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第17話 リンゴ?

「おはよー!」


 俺が目覚めたのはミッシルさんの手の中だった。完全に寝入っていたらしい。壁掛け時計を見ると八時十五分。昨夜寝たのが夕方六時ぐらい。半日以上寝ていたわけか。


「朝御飯、ラグムも食べる?」


 彼女の持つピンセットの先には、元気に脚と触角を動かしているコオロギの姿があった。さすがにそれは無理。


「冗談よ。朝御飯に出てたニガウリの卵炒めの卵無し、それとラディッシュの酢浸け」


 大体好みが分かってきた。ミッシルさんはお子様舌なんだよ。でも普通はラディッシュの甘酢浸けだよね。こっちの世界のは甘く無いのか? それとも食べず嫌い?


 ミッシルさんが先に蜥蜴達にコオロギを与えていると、元気すぎる個体がピンセットからの脱出を成功させた。


「むむ~っ!

 私のターン! グリーンスライム・ラグム・召喚っ! ターンエンド」


 そのノリ、嫌いじゃないよ! ルールも分かってるみたいだし。

 ピョーンと床に着地を決めたコオロギのターンは、そそくさ物陰へと逃亡を図って終わる。


「私のターン! ラグム、コオロギを捕まえて!」


 よしきた! ここで俺の有能さを見せ付けるチャンス! で、具体的にはどうすれば?

 下手に追いかけると質量差で圧殺しかねない。スライムになってから、逃げることはあっても捕獲の経験は無い。


 床に下ろされた俺はコオロギを発見してスススイーっと移動する。何か知らんが、思った以上にスムーズに移動出来た。

 結果、あっと言う間にコオロギに肉迫する。

 このままじゃ衝突する! 下半身にブレーキを掛けたが惰性で前に進む上半身。まずいっ!


 コオロギの体が迫る珍獣に怯えたように震えていた。

 ぶつかる寸前、ミッシルさんの指が突き刺さって穴が空いた時の感覚を頼りに自発的おクチあーんを実行した。


 スルン!


 コオロギが上手くホールイン! 生きたコオロギを使って、昨日みたいなセロリの再現はしたくない。逃げられないように軽く蓋をして、そのままバックでミッシルさんの足元へ。


「ホントにやってくれたのね! 凄い! 偉いね!」


 無邪気に喜びながら鷲掴み……その影響でコオロギを閉じ込めたクチ(仮)がキュッと狭くなり、もがくコオロギの感触が腹の中?から伝わってくる。刺々している脚が蹴りつけるもんだから、痒いようなくすぐったいような。

 白魚の踊り食いって、こんな感じなのかな? 

 ……だったら、試したくないかも。


 ま、もうそんな機会がくることは無いし……無いよね……無いだろう……嫌なことを連想して少しだけ現実逃避。これ、成功したのって逆にまずくない?

 だってまた同じことをやらされるんだよ……下手したらコオロギ以外もさ……絶対やらされるよね、黒い彗星G退治……とか。


 鷲掴みのまま蜥蜴のケージに運ばれたので、もがくコオロギをペッと吐き出す。

 ……あー、気持ち悪かった。


「何か居たら今度からラグムに頼むわね!」


 ほら、来たっ! コオロギとかバッタなら人としてギリギリセーフでも、アイツだけは勘弁してくれ! 虫のくせして何であんなにツルツルテカテカ、無闇に洗練されたフォルムをしてるのか意味が分からん!

 あ、あと、ムカデとかゲジゲジとか……他には、え~と――非対応リスト、作らなきゃ!


「じゃあ、次はラグムの朝御飯ね」


 朝からニガウリと、酸っぱ辛いラディッシュね。もう少し胃に優しいチョイスにした方が良いと思う。

 しかし、ニガウリは温暖地域でラディッシュは地中海原産、つまりこの国は貿易、流通が活発に行われているか、やたら広いってことだろう。


 昨日の戦略魔法『黴玉』の処理も恙無く完了してるから、魔法の知識や実行力も高そうだし。

 恐らく金食い虫の特務機関に掛ける資金もある。これ、ズバリ強国と言って良いだろうね。地図が見たくなるよ。


 それでも悪魔憑きが現れる。悪魔がどんなものか分からないけど、神様の正反対なら強敵なんだろう。このニガウリみたいにさ。ラディッシュは薄くスライスしてあるから良いけど、このニガウリの存在感!

 厚くても五ミリまでだろ。それが八ミリだよ、八ミリ! しかも輪切りだからワタまで憑いてる。

 これ、残さず食べろって無理ゲーだよ。でも種が赤いって、完熟なのかな? だったら評価してやるよ。


 きゅうりパックみたいに輪切りのニガウリを俺の体にペタペタ……? 一気に接触吸収しろってことね。鼻も明確な味覚も無いけど、体の中が青臭くなりそうだ。

 その後にゴーヤがどうなったかは想像にお任せだ。


 それより今日の実験は――人体串刺しマジックに御座る。

 やっぱりやるのね。

 用意されているのは、アイスピック、矢、槍の穂先……等々殺傷力のある武器だけでなく、擂粉木みたいな棒やドライバーなど、多種に渡る。


「ラグム、ゴメンね。これはどうしてもやらなきゃいけないの。穴が開いたら絆創膏貼ってあげるから大丈夫よ!」


 そこでガッツポーズされても正直困るし。

 この実験、誰かに指示されたのか? ミッシルさんが考えたにしては殺意がありぎる気がするし、無理して声を作った感じで、あまり乗り気ではなさそうに見えた。


 蜥蜴を飼育している部屋にこんな物を用意してあるのも違和感がある。魔物を研究素材にする際の心得的なもの、なのかも知れない。

 対象が死んでも生き残ってもデータが取れるから良いでしょ、って無機質な感覚の人が決めたルールと思っておこう。


「スライムを研究対象にする人なんて居ないと思ってたんだろうな」


 まずは擂粉木でグリグリ。これは意外と気持ち良い。ドライバーも貫通しないが、皮が捩られる感覚があってイヤだ。

 アイスピックは……まな板の上で目釘を打たれる鰻の気分だな。

 ダン! とひと思いに打ち込まれた。予想の通り、しっかり貫通してまな板に先が刺さっているが、痛くないのが本当に不思議。問題は抜いた後、だね。


「痛かったら手を上げてね」


 絆創膏を本当に用意しながらプスッと凶器が体から離れていく。

 ジーと見つめる研究者の視線の先は、僅かな穴が綺麗に塞がる様子を捉えていた。


「アイスピックの穴なら塞がるのね。痛くない?」


 こう言う時に言葉が出せないのはもどかしい。

 元気のアピールで、その場で小さくジャンプしてみせた。これで分かるだろうか。


「ん。じゃ、次は矢ね。槍はやらなくても分かるし。壁際に立って……座って貰うね」


 まな板を壁に立て掛けると、その前に置かれた。


「じゃあ、これを頭の上に乗せて」


 紅いリンゴが何故か俺の上に。あっ、これはつまり俺じゃなくてリンゴを撃って、俺を撃ったことに擬装するってことか。


「撃つから動かないでね」


 反対側の部屋の端まで移動したミッシルさんが胸当てを着けて弓を構えた。眼鏡っ娘の――


「ミッシル、撃ちまーす!」


 ――弓って。


 ヒュッ


 余計なことを考えていた間に放たれた弓は、リンゴではなく――俺の体を撃ち抜いたのだ……


 ――妄想コンソールが『物理的損壊:レベル3』『メインタンク:内圧低下』と警告を吐き出す。

 

「よし!」


 ……リンゴは? リンゴ置いた意味は?

 リンゴの刺突試験なんておかしいと思ったよ。これ、完全に俺のハードウェア耐久試験……まぁ、最初からそう言ってたし。でも、よし、は無いでしょ?

 

「じゃなくて、ラグム、生きてる? 生きてたらジャンプ!」


 それ無理! まともに刺さってる! 矢じりも結構深くまな板に埋もれてるし。

 ……あ、でも不思議。自分に刺さった矢をじっくり観察してるのに痛くない。神経系が未実装なのは、こういう時にだけは感謝だな。

 うん、やっぱり俺、スライムやってなかったら多分死んでるから。


 ミッシルさんがニッパーを持って走って来ると、リンゴを床に置いてからバチンと矢羽根の前辺りを切断する。そして矢じりを抜くのでなく、俺の体を矢から抜いていく。


 開いた穴から少量のスライム液が漏れる。絆創膏を貼ろうとしたミッシルさんだが、

「酸だっけ? それとも消化酵素?」

と呟くと、駒込ピポットみたいな物を持ってきて液を吸い取った。


「一石二鳥ね」


 その発想が研究者!

 てか、リンゴ!

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