第4話・事情聴取の後に残る ~背負わされた十字架~
第9章 女神の巫女は決意する
第4話・事情聴取の後に残る ~背負わされた十字架~
リオンが居合わせた護衛官に頼んで皇城に報告をしてもらったのは、どう考えても現場担当者の判断の域を越えていたから。
けれどまさか、皇帝筆頭秘書官を務める公爵自身が事情聴取に来るとは思わず、背中に汗が浮かぶのを感じる。
一通りの話はファンとディオネラが行い、ジャンヌとクロード、そして護衛官らがそれぞれの立場から事実を語る。
若干、ジャンヌの話は主観が入りまくっているような気もするが、他のメンバーは流石に客観的事実に基づいて話していた。
護衛官の三人は、証言の聴取が終わると、口外無用の命を受けて退室を許され、部屋の外、扉の前で騎士らとともに警護に付く。
「……なるほど……」
最後にウスニーからインスたちの容体を聞いたケルンは、難しい顔で腕を組み、ファンを見た。
真っ直ぐにその視線を受け止めるファンは、流石というか動揺も、引け目も感じさせない堂々とした態度。
けれど、本人も自覚している。
自分の判断ミスで、アーグに逃げられたことも、その結果、インスとアインが呪いをかけられ、アインは片目の瞳の宝石を奪われたのだということも。
「……ファン卿の処遇に関しては、陛下とも協議いたしますが、恐らく厳重注意で終わるでしょう」
「…………は?」
ケルンのその言葉に、思わず声を漏らしてしまったリオンはしまった! と焦りながら両手で口を塞ぐ。
全員の視線が集まっていて、だらだらと汗が流れるのを感じた。
「……君は確か、リオンでしたね? ジャネット皇女と親しくしている、神殿孤児院出身の孤児……その髪色のせいで色々と苦労をしてきたそうですが……」
「……………」
一瞬の沈黙の後、口を開いたケルンの言葉にムッとした表情で睨みつける。
なぜか、ケルンは面白がるように少しだけ目を細めた。
「……ジャネット皇女より、よほど色々と理解しているようですが、今の話には不服がある様子……」
けれど一瞬。すぐに怜悧な眼差しに戻ったケルンに、そりゃそうだと内心で返す。
「……けれど、君にも分かるはずですよ……ファン卿の判断も、行動も、ジャネット皇女をお守りし、ペンティス呪師長を救うと言う、その目的としては正しかったのだと……」
結果的には間違った判断であり行動であったというだけで、あの状況……真実を何も知らない状態で、あの場に居合わせたのだから、同じことをしただろう。
言われるまでもなく、そのことはリオンだってわかっている。
ファンもクロードもいなければ、自分だって同じように動いただろう。
けれど、理解できるのと納得できるのとは違い過ぎるというのも……全員が分かっていた。
そも、感情を考慮に入れて処罰を下すというのは、為政者としてはあってはならないこと。
支配する者の気分次第で許されたり罰されたりなどしたら混乱は必至。
法の意味がない。
「……インスやアイン、それから……キプラはどう……なるの……?」
一瞬の沈黙の後、口を開いたのはジャンヌ。
誰もが気になっていた、その問いを投げかける。
「……さて、まずは、当事者への事情聴取からですね……」
「……全員、いつ聴取できるか分かりませんが……?」
ふむ……と、少し考えて応じたケルンに、ウスニーが口を挟む。
言われるまでもなく、そのことはこの場にいる全員が理解していた。
「……キプラ呪師長に関して言えば、伺ったお話しと、先ほどご報告した通りの容体から、精神的な問題さえなければすぐに気が付くでしょう……」
淡々と、ウスニーは説明していく。
肉体的には健康そのもの。
けれど、その精神的負荷がいかほどのものであったのかは誰にもわからない。
「問題は、インスとアインです」
そして、わかりやすく重症だった二人は生死の境にいる。
どちらがより症状が重いか……の判断が付かないほどには二人とも重体で、助かったとしてもその先、どうなるかわからない。
三人が三人とも、ある意味、重い十字架を背負わされている状況。
「……キプラに、まだあいつの影響が残っていたりとかは……」
「「それはないでしょうね」」
ふと思いついて、顔色を悪くしたジャンヌに対し、ケルンとウスニーが同時に答えた。
直後、少し意外そうな顔をしてケルンはウスニーを見て、ウスニーは重い溜め息を漏らす。
「……なぜ、言い切れるのですか……?」
青い顔で同席しているディオネラが問いかけると、ケルンとウスニーは一瞬顔を見合わせる。
軽く肩を竦めたウスニーに頷いて、ケルンが唇を開いた。
「アインの体内に消えたという水の神剣には、浄化の力があるそうです」
「「「……浄化……?」」」
ジャンヌと、ファンと、リオンが口に出し、クロードは軽く目を見開く。
問いかけたディオネラは、その一言で察して息を飲んだ。
「……そして、宿っている意思は二つ……」
「「……えっ……!?」」
続けられて、今度の声はジャンヌとリオンだけ。
ファンは片眉を跳ね上げ、クロードとディオネラは目を見張る。
「その意思は、水でできた龍の姿と、羽の生えた氷の狼の姿だそうです」
「「…………ぁ」」
その言葉にはジャンヌとリオンも思い当たるものがあった。
神剣の封印を解いていくらもしないうちに行った訓練の時と、つい先ほど。
アインは二度、それを具現させている。
一度目の時は暴発のように姿を現し、どういう訳かお互いを喰い合うような動きを見せていた。
だから、その時、インスの制御下を放れた、影人形という訓練用の魔物を生み出す魔法で作られた魔物を押し倒したのは、恐らくただの偶然。
具現させた直後にアインも意識を失って倒れ、二つはすぐに姿を消した。
そして先ほどは……
多分、アインは意図的にそれらを出現させたのだろう。
キプラを閉じ込めていた水柱は、水の龍が姿を変えたもの。
それも、キプラを閉じ込めていたわけではなく、アーグを捕らえていた。
そして、キプラに噛みついたように見えた、羽の生えた氷の狼は、キプラの体内からアーグを引きずり出していただけ。
その証拠に、水で濡れてはいたが、キプラの身体に怪我はない。
全身を水に浸けたのが浄化するためで、強制的に引きずり出されかかったアーグが、キプラの中に戻らずに外に出てきたのは……
「……浄化された呪師長の中にはもう居られないから、すんなり出て行った……ということか……」
納得のいく可能性をファンが口に出し、ケルンとウスニーが無言で頷いた。
第9章第4話をお読みいただきありがとうございます。
今回はケルン卿による事情聴取と、事後処理についてです。
結果論だけで人を裁くことはできない。
ファンの行動は「警護者として正しかった」と判断されますが、それを聞くリオンたちの心中は複雑です。
それぞれが正しいと信じて動いた結果、誰も望まない結末になってしまいました。
ファンも、アインも、そして何もできなかったジャンヌたちも、目には見えない十字架を背負うことになります。
そして判明したアインのファインプレー。
水の神剣に宿る二つの意思と、浄化の力。
なぜキプラが無傷で、魔族だけが出てきたのか?
それはアインの魔法が対象を傷つけるものではなく、不純物を取り除くためのものであったから……
彼は最初から、助けることしか考えていなかったようです。
誰も悪くないはずなのに、誰もが傷ついている――。
この惨状を目の当たりにしたジャンヌがどのような道を選ぶのか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
――――――
ノリト&ミコト




