第5話・呪師長と見習い ~神秘の瞳が見通す真実~
第8章 正義の裏の深い影
第5話・呪師長と見習い ~神秘の瞳が見通す真実~
インスの行方が分からなくなっていることを、アインは教えられていなかった。
けれど、今日の皇宮訪問が、皇宮呪師長への挨拶であるとは聞いていたので、出迎えに出てきたのが皇宮呪師学校の校長、ディオネラ=アムスであったことにもそれほど驚きはなかった。
ふんわりとウェーブがかかった淡いピンク色の髪と、明るい翠色の瞳をした、四十代にはなっていそうな外見の女性の呪師で、アインの皇宮呪師としての授業では座学を担当してくれている。
ただ、ほんの少し、インスにも会えないかな? という気持ちはあったので、呪師殿の入口でディオネラと挨拶をした時に複雑そうな表情をされてしまったが……
せっかく時間を取って貰っているのだからと気を引き締めたアインだったが、どうも、何というか雰囲気がおかしい。
呪師殿なのに、皇宮呪師の姿が殆ど見当たらないのは何でだろう?
それに空気も、人の気配もピリピリとしていて、何だか怖くなる。
「……大丈夫ですよ。少し、探しているものがあるので、慌ただしいだけです……」
顔を強張らせ、視線だけで周囲を伺うアインの様子に、意識的に普段通りの表情を見せて告げたディオネラに、アインも一応は頷きを返す。
けれど、緊張感が逆に高まってしまったのを感じて、ディオネラはそっと、気づかれないよう、自然の呼吸に合わせて深く息を吐いた。
「失礼します。アインを案内して参りました」
「ご苦労様です……入って貰って下さい」
呪師長室の前で立ち止まったディオネラがノックをして訪問を伝えると、中から落ち着いた男性の声が応える。
扉を開いて一礼したディオネラにそっと背を押され、俯きがちのまま「失礼します。」と挨拶してアインは室内に足を踏み入れた。
「では、私は外で待っておりますので……」
「ええ。ありがとうございます」
そう断ったディオネラが、返事を待って扉を閉める。
パタンと音がして、室内にキプラと二人っきりにされたアインは、緊張のあまり微かに震え、こくりと小さく喉を鳴らした。
「ようこそ、呪師殿へ……君がアイン……ですか……」
「……は、……い……」
声をかけられて、近くに来るよう言われたアインは、ゆっくりと、俯いたまま足を踏み出す。
どういう訳か、怖くて仕方ない。
声は穏やかで、静かだというのに、何か、おかしいと感じる。
ギシギシと、心臓が嫌な音を立てていて、頭が酷く痛い。
ともすれば乱れそうな呼吸を必死で保って、部屋の奥、執務机の前まで歩み寄った。
「……皇宮呪師長を務めています。キプラ=ペンティスです」
「……アイン、です……。よろしく、お願いします」
会えて嬉しいですよ。アイン――
「……………」
挨拶をして、その声を聞いて、顔を上げたアインは、キプラを一目見た瞬間。
ざっと顔色を失った。
「? アイン?」
「…………ぁ…………」
目を見開き、ガタガタと震えだしたアインを、不思議そうにキプラは見る。
「どうしました? 具合でも悪いのですか?」
言いながら、立ち上がったキプラから目が離せない。
唇が意味もなく戦慄いて、限界まで開かれた瞳が真っ直ぐに、キプラを凝視する。
執務机を回り込んで、アインの右手側に回り込んだキプラが、腰を落としてアインの顔を覗き込む。
真っ青になって、冷や汗を浮かべるアインは一歩、後退り……
「……っ……!?」
その瞬間、キプラの後ろにあるものが目に入って息を飲んだ。
「……アイン……?」
「……インス、さま……?」
首を傾げて呼びかけるキプラを無視して、箱を凝視するアインが囁くようにその名を刻む。
キプラが、目を見開いて絶句した。
「っ! インスさま……っ!!」
その瞬間、弾かれたように駆け出したアインがキプラの脇を通り抜け、後ろにあった箱に駆け寄る。
その箱は左右に観音開きになるような造りになっていて、錠前で閉じられていた。
「……驚きましたね……」
「っ! 空刃切裂!!」
振り返って、立ち上がったキプラが口の中で呟く。
それを無視して、アインは呪文を唱えると、錠前を切断して蓋を開いた。
「……………っぅ……………」
「っ!? いんすさま……っ!!」
中には、確かにインスがいた。
口を封じられ、手足を箱の中の枷に拘束されて、鎖と繋がった首輪をはめられてぐったりとした、息も絶え絶えな様子のインスが。
アインの声が聞こえたのか、それとも急な明かりに目が眩んだのか、かすかに震えた瞼がゆっくりと持ち上がりかけて、そのまま落ちる。
息を飲んだアインは無意識に呪文を唱え、そっと、その小さな両手ですっかり渇き切ってかさつくインスの頬に触れた。
「吸湿潤完」
「……ほう……?」
合図の言葉と同時に、アインの魔力がインスの全身を包み込み、ゆっくりと水分を渇いた身体に満たしていく。
軽く目を見開いたキプラが感心したように息を吐いた。
「……なんで……?」
インスに魔法をかけたアインが、ポツリと呟いて、ゆっくりと振り返る。
「何がですか?」
穏やかに微笑みかけるキプラを目にして、ギラリとアインの目に怒りが宿った。
「インス様に……いじわるしないで!!」
「っ!?」
絶叫と同時に、ドンっと音すら立てて室内を重い魔力が満たす。
流石に驚いたのか、キプラが息を飲む。
「……その人から出て行って……! 魔族のヒト……!!」
「なっ!?」
ばっと右手を薙いだアインの動きと同時に、水の龍が姿を現し、驚愕のあまり絶句したキプラを襲う。
「なぜ、わか……っ!?」
誰何の声が途中で途絶える。
水龍に呑まれたキプラが水柱の中で顔を歪め、苦し気にもがいた。
第8章第5話をお読みいただきありがとうございます。
行方不明だったインスの凄惨な姿、そして呪師長キプラの正体――。
あまりにも残酷な真実を、アインの「瞳」は瞬時に見抜いてしまいました。
大切な人を傷つけられた怒りで見せた、アインの圧倒的な魔力。
話し合いの余地などない、一触即発の事態に、アインはどう立ち向かうのか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
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ノリト&ミコト




