じゃないし。

 油圧式なら感動したかも知れないけど、丸ハンドルを回して角度を変えるだけの機構だし。


 それより、どうやって拍手しろと? 本気で触手を期待しているとは思えないし、ノリだよね。

 槍だせツノ出せ方式でウニみたいになれるけど、俺のトゲは動かせない。

 本物のウニは、気持ち悪いけど触手みたい物を出して歩ける……つまり、俺ってウニにも負けてる事実に今気が付いた。

 少しはウニより優れているところを見せないと、ミッシルさんに呆れられてポイされるかも。


「まずは軽く30度から登ってみよう!

 あっ、その前に……ハチマキ巻いてね」


 俺のライムグリーンに合わせたのか、オレンジ色のハチマキ風の物……布の輪っかを乗せられた。


「では、位置について――」

 

 ピカピカに磨かれた鋼の板の前に俺を置いた後に、

「レディ……」

と、言いながら小さな何かと棒を手に持った。そして、

「ドーン!」


 それ、太鼓とバチだったのか……あのさ……特務機関、本当に大丈夫か?

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