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第18話 真意はどこ?

 ミッシルさんに撃たれて空いた穴から粘着質のスライム液が少し漏れる。しかも前後二ヶ所から。


「穴のサイズは、約一センチ。液体は粘性があり、受傷直後のpHは0.9強酸性であることが判明。木製の矢柄は抜いた後にボロボロになった」


 ミッシルさんが困った顔をする。


「うーん、中に強酸がある、となると皮が破れたら大惨事よね」


 今ごろになって気が付いたの? それなら、これからはもっと優しく扱ってくれるだろう。


「傷が塞がるまで約二分七秒。絆創膏、いらなかったね。でも念のため――ペタっとな」


 二ヶ所にあまり意味の無い絆創膏が貼られたけど、接触吸収しないように気を付けなきゃいけない。逆にストレスになりそう。


「皮の強度、厚み、弾力……危険性を知るには、大きな試料が必要そう。

 それと、常時0.9なのか。ケガしていない状態なら中性の可能性もあるし、意図的に制御可能かどうか知りたいわね」


 後者については納得出来るよ。不慮の事故で二次災害、しかもそっちの方が大災害ってギャグにもならない。

 だけど前者! 矢で穴が開く分にはスラ液全喪失しないって分かったけど、大きなサンプルを取られたら間違いなくドバーっ! シャレにならない。


「下手に切ったら、中身が全部漏れ出るからお残し出来なくなるし……ダメよね……どうしよう?」


 どうしよう? そこは素直に諦めるとこだから……ちょい待った、お残しは他のスライムに食べさせたら良い、なんて考えないよね?


「剃刀の達人なら、ワンチャンあるかな?」


 うん、ここ異世界だから出来そうだね、知ってた。いや……普通、そこは剣だよね?


「縦に切るとドバーしちゃうから、横だよね」


 ここで俺を両手で持ち上げ、目の高さに。

 やだ、この眼鏡っ娘、可愛い……じゃねえし!

 頭頂部辺りをジロジロ見られてるってことは、そこが狙われてるってことだから。


「試料は丸より四角の方が使い勝手良いのよね。

 端の方って無駄になるからなぁ」


 発想がもう切断段階カットから試験段階テストに移ってる!


「四角のフラスコ作ってもらおうかな。それで、はみ出た部分だけスパッして……うん、いけそう」


 頭の中のイメージ、焼きたての食パンみたいな感じですか?


 ここでジリジリと黒電話が鳴った。俺をテーブルに置いて、パタパタと電話台へ。


「はい、ミッシルです……うん、昨日と同じで今日もAランチ大盛りで。

 それと、デザートにリンゴも一つお願いします……そう、ラグム用です。……カット? こちらで切りますよ、得意なんで……ハイ、お願いします」


 ガチャっ。

 今日の昼までは生存確定……


 そこでミッシルさんが壁に貼ってある紙に目をやる。文字は読めないけど、その升目の並びは……カレンダー?


「えーと、明日は……Bランチがオークカツとブラックタイガーのマックスフライ定食!」


 ゴクリ。


 それ、オーク食べたい! 超定番!

 それとブラックタイガーってエビだよね! 大好物っ!

 是が非でも明日のお昼ご飯までは生き延びてやるっ! ……はっ! なんて浅はかな……


「じゃあ、次は鍋のサイズを考えなきゃ。楕円球体の体積計算、難しいのよ。三分の四かける円周率かける短辺かける長辺かける高さ、の半分で近似値だっけ?」


 おっと、それじゃ近似値は出るけど少し違うよ。

 計算するなら『玉ねぎの皮積分』の一択!

 えーと、インテグラルaからbの……なんだっけ? 2πx……くっ! 計算出来ねえ! 俺のハートに計算機アプリ、カモーン!


 あ、そう言や、さっきフラスコ、今度は鍋って言った? しかもより具体的! 


「そうだ、水流切断の水にヒールポーションを使ったら、切りながら治せるかも。でもあれ、使用許可が中々降りないのよね」


 スライム切るのに許可が降りるかな? 硬いカボチャや椰子の実ならまだギり分かるけど。

 ところでヒールポーションあるの? 矢傷治すのに砂時計よりそっち使って欲しかった。


「どうして解体施設にあんなの置いたのかしら?

 あっ、冷凍肉をスライスするため……かもね。

 一応、電話してみよっか。解体施設の通話番号は……」


 ミッシルさんが壁のS字フックからぶら下げてあった電話帳を捲る。

 暫くして渋面を作り、

「あー、あっちは研究棟から内線が通ってないのね。じゃあ、おばちゃんに頼もうか」

と言って壁に掛け直した。


 想像するに、食肉加工業者の建屋に何故か最新鋭のウォータージェット加工機が置いてあり、食堂からだと内線が通じるってことか。

 たかがスライムになんて大袈裟な。


「あっ、でもあそこのマシン、上から下だけのイチジクだったっけ?

 ヘッドが回せなかったら横には切れないか」


 つまり、ギリ命拾い? それとも最初に考えてた達人コース送り?


「凍らせたら切れるかな? 耐寒性能試験も出来るから一石何鳥ピヨ? スライススライムって……売れるかな?」


 もっとやべぇっ! 助かったと思った俺が甘かった。


「さて、と。

 切る、切れない問題は外部要因頼みだから後にして、一番の問題はメルビス女史へのレポートね」


 その話題転換の早さと温度差。思考速度が早いんだろうね。


「あの人がどんな結果を期待して、わざわざここに運ばせたのか。命の恩スラだから、ってことだけで浄化槽送りをやめたって考えにくいわ。それにあそこのはポコポコ増えるから外から持ち込む必要は無いし」


 俺を救ってくれたのが、スライム嫌いな女の子のお母様のメルビス様。推定三十歳。パリコレモデルレベルの美貌の持ち主。

 なお、スライムのサイズは未確認。


 勝手に想像するなら、メルビス様の考えは黴玉の影響の監視でしょ。

 あの時はまだ黴玉が戦略魔法だと分かっていなかったから的外れかも知れないけど、魔法を丸のみした個体の経過観察を行わせる意味がありそう。

 また同じような事態が起きたら、スライムに処分させれば良いって思われても当然だし。


 机に向き合ったミッシルさんが本を手に取ると、

「ラグムの体積は最大半径が八センチ、高さの半分が六センチ――大体1.6リットル。

 これなら鍋のサイズは……一辺11.5センチの立方体で1.5リットルだから、ちょうどかな。

 あっ、その容量で蓋を閉じたらサイコロ形になるように業者さんに設計してもらおっと」

と、俺の入る鍋の計算を終わらせた。

 ……自由に形を変えられるこの体を、初めて憎いと思ったかも。


「あーっ! どうして加熱試験の時に体積を計らなかったのよ!」


 言われてみれば確かに。ビーカーに入ってたんだし。計算いらないじゃん。


「まあ、いいわ。中身の方が小さかったら中敷き入れて嵩増しをしたら良いし。

 それよりラグム、次は何しようか?」


 絶対、痛くないやつで!

 ……出来れば、切らないやつ。

 ……あれ? 刺されることが何とも思わなくなってきてる? 俺、既に究極のM?

 これも環境適応能力と諦めるか……痛覚なくて良かった……のか?


「うーん、ホント、次はどうしよう。

 可愛いから拾ったけど、今のとこスライムの用途って結構限られてるのよね。

 浄化槽か、解体施設での残滓処理。

 昔のレポート見たけど、皮には味がなくて煮ても味が染み込まないって。誰だろ、食材として見てた人」


 解体施設勤務なら浄化槽や食材になるよりましだよな。


「色付きの野良スライムの捕獲記録は無いから、チクリかスパッで終わるレベルで止めるのが正解なのかな?」


 それっ! 大正解! ミッシルさんの足元に凭れてウンウンと大きく頷く。


「あっ、今の何? 震えたの? もう一回出来る?」


 もちろ……はっ! 頷きかけて慌てて自制する。

 ミッシルさん、まさか俺がヒアリング出来てることを前提に話し掛けてきたんじゃない?

 このまま求めに応じてウンウンやったら、間違いなく知能、知性ありって判決が下される。


 それだと、『色の付いた少し珍しいスライム』って位置付けから大きく逸れる。メリットはあるけど、デメリットが大き過ぎないか?

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