第2話・思いの裏にある想い ~分かったつもりの優しさに~
第7章 皇女殿下の覚醒
第2話・思いの裏にある想い ~分かったつもりの優しさに~
〈……あの子を被害者に、そして、加害者にしたのは……間違いなくあなたですよ……〉
ウスニーの、押さえた声が頭の中で繰り返し響く。
部屋に戻ったジャンヌに苦言を呈するファンは、様子のおかしさに眉を顰め、チラリとリオンを睨む。
睨んで、その顔色の悪さにますます眉を顰めた。
(後で報告する)
口パクでそう告げたリオンに溜め息を吐いて、ファンはジャンヌにもう一度、勝手な行動は慎むようにと告げる。
「……分かってるわよ……」
そう答えたジャンヌの声にやはり張りがなくて、控える従者たちの間にも動揺が走っていた。
「……とりあえず、今日は休んだらどうだ?」
同行したリオンが口を挟み、そうね……と答えたジャンヌにますます周囲が動揺する。
そんな周囲の困惑をよそに、寝る。と言ってジャンヌは寝室に入って行った。
見送って、溜め息と共に肩の力を抜いたリオンは、無言で説明を求めるファンに視線を向けると、軽く顎で外を示す。
場所の移動の提案に、ファンも目を眇めて頷いた。
寝室に籠って、ベッドの上に座り込んだジャンヌは、医務殿で見たインスとアインを思い出す。
インスも、男性としては小柄な方ではあるのだが、アインはそれよりずっと小さかった。
十歳の時に魔族に呪いをかけられ、それからずっと、時を止められたように眠り続けていたジョンも、十五歳という実年齢に見合わない……十歳当時のままの体格。
けれど、そのジョンより、小さかった。
あんなに小さかったっけ?
もう少し、大きかったような……
だって、アインは、就学年齢に達していないのに、特別に許可されて、本来なら片方しか学べないはずの、神官呪師としての修行も、皇宮呪師としての修行もしていて……
……すごい魔法も、使って見せていたのに。
それが、いわゆる事故のようなもので起きた結果だったとしても、使っていたのは事実だ。
〈……あなたはもっと、ご自分の言動が引き起こす影響をしっかりと考えるべきです……〉
何も考えていないみたいに言われたけれど、ちゃんと考えているに決まっている。
自分の何を犠牲にしたって、弟を救いたかった……それだけなのに!!
「……他の誰かの、不幸を望んだわけじゃないのに……」
どうして、こんな事になってしまったのか……
間違っていた?
間違ってない。
じゃあ、どうすればよかった?
もっと、他の人にも目を向けていればよかったのかしら?
それで、防げた?
無理だわ。だって……
「……どこにいるかも、分からないのよ……?」
何もしなければ、何も起こらなかったのか? と聞かれても、答えは「分からない。」だ。
だって、五年前は、何もしていなかったのに、魔族は襲撃してきたのだから。
いや、強いて言えば、自分が女神に祝福されたことが「起きたこと。」かもしれない。
それだって、生まれてすぐに祝福されたのに、十一年も経ってからの襲撃だ。
誰が予測できたというのか……
すべてが、完全に常に後手。
アーグの掌の上で踊らされ、こちらの抵抗なんて嘲笑われているようなもの。
それでも、少しでも……と、神剣の封印を解いて、手に入れたからアーグと再会できて、カルロスは目を覚ました。
五年前にアーグがカルロスの体内から奪い取った、呪いをかけた証である宝石。
三つも取られていたなんて、自分は全然覚えていなかったけれど……
「……ディアスが、ちょっとでも覚えていてくれてよかったわ……」
そうでなければ、完全に手掛かりもなかった。
五年前に報告した時は、ディアスも確証がなかったみたいで、誰も、それをどうすることもできなかったようだけれど……
「……でも、何で『宝石』なのかしら? 人の体の中に宝石なんてないはずなのに……」
アーグが取り出した時に、その魔力で結晶化させたから、物理的な宝石になっていたのだろうか?
この前の事件で、心や精神を結晶化させたものらしい、心の宝石を取り戻した時、それは確かに『宝石』になっていた。
なのに、カルロスの体に触れた途端に、形をなくし、体の中に消えて行って……目を覚ましてくれたのだ。
瞳の宝石とかいう、ディアスが聞いた言葉が、そのまま、カルロスの目を……視力の源になるようなものを、結晶化させたものなら、それを取り戻せば、きっと完全に呪いは解ける。
そのはずなのに……!
「……なんで、全然手掛かりが見つからないのよ……この前は色々と画策して、動いてたくせに……なんで、何も動きが見えてこないのよ……」
自分が閉じ込められているからだけではない、不自然なまでの沈黙。
アーグが生きているにしろ、いないにしろ……『女神の巫女』である自分が邪魔なら、いずれかの『魔族』がまた、何らかの動きを見せてもおかしくないはずなのに……!
「……何も起きないままじゃ……何も分からないじゃない……!」
それで、誰かを巻き込みたいわけではないけれど……
それでも、と……思ってしまう。
カルロスにかけられた呪いを、完全に解くために……できることは全部やりたい。
全部、確かめたい……そう思うことは、いけないことなのだろうか?
動くことが、どうしてそんなに責められるのか……
「……大事な人を、守りたいのは……わたしだって、同じ、なのに……」
なぜ、分かって貰えないのだろう?
なぜ、誰も協力してくれないのか……
いや、協力してくれないどころか、邪魔をされている。
それが分からないほど、バカじゃないのに……と、自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「……みんな、わたしを大事にしてくれて、ありがとう……」
でも、その優しさが……つらい……
口には出さずに呟くジャンヌの心の内を、聞く者はいない。
ジャンヌも、それを誰かに聞かせるつもりもない。
それでも……
変えられないものがあることを、ジャンヌだけではなく、すべての者がそれぞれに、心の中で理解していた。
第7章第2話をお読みいただきありがとうございます。
「大事な人を守りたい」という純粋な願いが、時に誰かを傷つけてしまう。
ジャンヌの抱える葛藤は、誰にとっても他人事ではないのかもしれません。
突きつけられた「加害者」という言葉の重み。
弟を救いたい一心で動いてきたジャンヌにとって、それはあまりに過酷な断罪でした。
必死に抗おうとするほどに深まっていく孤立感と、それでも向けられる優しさへの戸惑い。
ぜひ、次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




