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第2話・赤き闇の焔は垂らす ~撒き散らされた悪意の開花~

第9章 女神の巫女は決意する



     第2話・赤き闇の焔は垂らす ~撒き散らされた悪意の開花~



「「「「……ぇ……?」」」」


「ぅぐ……ぁ……、あ゛あ゛、ああぁ……っ!!!!」



 呆然として、見ていることしかできないジャンヌたちの前で、暫くのたうって血を吐いていたアインがやがて動きを止め、微かな痙攣と掠れた呼吸音だけが残った。



「くく……っ」



 全員が、言葉もなく、硬直している中で、微かに笑い声が響く。



 一体誰がと、視線を巡らせたその先に……



「「「「……な……っ!?」」」」



 足元が、床に倒れたキプラと一体化した若い男が一人立っていた。



 黒ずんだ血の色じみた暗い赤色。


 朱殷しゅあん色の髪と目をした、二十代半ばほどの外見の男。



 その男を、ジャンヌは、ファンたちは知っていた。



「感謝しますよ? ディアス・ラーシア・ファーン=フロークス。()()がその子の()()をしてくれたおかげで、私は無事で済みました」



 キプラの身体から足を抜いて、完全に分離したその男の背には、黒い網目の蝉の羽。



「……っ!?」



 その姿に、そして感じ取った強大な魔力に、呪師であるディオネラが悲鳴を飲み込み、その場にへたり込む。


 カタカタと震えながら、それでも目を逸らすことができずにその姿を凝視する。



「……『()』は厄介なのですよ……私たちにとっては天敵ともいえる力ですからね……まあ、歯止めとなる機能の破壊には成功していますので、使い手の器の限界を超えて使うことができる代わりに……」



 言いながら、アインに歩み寄った男は無造作にその襟首を掴んで持ち上げた。



 ぐったりとして、意識があるのか、ないのかもわからないアインは苦し気に咳き込み、血の混じった泡を吐く。



「こんな、未熟な器で私を消し去ろうとするからこの様です……」


「……アーグ……?」



 クスリと笑う男を、ぼんやりとした声でジャンヌが呼ぶ。



 二か月半ほど前、旧都の廃離宮西の塔で()()()()()の、魔族。


 五年前に自分たちを襲って、弟に、カルロスに呪いをかけた調本人。



 神剣の封印を解いて、戦って、倒して……カルロスにかけられた呪いを解いた。


 奪われていた、心の宝石とかいうものを取り戻して、目を覚ましてくれたのに……



 なのに、その瞳は光を失ったままで。


 だから、生きているかもしれないとは、思っていた。



 けれど、まさか……



「……ずっと、キプラの中に、いたの……?」


「ええ。五年前から」



 信じられない思いで問いかけたのに、ごくあっさりと肯定される。



「なかなかに、愉しませて頂きましたよ……特に……」



 言いながら、アーグはアインを掴んだまま、今度はアインが背にしていた箱に近づく。



 中を目にしてファンが絶句したその箱の中身を、ジャンヌたちも初めて認識した。



「「「「……な……っ!?」」」」



 拘束され、ぐったりとしたインスの姿に、息を飲む。


 ディオネラと、護衛官たちも驚きのあまり絶句した。



「インス=ラント……最高の逸材ですね……どれだけ追い詰めても、必ず生きて帰ってくる……代わりに、常にボロボロです……彼の苦痛に歪む表情(かお)や、苦しみの感情は本当に、最高のごちそうでした……ご褒美を上げましょう」


「……っ! ……ん……っ! んん~~~~っ!!」


「「っ!? インスっ!!」」



 言うや否や、アーグは右手をインスの胸元に沈め、大きく体を仰け反らせたインスが顔を歪めて悲鳴を上げる。


 その声は口を封じる枷に遮られ、くぐもった呻きにしか聞こえなかったけれど、酷い苦痛を与えられていることは分かって、ジャンヌとリオンがその名を呼んだ。



 すぐにアーグは手を抜いて、今度は襟首を掴んだまま連れてきたアインの背に手を沈めた。



「っ!!!! ぁ……は……っ!!!!」


「「アインっ!!」」



 同じようにのけぞったアインは、悲鳴を上げる力も残っていないようで、声にならない息を漏らすだけ。


 今度はジャンヌと、クロードの声が呼ぶが、二人とも返事をすることも、反応を示すこともなかった。



「……っ!!」



 ギっと、アーグを睨んでファンが手にした神剣を握り直す。



「やめておきなさい。この二人を殺すつもりがあるのなら、別ですが?」



 しかし、振るうより先にそう言われ、目でインスとアインを示されて、グッと動きを止める。



「ああ。そうだ……ついでに、瞳の宝石について、教えてあげましょう」


「……ぇ……?」



 その様子にクスリと笑って、アーグはふと、思いついたように笑みを浮かべた。



 思わず反応してしまったジャンヌは、直後にアーグがアインを見たことで嫌な予感を覚える。



「……瞳の宝石というのはね、目に宿る魔力の結晶です……すべての存在には魔力が宿ってはいますが、瞳の宝石が()()()のは、瞳の宝石持ちだけです……貴方がたに分かりやすく言うなら……見者けんじゃだけ……」


「「「「…………っ!?」」」」



 言いながら、アーグの指先が、アインの左目に沈み込む。


 ギョッとして息を飲んだ一同の前で、苦痛に顔を歪め、痙攣するアインの目から……一切目を、その周囲の皮膚も傷つけることなく、指を抜いたアーグの手には……アインの瞳と同じ、一見すると黒にしか見えない、深い紫色の正円球の宝石が、一つ。



「……()()が、瞳の宝石です。目に宿る魔力を抽出すると、こんな風に、目と同じ色の結晶になることから『瞳の宝石』と呼んでいます……」



 見せつけるようにしてゆっくりと左から右へと手を動かす。


 その指に摘んだアインの瞳の宝石を、そのまま掌に握りしめて消してしまった。



「っ!? どこに……っ!!」


「バルバ島です」



 アインの宝石をどこにやったのか?


 カルロスの宝石はどこにあるのか?



 どちらとも取れるジャンヌの叫びに、アーグはあっさりと答えた。


 ぐったりとして意識を失ってしまった様子のアインの顎を掴み、顔を上げさせる。


 先ほどは指を潜り込ませた左目の辺りを軽く撫でると、びくりと微かにアインの身体が跳ねた。



「今、この子から抜き取った瞳の宝石も、五年前に、貴女の弟君から手土産に頂いた瞳の宝石も、どちらもバルバ島の私の城にありますよ」


「……バルバ島に、お城……?」



 バルバ島というのは、大陸の南西方沖に浮かぶ大島。


 魔物の住処とも呼ばれる離島で、人が寄り付くことのない魔窟だ。



「……っ!?」



 呟くように繰り返したジャンヌに笑みを見せ、アーグは掴んでいたアインをファンに向かって投げつける。


 咄嗟に神剣を手放し、抱き止めたファンを見て笑みを深めた。



「……インス=ラントとその子には呪いをかけておきました。魔法を使おうとすると……魔力を使うと相手が苦痛に襲われることになります……この二人は少々、目ざわりでもありますからね……無力化しておけば、とても愉しい逸材ですが……」



 クク……と笑って、アーグはその背の羽を広げ、浮かび上がる。



「バルバ島に、来るも来ないも好きになさい……ただ、その場合、皇子様は一生、瞳に光を取り戻すことはありませんし……その子も、片眼が見えないままです……」



 そして当然、インスとアインにかけられた呪いというのも、そのままになる。



「一応、歓迎の準備はしておきますよ? ……それではまた……お会いしましょう。ジニア・プローフ・ジャネット?」


「っ!? ま……っ!!」



 優雅に一礼したアーグの言葉にハッとして、ジャンヌが制止を叫び掛ける。


 けれど、それで待つような相手ではなく、アーグの足元に生じた赤い魔法陣と共に、その姿が消え去った。



「っ。~~~~~~っ!!」



 ギリっと歯噛みして、悔しくて悔しくて、地団駄踏むジャンヌを、そっとクロードが肩を押さえて落ち着かせる。



「っ!! 行くわよ!!」



 目に怒りを宿して怒鳴ったジャンヌの言葉に、やっぱりな……と思った瞬間、リオンの身体から力が抜ける。


 一気に震えが来たが、へたり込むことは堪え、顔面蒼白になってただ硬直していることしかできなかった護衛官らをのろのろと見た。



「……悪い。医務殿と皇城に連絡、頼む……」


「「「……あ……っ!?」」」



 言われて、ハッと我に返った護衛官らがすぐさま動き出す。



 アーグの魔力に充てられたのか、ディオネラもいつの間にか気を失っていて、室内にはアインを抱き止め、青ざめて立ち尽くすファンと、箱の中に閉じ込められ、拘束されているインスと、床に倒れ伏した……多分皇宮呪師長のキプラとかいうおっさん。



 ……カオスだ……



「……どうするんだよ……これ?」



 一体どうなるのか、リオンにはまったく予測がつかなかった。


第9章第2話をお読みいただきありがとうございます。


まさかの魔族・アーグの再登場です。


しかもキプラの中に5年も潜んでいたという衝撃の事実。


守るために振るったファンの神剣が、結果として「天敵」であるはずの魔族を助けてしまうという、あまりにも皮肉で残酷な展開。


一瞬にして皇宮はカオスに包まれ、あまりにも多くの傷跡が残されました。


奪われたアインの「瞳の宝石」と、明かされたカルロスの「瞳の宝石」の行方。


あまりにも一方的な蹂躙。


点と点が繋がると同時に、インスとアインには「魔法を使えば苦痛に襲われる」という、呪師にとって死を意味するような呪いまでかけられてしまいました。


意識を失ったアイン、拘束されたままのインス。


二人の天才を無力化し、嘲笑うかのように去っていったアーグ。


一番打ちのめされているのは、剣を振るったファン自身かもしれませんね……


あまりにも一方的に、そして残酷に突きつけられた「バルバ島」という目的地を前に、ジャンヌの怒りは今、限界を超えようとしています。


それにしても、現場の惨状はまさにカオス。


まずはこの状況をどう収拾するのか……


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【番外編・第3弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意おもいの欠片~

(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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