第5話・皇孫皇子の愁いの理由 ~痛みを隠した笑顔の下で~
第9章 女神の巫女は決意する
第5話・皇孫皇子の愁いの理由 ~痛みを隠した笑顔の下で~
すっかり風が冷たくなったな……と、ぼんやりと外に顔を向け、耳を傾けるジョンは、急に城内が騒がしくなったことに気づいていた。
旧皇子宮……現在は皇太子宮とされているこの宮殿も、他の宮殿と同じく直接皇城に繋がっているわけではない。
どちらかというと同じ敷地の中にある、というだけで、歩いていける距離にはない宮殿も多い。
それなのに、なぜ騒がしくなったことに気づけたのかと、ふと疑問を覚えた。
思い返せば、五年もの眠りから目覚めた直後も、周囲の状況がすぐに理解できたような気がする。
(……目が見えなくなった代わりに、耳がよくなったのか? いや……それだけでは説明がつかない……音というよりも、注意を引かれる気配があるというか……)
説明のしようがなくて、何とも気味が悪い。
(姉上は私のこの目を治そうとしてくれているけれど、正直、無茶をして欲しくはない……私の目が見えなくても、目の代わりをしてくれる……信頼できる者が傍にいてくれれば事は足りる……)
盲目であることは為政者として、次期皇帝として確かに大きな欠点となる。
けれど、それを補って余りある知性と理性を認めているから、祖父たる皇帝はいまだジョンを皇太子としているのだ。
それが分かっているから、ジョンはジャンヌが無茶をしないように誘導してきた。
多分、ジャンヌ自身も何となくでも理解している。
その上で、誘導に乗ってくれている部分もあるのだろう。
そのくらいのことが分からない姉弟ではない。
(……せめて、年明けくらいまでは、大人しくしていていただかないと……聖木祭や新年参賀に皇孫皇女が居ない、なんて……絶対にあってはならない……)
聖木祭は、この大陸で最も大きな、そして最も重要な祝祭。
国と神殿の威信をかけて盛大に開催し、何事もなく終える必要がある。
新年参賀も同様。
こちらは外交的な側面でも、僅かな綻びも許されない。
それくらい、重要な行事が今月の後半から来月の中頃まで続くのだ。
(……今年は私も参加する必要がある……こんな見た目で、知られるわけにはいかない欠点も抱えているけれど……)
それでも、「病に倒れていた皇子が回復した。」という噂が、既に市井にまで出回ってしまっている以上、顔見せなしとはいかない。
(この見てくれをどう説明すればいいものか……流石に、病で倒れていた間、成長が阻害されていた……だけで説明がつく状態じゃないだろうし……)
そっと、細く息を吐きだし、思考を巡らせる。
自分がどんな姿形をしているのかを、自分自身で確かめることができるわけではないけれど、それでも話は聞いている。
病み上がりと言うには肌艶は良いようだし、なのに見た目は五年前のまま。
目が見えないことは誤魔化しようがあっても、見た目を取り繕うには無理がありすぎる。
(……一度、お爺様とご相談しないと……)
きっと、皇帝陛下もきちんと考えてくれているだろう。
そのお考えを聞いて、意向に沿う必要がある。
(……何があったのかは分からないけれど、姉上がちゃんと皇宮に留まっていてくれれば、とりあえずはいいかな……)
皇都を散策したい、程度ならとにかく、流石に皇都を離れて旧都に行きたいとか言われると止めざるを得ない。
その、皇都の散策と言って出かけて先でとんでもない事態を引き起こしたらしいとも聞いているから、皇都の散策すら止めざるを得なくなっていると気付いているのか……
(このまま、何も動きがないままで、何も、分からないままで時が過ぎればいい……)
そうしたら、流石の姉も、受け入れざるを得なくなるだろう。
目を覚ました。
それだけでも、とてつもない幸運で、喜ばしいことなのだと。
まさに今、皇宮呪師殿でジャンヌが魔族・アーグとの再会を果たし、瞳の宝石という餌をぶら下げられ、釣りだされているとは知らないジョンは、心の底からそう願う。
目標と、目的と、更には場所まで示されて、ジャンヌが大人しくしていられるはずはない。
翌日、一連の騒ぎの顛末をジャンヌから聞かされたジョンは……
笑顔の下で絶望感を抱くことになった。
年明けの行事を終え、周囲が落ち着きを取り戻すころに、姉がバルバ島へと旅立つであろうことを確信する。
「絶対、取り戻してくるからね!!」
笑顔で決意表明する姉の、その笑顔が想像できて……
「……お爺様は、なんて……?」
少し困ったように微笑むジョンの問いかけに、ジャンヌはそっと、その両手を包み込むように握りしめる。
「……絶対に、取り戻してくるからね……」
静かに繰り返されたその言葉で、止められても行くという意志を知らしめられて……
「……ご無理は、なさらないで……絶対に、ご無事で……戻ってきてください……姉上……」
ほんの一瞬、顔を歪めたジョンは、けれど笑顔でそう告げた。
第9章第5話をお読みいただきありがとうございます。
「何も起きないでほしい」というジョンの願いも虚しく、運命の歯車は無情にも回り始めました。
魔族アーグが残していった「瞳の宝石」というあまりにも残酷で、けれど抗いがたい餌。
自分のために姉が無茶をしないでほしいと願うジョンと、彼のためにすべてを懸ける覚悟を決めたジャンヌ。
互いを深く想い合っているからこそ、その「決意」を止められないジョンの笑顔が切ないです。
守られるばかりではない、ジョンの、皇子としての気高さと覚悟が垣間見える回となりました。
そして、ついに固まったジャンヌの意志。
失ったものを取り戻すための、命懸けの遠征が始まろうとしています。
次回、第2部最終話です。
物語のひとつの節目となる結末を、どうぞお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
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ノリト&ミコト




