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第1話・互いの『想い』がぶつかって ~急転直下の変化の先に~

第9章 女神の巫女は決意する



     第1話・互いの『想い』がぶつかって ~急転直下の変化の先に~



 インスの行方が分からなくなった。


 その報告を聞いた瞬間、ジャンヌは即座に消失したとされる現場に向かおうとし、ファンだけでなく、リオンやクロード、果ては周囲の近衛や女官兵、侍女たちに至るまで総出で止められる。



「なんでよ!? これって前と同じじゃないの!?」


「だからダメですっ!!」


「だからなおさらダメだろうっ!!」



 女官兵や侍女たちが物理的に抱き着いて……というより、押し潰すようにして止め、その周囲で騎士らが囲って進行を塞ぎ、怒鳴り散らすジャンヌに、ファンとリオンの声が重なって響く。



「でも! だってっ!!」



 漸く見えた変化なのにっ!!



「「ダメなものはダメ(です)!!」」



 焦りなのか何なのか、全く周りが見えていないジャンヌをファンとリオンが怒鳴りつける。



「お前! 今度同じことになったら、ここに居る全員死ぬぞ!?」


「そんなことさせないわよ!!」


「何の保証もできないだろう!! お前がどう思っているかなんて関係ないんだよ!! 危険に晒した! それで終わりだ!!」


「させないってば!!」


「どうやって!!」


「わたしが勝手に……」


「それが通らない言って、言ってるんだよっ!!」



 こんな時、遠慮のない関係というのはある意味強い。



 お待ちください。おやめくださいと、いくら言っても聞かないジャンヌに、一切飾らない、刃物のような言葉を、ジャンヌとリオンはぶつけ合う。


 本来であれば口が過ぎると不敬を咎める立場のファンも、周囲の者たちも口を挟まずにやり取りを見守る。



「お前に! 勝手に! 動かれたことに! オレたち全員! 処罰を受ける! って言ってるんだ!! 法律学べ!!」


「知ってるわよ!!」


「なら動くな!! バカか!!」


「だって! インスが!! カルロスの!!」


「現場で調べてるだろうが!! お前が行って、事態をややこしくするな!! それでお前に何かあって、皇子は喜ぶのかよ!!」


「……っ!?」



 舌戦を制したのはリオン。


 ぜーはーと肩で息をしながら、これ、あとで不敬罪とかで処刑されたりして……と、頭の片隅に浮かぶが、今更だ。


 とにかく今はジャンヌを止める。


 頭に血が上った状態で突っ込ませるわけにはいかない。



「とにかく、一旦、報告を待て。インスは凄腕の皇宮呪師だ。不可抗力にしろ、意図的に姿を消したにしろ、調査は徹底的に行われるはずだ……そうだよな?」


「……もちろん……」



 グッと言葉に詰まったジャンヌに、幾分語調を弱めたリオンが確認したのはクロードに対して。


 神殿側であるとはいっても、同じ護衛官のクロードなら、呪師の所在が分からなくなった際の調査に関して知っている。


 短く言って頷いたクロードも真っ直ぐにジャンヌを見つめていて……



 全員が、今、ジャンヌが動くことを止めようとしている。



「……っ。なら……」



 微かに目を潤ませて、けれど泣かないようにギュッと眉間にしわを寄せて、ジャンヌが震える声を絞り出す。



「……ちゃんと、教えてよ……隠さないで……」


「……だとよ。ファン……」



 溜め息を一つ。リオンがファンを見れば、渋面になったファンが致し方なさそうに溜め息を吐く。



「……私の元に届いた報告は、きちんとお知らせいたします……」



 ファンができることはそこまで。


 上の方で情報を止められてしまえば、どうすることもできない。



 それでも、何も知らされず、何も知らないまま、誰かを傷つけ、苦しませるよりはずっとましだ。



 無言で頷いたジャンヌは、三日後、インスの行方が分からなくなる直前に会っていたという、皇宮呪師長キプラ=ペンティスに話を聞きに行くことにした。



 現場と思われるインスの部屋に行くのではないのなら……と、ファンもクロードもリオンも一緒に、皇宮呪師殿の呪師長室を訪れる。



「……ジャネット皇女? それに、ファン卿たちまで……」



 そこには、皇宮呪師学校の校長であるディオネラ=アムスがいて、揃ってやってきた一同に緊張気味に一礼した。



「キプラに会いに来たわ。インスの……」


「お待ちください」



 不敬を承知で、ディオネラはジャンヌの言を遮る。


 驚いて、ジャンヌは軽く目を見開き、ファンが不機嫌そうに眉を顰めた。



 ディオネラは先に無礼を謝罪し、しかし……と、話を続ける。



「……今、アインがペンティス呪師長に挨拶に来ています……あの子には知らせていないのです……どうか、しばしお待ちを……」


「……え……?」



 呪師長室の扉を、目だけで振り返って告げたディオネラの言葉に、ジャンヌは震えた息を飲みこむ。



 さあっと、顔から血の気が引いたのは、先日、インスに言われたことと、その少し前に皇宮医務殿の長官であるウスニー=メンテに言われたこと。


 更に、アインの()()によるものと思われる、窓を揺らす風圧を思い出したから。



 その授業に同席していたクロードから、何が起きたのかは聞いていて、アインに対しての罪悪感で胸が潰れそうになる。



「……姫様。一旦……」



 お戻りを。



 そう続けようとしたファンの言葉を遮るように、ドンっという重い音と同時に、とんでもない圧力が周囲に満ちた。



 突然の異変にギョッとしたディオネラが呪師長室の扉を振り返る。


 扉の前にいた皇宮護衛官二人と、アインの付き添いであろう神殿護衛官がサッと剣を抜き、一人が扉を蹴破った。



「何事で……っ!? 呪師長!? アイン!! 何を……!!」



 開かれた扉の向こうの状況に、ディオネラの唇から悲鳴のような声が上がった。



「えっ!? 何っ!?」


「っ!? 貴様っ!!」


「はっ!?」


「……っ……!?」



 ジャンヌが、ファンが、リオンとクロードが、驚き、声を上げ、息を飲み、咄嗟に剣を抜いたファンが護衛官らを置き去りに室内に飛び込む。



 部屋の中では、アインが使ったのであろう水の魔法で、水柱に閉じ込められてもがき苦しむキプラの姿。



「……引きはがせ……」



 感情の消えた、否、怒りを隠さない冷えた声音がアインの唇から零れ、羽の生えた氷の狼が出現し、水柱に閉じ込められたキプラに食らいつく。



「……あれ、……って……?」



 その姿に目を見開いたジャンヌたちの動きが一瞬遅れる。



「……ヴィンテ……切り裂け……」



 口の中でそう呟いたファンが風の神剣を振るい、水柱と氷の狼を切り伏せた。



「っ!? な……っ!?」



 目を見張ったアインがファンを睨むが、振り向き様に足技を放ったファンに蹴り飛ばされ、床に叩きつけられる。



「……は……?」



 直後、アインの後ろにあった箱の中身が目に入って、ファンの動きが止まった。



「……っあ……っ。かは……っ!」



 容赦なく蹴り飛ばされたアインは息を詰まらせ、床でもだえる。



「……っ!? ……ぅ……っ! あ……っ!! が、ああ……っ!!」



 直後、一瞬息を引きつらせたアインは全身を引き裂くような激しい痛みと苦しさに、大量の血を吐いてのたうち回った。


第9章第1話をお読みいただきありがとうございます。


暴走しかけるジャンヌと、それを必死で止める周囲。


そして辿り着いた先で目撃したのは、アインによる呪師長キプラへの攻撃でした。


大切な人を救いたい。


ただそれだけの想いで強大な力を振るったアインでしたが、その光景は周囲の者には「暴走」にしか見えませんでした。


あまりにも最悪なタイミングでの邂逅、そしてファンの容赦ない一撃……。


真実を知る者と知らない者の致命的な「すれ違い」が、アインをさらなる窮地へと追い込んでしまいます。


ファンに蹴られたダメージだけではないようなアインの様子。


そしてファンが見てしまった「箱の中身」。


修羅場と化した呪師長室で、一体何が起きるのか!?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【番外編・第3弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意おもいの欠片~

(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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