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第11話 ババンバ バンバンバン?

「ラグムのこと、メルビス女史が気にしてたのは正解だったのかも。あの人、普段はポンコツなのに、そう言うものだけ勘が鋭いんだから。

 彼女向けの報告書も作らないと……か。取り敢えず、私が始めましたって報告しなきゃね」


 あの美人マダム、普段はポンコツだったんだ。ポンコツ……は多分、身の回りのことが出来ないってことだろ。そんなの貴族アルアルだし。


 で、俺を拾ってくれたのは、ビビビと勘が働いたってことで、運が良かっただけなんだろ――


 運ねぇ……本当に運、なのか?

 幾らなんでも、タイミングが良すぎじゃない?

 森で迷子になってなけりゃ、馬車イベントは起きなかっただろう。

 くっそ、やっぱりお釈迦様の掌でボードゲームのキャラになった気分だぜ。

 馬車襲撃テンプレ乙って……俺が同じ轍を踏んでるじゃねえかよ。


「――で、ご飯は……ペットを甘やかして美味しいものの味を覚えさせるのはダメって誰か言ってたし。

 でも、残り物を処理してもらうだけなら構わないよね?

 シイタケ、ニンジン、ピーマン、セロリ、イクラ、ローストビーフ……」


 小学生の嫌いな食べ物をあげてるのかと思ったら、彼女の嫌いな物だったんだ。最後は俺の好物だ。

 恐らくお肉の赤いのがダメで、ウェルダン派なのだろう。

 ローストビーフって、牛の丸焼き的なやつで高級品だと思う。それがお昼のお弁当に出るって、この機関は食事的に大当たりだよ!


「そうか、大盛り頼んで残った分をあげれば済むわね。まだお弁当の注文は聞きにきてないし」


 彼女がチラリと視線をやった先に壁掛け時計。時刻は九時前だ。と言うことは、俺、革袋の中で一晩以上も爆睡してたってことか。


 ここでタイミング良くジリリリリと電話?のベルが鳴った。


「あ、はい、ミッシルです。

 今日のお昼はAランチ大盛りでお願いします……はい、大丈夫……今日からお残ししません……フードロス削減の助っ人を雇ったんで……やだ、彼氏じゃないですよ、男なんか死ねば良いんです……冗談デス」


 ガチャっと音がして、黒電話みたいな装置の受話器が置かれた。内線電話なのだと思う。

 今のミッシルさんのセリフで分かったことがあるが、今の俺には関係ないし。まじ、スライムで良かった~!


「あっ、そうだ。

 ラグム、次は耐火性能試験と刺突防御試験だからね」


 この子が天使か悪魔か分からなくなってきたかも。まさか、スライムの串焼きを作るつもりじゃないよね?


 ◇


 ランチの注文の後、宣告通りにアルコールランプが用意された。少しずつ近付けられるオレンジ色の炎。ガスバーナー程の火力はないと思うが、少しずつスライム革が暖められていく。

 あと十センチを切る辺りで内部のスライム液にポコリと気泡が出来た。


 スライム液がガス化した?

 心なしか皮の一部が膨張していく気がする。このまま続けると大惨事の予感しかしない。と言う訳で、ホールドしているミッシルさんの両手から逃走を図る。

 亜硫酸ガスや塩化水素ガスなんかを発生させたら、ミッシルさんが出禁になってしまうかも知れないと思った訳だ。


「内部に気泡を確認、直後に逃亡……か。

 もしかして、その泡が危険なものだから、かな?」


 さすが研究者、一般人なら気にしないことをしっかりチェックしていらっしゃる。


「それもいずれ確認ね。次はお風呂に入ってもらうね」


 入れられたのは、ステンレス製のビーカーだ。

 どうやら、お湯の温度と俺の表面温度の差を測定するらしい。


 肩までぬるま湯に浸かり、頭に白いタオルを乗せられた。それから熱電対か何かをペタンと貼られて実験スタート。

 普通にお風呂に入れるなら幸せなんだけど。


「あっ!」


 突然ミッシルさんが大きな声を出し、頭を抱えた。何があった?


「どうしてこれを一番先にしなかったのよ!

 科学者失格だわ、検体の洗浄を忘れてたなんて!」


 ……そうだね……うん、多分考えは間違ってないから。

 気まずい空気の中、俺はいつまで風呂に入ればよいのだろうか?

 彼女の呟きから、お湯の温度は四十五度を越えている。


「表面温度、四十四度と。暑くない? のぼせたら教えてね」


 それ、教えるのって、のぼせる前ですよね。


「深部温度も計りたいんだけど、これ、刺して大丈夫かな?」


 彼女が手に取って見せたのは中に赤いアルコールの入った棒温度計。それを刺す? その姿を客観的に想像し、アウト判定を出した俺はお風呂から出ることに決めた。

 だが下手にジャンプして湯を溢しては申し訳ない。だが刺されるのはもっとイヤ。何か手はないか?

 スライムだから手は……あーん!とクチを開けてみよう!


「あれ? そこに入れたら良いのね。ラグム、偉いね!」


 よし! 世界初、温度計を刺されて死ぬスライムを回避したぜっ! さっき指の突っ込まれた時の感触が残ってて良かった……


「熱が逃げないよう、おクチにテープ貼るから我慢しててね」


 ……ハイ。


 最終的に深部温度が五十度に達するまでの長湯となったが、スライムだから無事に生還。人間なら完全にアウト……俺なら噴泉掃除のアルバイトも安全に出来そうだな。

 ……間欠泉で飛ばされなきゃね。


 勢い良く吹き出た熱湯に飛ばされていく自分を想像している間に、身体に貼られたテープや熱電対を剥がされ、温度計も抜いてもらえた。


「試験終了、綺麗に拭いてあげるからそのままで居てね」


 ビーカーに入れられたままシンクに移動し、今度は水道水で冷やされるらしい。俺の外部温度は六十度を越えていて、急激に冷やしたらこれもヤバい気がする。


「急冷したら危険だから、少しずつ冷やすよ。

 あ、でも、その前に……」


 え? 何? 冷やす前に何かすることあるの?


 耐熱手袋を嵌めた左手で湯から掬いあげられたかと思うと、シュッと音を残して突然銀色の疾風が俺を襲った。

 ヒェー! いつの間にメスを持ったんだよ?

 見えなかったから、魔法で作ってると言っても信じるよ。


 ――俺の目と『スガク(仮)』でも捕捉不能なメスさばき……この人、やっぱりただの可愛い眼鏡っ娘研究員じゃねえっ!

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