表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/42

第15話 天馬からの情報

 お弁当のお残しを食べて、シチューを食べて、リンゴを食べて。俺の体積より食べた量が多いような?

 消化効率の問題だ。気にしちゃいけない仕様ってことでスルーしよう。


 時計を見ると、もうすぐ三時。天馬と会う時間だ。

 ミッシルさんが俺を籐籠に入れて厨房を出る。急いでたせいか蓋がきちんとしまっていない。チャンスと思い、体の一部だけを出してそこにお目目を移動する。

 明治、大正時代に作られた洋風の建物が幾つか残っているけど、イメージはどれかに似てる。つまりお洒落な洋風……が感想だ。


 見知らない廊下を進み、何やら文字の書かれた部屋に入る。今気が付いた、文字が読めない。

 会話が理解出来るから読めるもんだと思い込んでいたけど、そこまで甘くなかったか。

 スライムやってる間は特に問題は無いし、読めると思われたらそれもヤバイことになりそうだ。

 ここで体を引っ込めた。


 ドアの向こうには受付があって、午前中に研究室に来たお爺さんが居たようだ。


「いらっしゃいませ。少し早かったですが、天馬の方がお見えになられてます。八番へどうぞ」


 どうやらここの打合せスペースは、秘密が漏れないように個室にしてあるようだ。外から来た客は研究室には行けなくて、ここで研究員と話をするってことだね。

 そりゃ、機密情報の集積所みたいな施設だろうし、スパイが来る可能性もありそうだし。


 個室のドアが開いて中に入ると、

「急に来て申し訳ない」

と中年男性の声が聞こえた。


「天馬の翼のリーダーのギルツです。こちらはサブリーダーのエスリア」

「ミッシルです」


 自己紹介はとても簡単に終わった。名刺を渡してあーだこーだと無駄話をしないらしい。三人が席に座る音。俺は籠の中だから。


「天馬の方々のお陰でメルビス女史とクラーラさんが無事に戻れたそうですし、ラグムを連れて来てくれて助かりましたよ」


 ミッシルさんから話を切り出した。メルビス女史って、今朝聞いた名前かも。

 それと、俺を連れて来たってことは、馬車の護衛のオッサン達か?

 籠の蓋のせいで顔は見えないや。


「ラグム?」

「保護してくれたスライムの名前です。

 今日のお昼のお弁当、三人分のセロリを食べてくれたんですよ。お陰であまり怒られずに済みました」


 多分、反省してないパターンだね。手があったら大袈裟にジェスチャーしてあげるよ。


「セロリですか。私もアレは苦手なんで」


 オッサンの好き嫌いに誰も興味持たないし。はよ本題入れや。


「それで、本日のご用件は?」

「それですが、まだ生きて居たのか確認したかったんです」

「元気にしてますよ、セロリも今日の――」

「実はあのスライム、かなりヤバイ魔法を、取り込んだんですよ」


 ヤバイのは何となく想像してたよ。黴が集まって黒いボールになってたんだから。そう言えば、俺の中のスラ液、まだ洗浄か交換かしなくて大丈夫かな?

 ハゲ鷲の胃は細菌にも負けないらしいけど、俺のも同性能? だったら嬉しい。

 それよりセロリの話を断ち切るのは、ミッシルさんと俺の苦労に失礼だろ。


「術者は悪魔憑きだったらしく、騙されて世界を滅ぼす戦略魔法を覚えていたそうでして……」


 そう言うと、ミッシルの持ってきた籐籠に目をやった。


「そうだったんですね。ラグム、偉いね~」


 蓋が開いてミッシルさんの笑顔が見えた。まるでペットの仔犬がお隣さんに褒められて喜んでるお姉さんだよ。

 片手で鷲掴みにされてスッと持ち上げられる。意外と雑な扱いだな。

 これぐらいなら痛がらない、と学習してるんだろうけど、指の二本は第二関節以上にめり込んでるから。

 食堂のおばちゃんに拉致された時もこうだっけ。


 シチューの味を思い出していると、ペチャッとテーブルに置かれる。

 天馬と言う恥ずかしい名前の冒険者パーティーは二人来ていて、一人はオッサン、もう一人は女性だった。男二人で女性一人に会いに行くのは圧迫面接するみたいで良くないとの判断だろうか。


 しかし、俺が外国人のモブだと思ってたオッサンの顔を覚えているわけがない。盗賊団で黴玉を作ったサブジロンの方が、どう考えてもインパクト強かったし。まだ名前覚えてたし。


 天馬の二人の視線が俺の身体に空いたばかりの五つの穴に集中しているのは、きっとそこから戦略魔法『招黴氾醸ショーバイハンジョー』が漏れ出ないかと心配しているのだろう。少し恐怖にひきつっているように見える。


「そんな扱いして、大丈夫なんですか?」


 女性の方が恐る恐るミッシルさんに確認を取る。

 しかし、ミッシルさんは質問の意図が分からない、とでも言いたげに、

「問題ないですよ。体温計突っ込んでも痛がらなかったので」

と首を傾げた。俺もそうしたいよ。


「ここは特務機関だ。研究員が問題無いと言えば、何も問題ないんだよ」

「はぁ……分かりました」


 ギルツ氏の言葉にエスリアさんが生返事。その答え、絶対納得してないでしょっ!

 後で「だから言ったでしょ!」ってなる黄金パターン、イチャイチャの代わりに見せに来たのか?

 中年カップルだからって馬鹿にするなよっ! ……はい、反省。


「で、その戦略魔法はどうなったんです?」


 俺も聞きたい。盗賊団襲撃イベントに参加して、運営(神様?)から報酬が貰えると思ってた。

 俺が黴玉を丸飲みして、腹の中が真っ黒の腹黒スライムになった。だからスラ風船を作ってそれに黴玉を閉じ込めたんだよ。


「ハイ。あの時は護衛任務中であり、得体の知れぬ物体を携行するのは良くないと判断して、その場に放置しました」


 まだ戦略魔法と言うことを知らなかった訳だし、護衛対象を黴まみれにするわけにはいかないし、その判断は間違っていないだろう。

 今聞くと超ヤバイと思うけど、だからと言ってあの現場で何か出来たとは思えない。

 もし街道の脇に放置された戦略魔法入りのスラ風船が、カラスに突つかれ穴を開けたら即大惨事になってた訳だ。


「現場はネックハンギングの森から半日弱、ここブリントンに到着するまで通常なら一日半ですが、盗賊達を連行する必要があって。

 同行していたロンベルに早馬を出させ、盗賊と黴玉とスライムのことを伝達させました」

「ラグムはギルツさん達がここへ?」

「はい、クラーラお嬢様が絶対に馬車には近づけるなと、申されたので……何か影響があったら怖いと思い、馬車から長めのロープを垂らしてズルズルと」


 言葉を濁してるけど、俺、ロープで引っ張って持ち帰ったんだ。まぁ、黴玉に触れたスライムなんて気持ち悪いよ……不問に付すか。

 それで俺って到着するまでの一日半、それからあの女性三人組に起こされるまでずっと爆睡してたんだ。睡眠時間はともかく、その後の黴玉がどうなったか気になる。


「しかし、不思議なことにあの黴玉入りのボールは我々の後を着いてきたらしく」


 自動追尾機能まで盛り込んでた? キャンセル不可能にする前に先にそっち! それで?


「町に戻る少し手前に魔道師達に来て貰い、術者と黴玉の間のリンクを断つことが出来ました。

 ですが、それでも黴玉の自己保持機能と時間経過による成長能力を停止することが出来ず……」


 下手に壊すと黴が飛び散る訳ね。


「少し前に粗方の用意が出来たようで、この後、本日四時に多重結界内で魔道師数人の超高熱魔法による焼却が行われます」


 たかが黴玉一つ燃やすのに、何をそんな大袈裟にしてんだろ。


「スライム酸を低温で焼却すると、有害ガスを大量に発生するので、大掛かりな仕掛けが必要になったそうです」


 俺の酸のせいかよ。善意でやったのに大袈裟な。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ