第1話・知らなかった真実と ~気づかなかった罰の正体~
第8章 正義の裏の深い影
第1話・知らなかった真実と ~気づかなかった罰の正体~
一瞬の膠着を破った声の主は皇宮呪師のインス。
黒い皇宮呪師の制服を身に纏った十八歳の若き天才は、穏やかでやわらかな笑みを口元に貼りつけて、一切の温度を排した眼差しでファンを、そしてその後ろにいるジャンヌを見た。
「……フロークス爵子。ここがどこで、その子がどんな立場に居るかわかっていての狼藉ですか?」
「「「……っ……!?」」」
にこりと笑って見せたインスの問いかけに、聞かれたファンだけではなく、ジャンヌとクロードも息を飲んだ。
インスがファンを『ファン卿』と呼ばずに、その姓と身分を表す『爵子』と言う敬称で呼んだことで、明確な一線を突き付けられたことを悟る。
一人、状況が分かっていないのはリオンだけ。
ジャンヌの護衛として付いてきた騎士の二人も、いきなりの皇孫皇女の訪問と、続く騒ぎに泡を食っていた周囲の警備も、インスの態度に絶句する。
「……いつまでそうしておられるおつもりですか? 今すぐ引いて下さい。それとも……越権行為で咎められることをお望みですか?」
ゆっくりと歩み寄ってきたインスが、何の躊躇いもなくファンがアインに突き付ける神剣に手を伸ばし、指で刃を摘まむ。
「「……っ!?」」
今度はファンとアインが息を飲んで、アインの口からは悲鳴のような吐息が零れた。
グッと歯噛みしたファンは、インスの動きに合わせて切っ先をアインの喉元から放し、安全に横に退けたところで手を離したインスを睨む。
「っ……インスさま……」
後ろからアインが呼び掛けて、ぎゅっと抱き着くのをやさしく見下ろしたインスがそっと頭を撫でる。
「インス……っ!」
「これからアイン君の授業があるのです。申し訳ありませんが、お引き取り下さい……お話を伺う時間はありません」
何とか事態が収まったようだと判断したジャンヌが声をかけ、手にした書類を見せるが、鉄壁の微笑で遮ったインスは一切聞く耳を持とうとしない。
「貴様……っ」
「ここは皇女殿下がお越しになってよい場所ではありません。先ほども申し上げましたが、これからアイン君の授業があるのです……どなたかが、二か月半以上も前に負わせた怪我を、治すための……ね……」
激昂しかかったファンを真っ直ぐに見て、否、真っ直ぐに睨んでゆっくりと告げたインスの言葉の意味を、理解できたのは事前に知っていたクロードだけ。
他は、意味が分からなくてポカンとインスを見つめた。
皇宮で行われる、インスが主導する、怪我を治すための授業?
矛盾が過ぎて意味が分からないのは演習棟の警備。
そのすべてが皇宮護衛官で、皇宮呪師としての授業と、神官呪師の専門である怪我の治療が結びつかない。
いや、そもそも、二か月半以上も前の怪我の治療という発言自体が意味不明だ。
「……ソレによって負わされた怪我にはね、強い魔力が残留するのです……」
知らない者が周囲に多くいるので、明確に『神剣』という言葉を避けて、インスは目だけでファンの持つ剣を示す。
「魔法による治療どころか、自然治癒すら阻害して……止血もできない状態です……二か月半以上も……」
ゆっくりと、言い含めるように告げるインスの言葉の意味が、ジャンヌの、ファンの、リオンの頭に染みていく。
同時に、すうっと血の気が引いていき、愕然とした表情でアインを見た。
「あれだけの大怪我を負って、それとは別に、ずっと治らない傷を抱えて……これからアイン君は授業を受けるのですよ……それが、アイン君に下された罰ですからね」
「そ……っ!?」
思わず声を上げかけたジャンヌを、インスが視線だけを一瞬投げて止める。
「……これまで通りに、です……分かりますか? それが、どれだけ難しいことか……」
ぎゅうっと、抱き着いてくるアインを撫でたまま、インスは鮮やかに笑ってみせる。
わざとだ。
わざと、何でもないような口ぶりで、大したことがないとでもいうような笑顔で、報告されている筈なのに絶句しているファンと、何も知らされずに守られていた皇女を見る。
「……治すために、その魔力を使わせるのですよ……何が起こるか、どうなるかわからないから皇宮側で、私の指導下で行われます……どんな便利な道具も、使い手次第では危険なものにしかならないと、いい加減にご理解ください……」
お引き取りを……
取り付く島がないとはこう行くことか。
顔面蒼白になって絶句するジャンヌたちに一礼し、インスはアインを促す。
「……でも……」
「言ったでしょう? アイン君に正式に下された罰は、これまで通りに、ですよ……罰がない。なんて、思えますか?」
躊躇ったアインに、少し困ったようにインスが問いかける。
一瞬息を飲んだアインは、泣きそうな顔をして首を横に振った。
アインは自分が、どれだけ何もわかっていなかったのかを思い知らされる。
これまで通り。
それは、この罪悪感や恐怖心と、ずっと一緒に、何もなかったかのようにふるまい続けなければいけないことなのだ、と……
第8章第1話をお読みいただきありがとうございます。
一触即発の事態に現れたのはインス。
穏やかな笑みを浮かべつつも、容赦なく「真実」を突きつけます。
彼が語ったアインの傷の状態、そして下された罰の正体。
「これまで通り」という言葉に隠された、本当の罰の意味とは……?
「無知」は罪ではありませんが、時に誰かを追い詰める残酷な刃になります。
真実を知ってしまった彼らは、これからアインにどう接するのでしょうか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
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【番外編・第1弾はこちら】
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【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
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【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
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ノリト&ミコト




