第2話・気にしなかった真実と ~残った力が起こす風~
第8章 正義の裏の深い影
第2話・気にしなかった真実と ~残った力が起こす風~
インスに言われた言葉に、頭を強く殴られたような衝撃。
促されて、こちらを気にしながらも奥へと進むアインと、一切見ようともしないインスを無言で見送ることしかできない。
チラリと一瞬、クロードが心配そうに視線を投げかけた事にも気づかずに、ジャンヌもリオンも……ファンさえもが蒼白になって立ち尽くす。
警備の皇宮護衛官も、ジャンヌに付いてきた護衛の騎士も、どうしていいかわからずに内心だけでオロオロと……その実微動だにせず……様子をうかがっていた。
三人の姿が完全に見えなくなって、そこで漸く、まずファンが我に返った。
「……姫様。お戻りを……」
それから、真っ先にするべきことをする。
ジャンヌの身の安全確保。
勝手な行動を慎んでもらう必要がある。
「……ぁ……」
声をかけられて、ハッとしたジャンヌはオロオロと周囲に視線を走らせ、もう一度ファンに促されると力なく頷く。
その間に我に返っていたリオンが、馬車の用意を頼みに走った。
部屋に戻されたジャンヌは、ファンとリオンだけを残し、他は全員外に出るよう命じる。
警備の関係もあって渋った周囲の者たちも、ファンからも重ねて命じられ、しぶしぶ部屋の外での警備に移行した。
「……知ってた……?」
全員が部屋を出て行き、神剣に関することを、これまでのすべての秘密を知っている者だけになったところで、ジャンヌが重い口を開いた。
「知るかよ……そもそも、オレが集められるのは噂だけだ……正式に報告されていることじゃない。その噂の中に、あいつの怪我が治っていない。なんてものはなかった……というか、あいつの噂自体が殆ど出回らない」
最初に答えて言ったのはリオン。
隠すことなど何もないが、だからと言って、こんな重大な情報が遮断されていたとは思いもしなかった。
だって、もし、万が一、神剣で誰かを、少しでも傷つけてしまったら、その相手に治らない怪我を負わせることになるなんて……正直、知らなかったでは済まない事態しか想像できない。
しかも……
「……おい、ファン……お前、ジャンヌの護衛騎士団長だよな? 本当に報告されてなかったのか……?」
こんな重大な情報を、騎士団長が知らされていないなんて信じられない。
責めるような目になって問い詰めるリオンに、ファンは渋面を作って口を噤む。
正直に言えば、知らなかった。
だが、報告されていないわけでもないことも分かっている。
リオンの思っている通り、そしてもちろんジャンヌも、ファン自身も、その重要性を理解している。
理解しているのに、覚えがない。
「……まさかとは思うが、あいつのことだからと適当に読み飛ばしたりしてないだろうな……?」
無言のファンにじれて、胡乱げな表情になったリオンに、ファンはまた沈黙を返す。
けれど今度の沈黙は、雄弁なまでの答えだ。
「……そんな……じゃあ、本当に、神剣でできた怪我って……」
治らないの?
ジャンヌの、呟くような言葉に沈黙が落ちる。
「……いえ……治る見込みが立ったから、授業が行われると言っておりました……」
正確に言えば、治すために魔力を使わせる、ではあったが、それが治療のための手段であることは察せられた。
緩く首を横に振ったファンは……だが、それが今日まで行われていなかったことにも気づいている。
アインは、先の事件からの長期入院の後、一度皇宮側で授業を受けているはず。
その時の授業でそれが行われなかったということは、見込みが立ったのはそれ以降と言うこと。
どちらにしろ、その入院期間も二か月近くに及んでいたのは、胸に負った大怪我以外に、腕の怪我が治らないせいもあったのだろう。
アインを危険視しているのは事実だ。
できることなら、今すぐにでも排除したいと。
けれど、だからと言って……
(……必要以上に苦しめばよい。などと考えていたわけではないぞ……!?)
言い訳にしか聞こえないだろうから口には出さないが、それがファンの本音だ。
殺すのならば一撃で即死させる。
無用な犠牲を生まないために、必要があれば越権だろうが悪となじられようが刃を振るうことに躊躇いはない。
けれどそれと、嗜虐的な行為を良しとするのは全く違う。
むしろ、そんなものは唾棄すべきものだとの自負を持っている。
なのに……
(……アレを、危険視するあまり、目が曇っていたことは、認めなければなるまい……)
危険視していること自体は変わらない。
けれどそれと、正しい情報を、正しく認識し、必要な采配を振るわなければいけないことも事実。
(……気を許す必要はない……だが、大人しくしている間は、黙っているしかない……)
少なくとも現状、ファンの訴えは却下され、アインを厳罰に問うことはできなかったと認めて、皇帝陛下らが求めるように扱わなければいけないのだと、心に刻む。
「……どうしよう……どうしたら、アインに……」
謝れるのだろうか?
いまだに青い顔をして、そんなことを口にするジャンヌに、そっと溜め息を漏らす。
「……姫様が謝罪する必要はありません……それに、姫様に謝罪されれば、むしろアレが慄くでしょう」
「……確かに……」
冷たいようだが、ファンの言う通りだとリオンが頷く。
「でも……!」
「アレをお気になさるのでしたら、これ以上、姫様は勝手をなさらず、部屋で大人しくしていていただくのが一番……っ!?」
「「……っ!?」」
食い下がるジャンヌを言いくるめようとしていたファンの言葉を遮って、凄まじい風圧が窓をがたがたと激しく揺らす。
「なんだっ!?」
素早くファンは警戒態勢を取り、リオンが窓に駆け寄って、壁に貼りつくようにして外を覗く。
窓の外、冬の空には冷たい青と、薄く雲が広がっているだけ。
ざわめきは外からも、廊下の方からも聞こえてくるが、目立った異変は特にない。
いや……
「……雲が、割れてるな……」
「「……は……?」」
周辺を中から確認したリオンの呟きに呆気に取られる。
「……ファンの神剣って、風だったよな?」
「……それが……っ。まさか……」
「えっ!? なに??」
壁際から離れ、戻ってきながら問うリオンに、一瞬眉を顰めたファンがはっと気づく。
分からないのはジャンヌだけで、オロオロと二人を見比べた。
「……アインが授業で、風の魔法を使った結果……か?」
「えっ!?」
冷たい汗がファンの背筋を伝う。
乾いた声に驚いて目を丸くしたジャンヌと、凍り付いたように表情を無くしたファンを見ながら、リオンは「多分な……」と頷く。
息を飲んだジャンヌは、もう一度、窓の外の空の様子に目を凝らした。
第8章第2話をお読みいただきありがとうございます。
インスによって突きつけられた事実に、言葉を失うジャンヌたち。
特にファンにとっては、アインを危険視するあまり、無意識に情報を遮断してしまっていた事実は重くのしかかっているようです。
三人の間に流れる重苦しい沈黙が、彼らの「正義」の揺らぎを物語っているようです。
そして、重苦しい空気を切り裂くようなラストの突風。
「雲が割れる」ほどの力が、治療という名の授業で何を引き起こしているのか。
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
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【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
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【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
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ノリト&ミコト




