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第13話 これでも食べたことになる?

 俺の前に小さなシイタケが……この笠のバッテンマークが食欲をそそ……


 しかし! 今の俺は深部温度を計る為に棒温度計をクチに咥えた状態だ。これでは飯が食えるわけがない。


 ん? おかしい。煮物の匂いが全くしない。

 つまり、食欲をそそらないのだ。

 シイタケまでの距離は目測三ミリ。これなら鼻が詰まっていない限り、ダシの匂いが漂うはず。

 まさか、これはリアルな食品サンプルか?


 スルリと移動してシイタケに接触してみる。スリスリ……まさかシイタケにスリスリする日が来るとは思わなかったが、感触は固いサンプルではなく本物だ。


「ほぉほぉ」

「……ほぉ……ほぉ」

「ほぉ・ほけきょ」


 言い出しっぺのエイドリーは良いよ、照れながら真似したミッシルさんも可愛かった。

 だがビアンキ! ……この世界って和風ファンタジーじゃない! 今ので世界観が台無しだからね。


 ……何に切れてんだか。


「やっぱり、スライムって接触吸収だよね」

「だね、普通だわ」

「もっと面白いものが見れると思ったのに」


 えっ? 俺、知らないうちに正解引いた?

 そんな単語、今まで一度も聞いたことがない。

 単語の意味から考えると、触って取り込む……つまり、このスリスリは食事の前の「いただきます」に相当するルーティンな訳か?


 そう言えば、森の中で銀色の何かを食ったときも、歯で咬みきったりオオグチ開けた記憶は無い。気が付いた時には凭れかかって食ってたんだ。

 と言うことは、このスライムの皮は、イオン交換膜みたいな機能でスライム液を外に滲ませ、溶けた食材だけを吸収する仕組みを持ってるのかも。


 ――吸収開始。脳内コンソールに『栄養素ロード中……』のバーが表示される……勿論妄想だよ。悪いか?


「でもさ、スライムって獲物を丸のみにして体内で溶かしていくよね?」

「あっ、言われてみれば……そっちの方が普通かも」

「それなら……両方が使えて、使い分けてるんじゃ?

 今は丸のみ出来ない状態だから」


 俺も丸のみのイメージが強かったから、この訳の分からない接触吸収なんてやりたくないんだけど。確かにシイタケの栄養素、旨味成分と水分だけがはメインタンク(スラ液)に取り込んでダイレクトに同期シンクロしていく感じ。

 

 だけど、繊維はそのまま残ってる。干し椎茸って半分近くは繊維って感じで、奇妙なスカスカのオブシェが出来上がった。……今の俺の処理プロセスには『非対応フォーマット』ってことだ。


「ビアンキ、鋭いわね。ラグム、聞こえたよね?

 深部温度計測が終わったら、その食べかすも処理してもらうから。

 じゃないと私、今日は残さないって言ったのに、残してたらオバチャンに怒られるから」


 それ、自業自得じゃないかな?

 俺がジト目で見ているのを無視して、だし巻き玉子を頬張るミッシルさん。俺の前には花形に型抜きされたニンジンが差し出された。これも食べるけどさ。


「ミッシル、ローストビーフは嫌いだったよね?

 私もらうね」

「うん、良いよ」

「やった! ありがと!」


 それっ! 俺のローストビーフっ!

 思わずエイドリーの方に進んでしまい、熱電対を止めるテープがベリっと剥がれた。


「あら? ラグムも欲しかったの? ゴメンね」

「さっきレンコン出した時には反応しなかったのに、肉には飛び付くんだ。好き嫌いあるのかな?」

「やっぱりスライムだね~」


 なんか知らんけど、エイドリーの纏めが雑で腹立つ。俺の肉返せっ!


「ゴメンね、替わりにセロリやるから機嫌治して」


 治るわけないだろ、単価が全然違うじゃないか。


「ピーマン、セロリ、イクラ。これで機嫌治してね」

「じゃあ、私はセロリとバランで」


 最後! 食い物ですらないからっ! 本物の植物ハラン(葉蘭)を使ってるのは風流だけどさ。



 こうしてお弁当は俺の食い残したカスだけを残して完食となった。もちろんバランは却下だよ。


 熱電対は表面温度が元に戻っていたので外したままでもオッケーだったが、棒温度計はまだ必要らしい。


「これ、もう標準装備で良くない?」

 

 ビアンキがとんでもないことを言い出す。どこに温度計咥えたままでうろつくスライムが居るんだよ?

 昔の漫画みたいじゃないか。


「あと二回計ったらで温度計抜くからね」


 了解! 体を上下に振って意思表示。ここでキン・コン・カーンとチャイムがなった。

 時計を見ると十二時五十分、つまり昼からの就業時間の十分前になる予鈴だな。


「じゃあ、私らはラボに戻るね」

「うん。ありがとね」


 エイドリーとビアンキの二人が部屋から出ていった。それから程なくしてドアがノックされた。


「どうぞ」

と、入室の許可を出すミッシルさん。バルマン男爵だったらどうするんだよ?

 入ってきたのは人の良さそうなお爺さんだ。


「ミッシルさん、今日の三時に冒険者パーティー『天馬の翼団』の人達が面会したいと申し出てきたんじゃが、どうするかいの?」

「天馬さんね。それなら私もお願いしたい依頼が……でも天馬さんにスライム採取は失礼よね」

「それなら、依頼書をことづければ良いでしょう。

 ギルドには若手も多く居りますから」

「じゃあ、そうしようかしら。三時に打合せスペースに行くので、確保願います」

「承りました」


 ふぅ、ただの業務連絡か。

 普通ならこう言うやり取りって受付嬢が内線でやると思うんだけど、受付には置いてないのかな?

 それとも、さっきの会話には『通信機』が使えない理由があったとか? それ、部外者目線だと楽しい妄想だけど、当事者側だとかなりヤバそうだ。


「……そのスライム? が新しい研究テーマですね? 変わった色ですが」

「ええ、今日から始めたんですよ。なかなか可愛い子でしょ?」

「……まぁ、カメレオンに比べればマシかと」

「メレオも可愛いですよ。少々大きく成りすぎただけです」


 カメレオンのメレオですか。カメよりましで、レオンよりダメだと思うけど、愛情を持たないようにおかしな名前を付けたのかも。

 そう言やラグム……ただの省略形だったわ……。

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