第4話・消えた皇宮呪師 ~最上層部の決断~
第8章 正義の裏の深い影
第4話・消えた皇宮呪師 ~最上層部の決断~
皇宮呪師・インス=ラントの所在不明。
その知らせに、皇宮中が激震に襲われた。
最上層部が真っ先に疑ったのは先の事件同様、魔族による干渉。
しかし、先の事件の時とは違い、数日経過しても杳として行方が知れない。
そうなってくると、インスが自分で行方をくらませた可能性も浮上して……その扱いに関する対応も協議されつつあった。
行方が分からなくなる直前の足取りは判明しているのに、そこからいつ、どうやって行方をくらませたのかが分からない。
だから、早まった処罰はできないとしながらも、最悪の可能性も考慮されていた。
即ち、逃亡を図ったものとして、発見即殺処分の措置。
呪師は魔法を使える。
その力を悪用することがないように管理され、監視されていることで生存を許されている。
窮屈な状況であることは当然皆承知しているが、だからといって、好き勝手されるわけにもいかないからこその仕組みだ。
「……発見できたとして、その状況にもよるけれど……最悪の場合は、覚悟しておかないとだね……」
重い溜め息を吐いた聖皇国皇帝・バリー帝の発言に、同様に厳しい表情をした筆頭秘書官、ケルン卿オーヴァも重々しく頷く。
「……正直、ラント呪師が自らの意志で姿を消したとは、思いたくありませんがね……」
止めきれる……殺しきれる相手が思い浮かばない。
本当は、最上層部の人間は理解している。
呪師たちが、状況を甘んじて受け入れているからこその均衡に過ぎない、と。
インスのような、本当に力ある呪師がこの状況を厭い、自由を望んで牙をむいた時。
止められる者など、存在していないのだと。
護衛官は呪師を守ると同時に、呪師が暴走したり、意図的に魔法を悪用した場合には処刑する権限を持つ。
だから、呪師を止められる実力を持つ者が付くことになる、というのが基本原則。
でも実際には、呪師の実力が高すぎて、魔法を使えない者ではどうすることもできない相手もいる。
それは、魔族同様の脅威であり、その脅威が眼前に現れた時には、どんな犠牲を払ってでも討伐せざるを得ない。
そうしなければ、国は滅び、多くの者が命を落とし、嘆きと悲しみが地に満ちる。
「……インス君の最後の足取りって、呪師長室から出て部屋に戻ったところまでは確実なんだよね?」
うーんと、頭を悩ませるバリー帝に、調査報告書を再確認しつつケルンは頷く。
「はい。複数の警備の皇宮護衛官がその姿を目撃しております……特に話をした者はいないようですが、用もなく話すこともありませんしね……」
特に普段と変わった様子もなさそうだった、という証言ばかりで、突然の失踪理由が分からない。
「……一度、教皇猊下に話を聞いてみるかな……」
しばらく考え込んでいたバリー帝は、ぼそりと口の中で呟く。
「陛下?」
「ああ。何でもない……そういえば、ジニアは大人しくしているのかい?」
聞き取れなくて、聞き返したケルンに対し、バリー帝は手を振って、お転婆な孫娘の動向を確認する。
途端、ケルンの眉間にしわが寄った。
「……話を聞いた直後から、部屋に突撃しようとして、ファン卿らが懸命に留めているようですね……」
返答に、バリー帝は苦笑い。
「……正解だ……インス君の部屋には近づけさせるな……トリガーが仕込まれているとすれば、そこになるだろう……」
もしこの、インスの失踪が、魔族の干渉によるものだとするなら、話を聞いて現場に向かうと騒いだジャンヌは間違いなく、直前まで居たはずの部屋に飛び込むだろう。
当然そこには、何らかの仕掛けがあるに決まっている。
だから、ジャンヌをインスの部屋には近づけさせるな、という厳命は、最初期の段階でケルンからファンに、そして近衛に伝えられている。
何より、呪師の失踪に護衛官らが殺気立つ個室呪師寮周辺に『女神の巫女』が姿を表せば、一触即発の均衡が崩れかねない。
失踪したインスが直前まで居たはずの私室にも、呪師寮全体にも……どころか、皇宮内のどこにも、手がかりとなる痕跡が残っていないのだ。
痕跡を消しての逃亡なのか、それとも、痕跡を残さない者によるものなのか……
何一つはっきりしない中で、それぞれに普段通り任務に就くよう言ったところで難しいのは分かり切っている。
いや、ただ一人、まるで範を示すかのように、普段通りの振る舞いをしている者がいた。
「……今日は、アインが皇宮に来るんだったか……」
「……はい。先日の授業の結果を受けて、一度話をしたいとペンティス呪師長からの依頼で……」
そのただ一人、皇宮呪師長キプラ=ペンティスのことを思いだし、その流れでインスが失踪した日に決まった予定も思い出す。
「……見者、か……」
「陛下?」
フッと、一瞬過った考えに、バリー帝の目が怜悧な光を宿す。
気づいたケルンが呼び掛けると、その眼差しがケルンを捉えた。
「……神殿側との協議も必要になるだろうが……アインの『目』を使って痕跡を調べさせろ」
「……っ。かしこまりました」
直前までの、どこか余裕のある態度を一変させ、統治者としての威厳を漂わせた声音の命令に、一瞬で表情を引き締めたケルンも臣下として恭しく一礼した。
すぐに、配下の文官に、神殿側に送る文書の作成を命じる。
しかし事態は神殿側との協議を待つまでもなく急激に、そして予想外の方向へと進んでいった。
第8章第4話をお読みいただきありがとうございます。
インスは自らの意志で消えたのか、それとも「痕跡を残さない誰か」に連れ去られたのか。
皇宮全体が疑心暗鬼に陥る中、ついにアインの力が捜索のために駆り出されることとなりました。
ジャンヌの焦り、ファンの警戒、そして皇帝の思惑。それぞれの感情が入り乱れる中、物語は一気に加速します。
強大すぎる力を持つがゆえに、常に監視され、何かあれば排除される対象でもある呪師。
インスの失踪は、その危うい関係性を露呈させる引き金となってしまいました。
そんな中、ただ一人「普段通り」の呪師長キプラと、そのキプラに呼び出されたアイン。
役者が揃いつつある皇宮で何が起こるのか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
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ノリト&ミコト




