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第3話・皇宮呪師長 ~キプラ=ペンティス~

第8章 正義の裏の深い影



         第3話・皇宮呪師長 ~キプラ=ペンティス~



 アインの、左腕に残っていた風の神剣が掠めたことでできた怪我の治療のために、その治療を阻害している魔力を消費させる授業が行われた日の午後。



「……報告は以上です……」


「……なるほど。わかりました……」



 皇宮呪師殿にある呪師長室で、インスが向き合っているのは皇宮呪師長、キプラ=ペンティス。



 若干くせがある明るい緑色の髪はワンレングスで、肩甲骨の下辺りでひと纏めにして結んでいる。


 感情の見えない暗い紅紫に近い茶色の瞳で静かにインスを見つめ、何度か頷く男は、五十代の半ば頃の外見をした……その実、百五十歳にはなろうかという傑物。



 五年前の魔族の襲撃事件の際には最前線で指揮を執り、生き残った者たちの中では唯一今も皇宮に勤めている。



 ただし、その五年前の事件以来、一切前線に出る事はなくなり、常に部下である皇宮呪師たちに『多少無茶』と言える任務を割り振っていた。



 質が悪いのは、多少無茶の範囲で押さえていること。


 誰がどう見ても絶対に無理、というような采配はないし、おかげで様々な経験が積めていることも間違いはない。



 けれど……



(……明らかに、頻度が異常すぎるんですよね……)



 一つ一つは多少無茶の範囲だとしても、それが連日、あるいは、日に何度も繰り返されるのは多少無茶の範囲なのだろうか?



 自分が何とかなってしまっているので、そのせいで他の呪師たちにまでシワ寄せが行っていなければいいけれど……と意識の片隅で考える。



「……では、今後の授業方針に関しては……」



 よそ事を考えている間に、キプラの方でも何か、考えがまとまったらしい。



 語り始めた呪師長の言葉に耳を傾けたインスは……だんだん顔が強張っていくのを感じた。



「……無理でしょう……」


「なぜ?」


「……っ……!?」



 話を聞いて拒絶するが、キプラは本気で不思議そうに首を傾げる。



 一瞬息を飲んだインスが反論しようとするよりも早くキプラが口を開いた。



「……そういえば、()()()聖木祭の期間に実家に戻るのですか?」


「っ。……いえ……予定はありません」



 聖木祭というのは、この大陸において最大の祝祭の日。


 毎年冬至の時期に行われる、大陸の守護神である女神の再生を祝う日。



 冬至の日は、一年で一番日が短くなる。


 それは即ち、女神の力が一番弱まる日と考えられていて、この日を境に少しずつ日が長くなっていくことから、新生の日や再生の日として祝われる。



 前夜から当日にかけては家族や親しい者と過ごし、日が変わり、夜が明ければ神殿で祝祭の祭事が行われるのに参加する。


 皇宮呪師殿の個室呪師寮に入寮している呪師たちは皆単身者ではあるが、実家がないわけではない。


 だから、この期間には実家に帰省する者が多くなるのは例年の通り。



「ですが、貴方の実家は()()()()()()()でしょう? 聖木祭の期間に一度も帰省しないことに、ご家族は何もおっしゃらないのですか?」



 当然ではあるのだが、神殿に仕える神官呪師の方が聖木祭という祝祭を重視している。


 だから、神官呪師の家柄の出身者で、皇宮呪師になった者は軒並みこの期間に実家に帰っていた。


 ただ一人、インスを除いて。



 問いかけに、インスは口元にだけ笑みを貼りつけてキプラを見据えた。



「……言いませんよ……何も、ね……」



 インスの家庭の事情を、キプラが知らないはずはないというのに……こんなことを言い出すなんて、一体どうしたというのか……



 インスは皇宮呪師学校に入学した十三歳の年から一度も帰省したことがない。


 もっと正確に言えば、父母や兄姉と聖木祭を過ごしたことなど……記憶の中に存在しない。



「……そうですか……わかりました……」



 ほんの少しの警戒を見せたインスににこりと笑って、キプラは話を打ち切る。



 そっと、気づかれないように息を吐いたインスは、とにかく……と、先ほど言われた無茶ぶりを再度拒否した。



「……そうですか……」



 再びそう繰り返したキプラの、その暗い色をした瞳に何とも言えない悪寒を感じる。



「では、失礼します……」



 心臓が嫌な音を立てて軋むような錯覚。


 それを飲み込んで、インスは退室の挨拶をする。



「……………」



 薄く、口元に笑みを這わすキプラを薄気味悪く思いながら、踵を返した。



 そして……



 呪師長室から出て、私室に戻って以降、インスの姿が皇宮から消えた。


第8章第3話をお読みいただきありがとうございます。


今回はインスの上司、皇宮呪師長キプラ=ペンティスの登場回です。


見た目は50代、実は150歳という古強者。


番外編をお読みいただいている方の中には、インスに対して妙な質問を投げかけるキプラに、より不穏な空気を感じたのではないでしょうか?


「聖木祭」というキーワード、インスの実家との関係、そしてキプラの真意。


会話が終わった後、部屋に戻ったはずのインスが皇宮から姿を消してしまいましたが……


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【番外編・第3弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意おもいの欠片~

(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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