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第28話 ミッシルさんの願望

「あっ、その前に連絡しなきゃ」


 良かった、いきなりカマドウマを持って厨房に突撃するのかと思ったよ。


 厨房の内線番号は覚えているらしく、電話帳を見ることなく黒電話の受話器を上げると、

「ミッシルです。

 一匹、カマドウマのローストしたいんで、保温棚を貸してもらえません?

 えっ? ……今日はマックスフライで忙しいからダメ? ……そうですよね!

 楽しみにしてます! はい、お邪魔しました!

 ……残念」


 先にそっちを確認してから、スパッってやっても良かったような……ま、結果は同じだけど。

 それに魚も船に上げたらすぐに締めるもんね。

 で、何が残念だったんだろ? つまみ食い?


「うーん、厨房のオーブンの上を借りる方が火力の調節しなくて済むから楽なんだけど、焦げないようにかき混ぜるのが大変なの」


 コーヒー豆の焙煎みたいな感じかな?

 でも昆虫はコーヒー豆と違って蛋白質とチキン質? だからそんなに強烈な匂いはしないと思う。意外と蟹や海老みたいな匂いだったりして。


「そうだ、折角ラグムが来たくれたことだし、今から『自動回転式ロースター』を自作したいと思います!」


 俺? 火も吐けないし、手足も触手も無いから関係無いよ。今回は見守る係に徹するはずだ。


「備品庫、行くよ!」


 そう言うミッシルさんがとても楽しそうだ。特務機関の備品庫って、映画に出てくるスパイの秘密道具みたいな物が一杯並んでるかも。


「じゃあ、籠に入ってて」


 お出掛け用の籠に入れられ部屋を出る。今日で三日目なのに、まだカマドウマとバトルした廊下しか分からない。まさか俺がスパイだと思われて、普段は建物の構造を見せないように目隠ししてるのか?

 そんな訳あるか、と自己否定。きっと俺を連れ歩いてると、変な目で見られると判断してのことだろう。

 ……それはそれで悲しくなってくる。


 寮で食堂に連れて行くのは、寮の中が俺にとっても安全だから。だけど、この特務機関の中は研究者達がわんさか居るのだから、俺を見てスライムなんか研究していることを馬鹿にするか、魔物だから殺そうと考える人が居てもおかしくない。


 研究員が何人ぐらい居るのか知らないけど、俺のお披露目の時にセンパイ、ABコンビ、ミッシルさんを除いて見に来たのはギリギリ片手の指より多かった程度。恐らく現在進行中の研究に没頭している人の方が多いだろう。

 ミッシルさんも研究室で俺だけに構っているのでなく、時々蜥蜴先輩達に何か与えている。カメレオンを大きく育てただけでは飽き足らず、ノルマの為にまた何かやらかそうとしているのだ。

 

 それから少し歩いたところでドアを開ける音。カランコロンとドアベルが鳴った。


「こーんにちわーっ!」


 一瞬、俺の頭がバグった。ハローがハーローに聞こえた感じだ。

 コトリと音がして籠が置かれた。


「聞こえとる」

と野太い男性の声が奥から聞こえ、ドシドシと足音が伝わる。


 バン、とテーブルを叩くような音がした後、

「へい、らっしゃい。どんな御用で?」

と、少々場違いな挨拶が聞こえるがスルーだ。


「金属加工したいから、キルゾー君、マガルン、トケルンデスとパンダ、ヒョットコ、あと工具箱から……ベンチ、タンマー……」


 うん、実はミッシルさんって工具に詳しくないことが良く分かった。これで自作するとか、にわかには信じられない。


「下手の横好きは構わんが、また怪我をされちゃかなわんなぁ」


 正解か。俺も大将に同意。ミッシルさんが怪我したら誰が俺の世話をするんだよ……ミッシルさん以外だと飯なら『お残し』で済む、とか言われそうだ。


 ミッシルさんは作りたいものだけ伝えて、プロに作ってもらうべき。ハンダごてにおかしな名前を付けたわりに、ハンダがパンダじゃ狙い過ぎてギャグにもならない。


「しゃあねえな。おーい、ちょいとミッシルさんとこ行ってくら。

 留守番任せたぞ」


 大将みたいな声でバックヤードにそう声を掛け、意気揚々とここに来たミッシルさんの心をポキン。

 ガチャガチャ音を立てているのは、何か持って行こうとしてるのかな?


「私もセンパイやエイドリーみたいになりたいんです!

 カッコいい機械をチョチョチョイのちょいと作りたいんです!」


 あー、そう言う願望があったのか。

 確かに男前のセンパイなら、ツナギ着てスパナ持ってる絵が似合いそうだ。エイドリーは知らん。俺の中ではその辺の小娘ポジションだし。


「それなら蜥蜴の世話ばかりせずに、工作室で練習せい。技術の習得には反復練習と儂らみたいなベテランの指導が欠かせん」

「そこをショートカットするのが本当のプロの指導です!」


 それは指導じゃなくてスキル取得によるショートカットだね。スキルがある、この言葉一つで解決するんだから、理不尽だけど便利な言葉だよ。


「アーシュリーもエイドリーも通った道だ。気が向いたら習いに来い」

「誰かに簡単にプロになれる研究をしてもらいます」


 それ、特務機関ならではのオチだね。

 で、アーシュリーって誰? センパイの名前?


 そうして研究室に戻ってくる。俺、備品庫に連れてく行くは意味あったの? 一度も籠の蓋が開いてないんだけど。秘密道具、見たかった。


「ラグム、お家に戻っててね」

と籠から出される。


「妙チクリンなスライムを連れていると聞いたがソイツか。確かに普通じゃないか。

 で、作りたいのは、スライムの解剖用の器具か?」


 おっさん、シレッと怖いこと言うなっ! メス一本で、三回死ねるからっ!


「ううん、カマドウマをローストするのに、回し続けるのが大変だから自動回転式ロースターね」


 備品庫から来た男性と目が合う。どこかの軍に居そうな、筋骨隆々のいかにもなメカニックスタイルだ。服もミリタリー服っぽいオリーブ色のツナギに、角刈りのヒゲオヤジ。


「カマドウマ……あぁ、あのパウダーか。

 で、今四匹飼ってるのか」

「今日、五匹捕獲して、ラグムのお家がなくなったから、先に一匹だけローストしたいの」

「ケージなら備品庫に余っとるぞ」

「え? そうなんだ」


 ……今度から先に確認しようね。


「つっても、この部屋じゃ荷物を増やすと置き場に困りそうだな。

 それより、どう言う形か教えろ。若手の教材に丁度良い」

「はぁい。筒をくるくる回しながら外から炙って、中の物が焦げないようにしたいの。

 回し続ける動力はラグム」

「……動力以外は理解した。

 カマドウマ以外にも使えるように、シリンダーの直径を変えられるのが良いかもな。

 食材の加工工場には大きな焙煎装置があったな。なるほど、ミッシルが材料さえあれば、作れると思って無理もないか」


 俺もヒゲオヤジの意見に完全同意。特に動力のとこ。俺にどうやって回せと?


「本当にスライムに回させるつもりか?」

「うん。運動にもなるし。だってこの子、相手にしてないとずっと寝てばっかりで運動しないのよ。このままじゃ絶対肥満になるわ」

「そうか……運動も兼ねて、と言うなら理解した」


 そう簡単に裏切らないでよ!

 折角分かり合えたと思った感動、返してよっ!

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