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第3話・騎士団長の不審の理由~覚悟と覚悟がぶつかる先は~

第6章 決壊の予兆



     第3話・騎士団長の不審の理由~覚悟と覚悟がぶつかる先は~



 ファンの怒声が聞こえた瞬間。


 びくりと肩を震わせたジャンヌは硬直し、周囲から他の呪師らが蜘蛛の子を散らすように立ち去る。


 いや、それほど大勢がいたわけではないのだが、居合わせた数人が逃げるように離れて行った。



 自分もそうしたいのは山々、目の前にジャンヌがいるのでそう言うわけにもいかず、溜め息を堪えてインスはファンがたどり着くのを待った。



「……ここで何をしておいでですか……?」



 青筋浮かべた笑顔というのも迫力があるもので、整った冷たい顔立ちのファンがそんな表情をすると怖さがけた違い。



 内心で少し感心しているインスには気づかず、ジャンヌは振り返ってファンを見上げた。



「インスに会いに来たのよ!」



 胸を張って言い切る。


 言い換えるなら、開き直っている。



「頼んでいませんが?」


「ひどいっ! 用があるのにっ!!」



 穏やかな声音でにっこり笑って言い切ってやれば、あからさまにショックを受けたようにジャンヌがインスを振り返った。



「折角医務殿で魔物討伐の異常を聞いたから、調べに行きたいって言ってるだけなのに、何でダメなのよ! 大体、異常があるなら調査は必要でしょう? それにわたしたちが行ったっていいはずだわ。別に全然戦えないわけでもないんだし、何かあるならそのまま討伐すればいいだけだし……」



 ファンを見たり、インスを見たりと忙しい皇女殿下だな……と、ファンと一緒に駆けつけた二人の騎士がこっそりそう考えているとも知らず、ジャンヌは何やら色々と言っている。



 要するに、言い訳だ。



「……先ほども申し上げましたが、私はこの後、アイン君の授業があるので、ゆっくりお話しを聞く時間はありません。それに、裏付けもろくに取れていない情報で許可など降りるわけもないんですから、皇子殿下のお傍に居て差し上げればいかがですか?」


「カルロスには毎日会ってるわよ!!」



 途中で口を挟んだインスに怒鳴ったジャンヌは気づかなかったが、ファンが一瞬、殺気立ったのをインスも、騎士らも見逃さない。


 騎士の一人は思わず腰の剣に手を伸ばしかけていた。



「とにかく!」



 少し強い口調で話を断ち切ったファンが冷ややかにジャンヌを見下ろす。



「……姫様は今すぐお部屋のお戻りください」


「? ディアス?」



 思わぬ強さにキョトンとして首を傾げたジャンヌと違い、その鋭い語調にピッと背筋を伸ばした騎士二人は、ファンに言われてジャンヌを促す。



「もうっ! じゃあ、インス、後でね!!」


「お約束はできませんが?」



 文句を付けつつ連れていかれるジャンヌの背に、少し呆れた様子で返事をする。


 おそらく、聞いてはいないだろうが、無理なものは無理だ。



 回廊の角を曲がるのを見送って、インスはそっと、息を吐いた。


 完全に、人の気配が無くなる。



「……っ!?」



 直後、それを待っていたかのようにファンに腕を引かれ、壁に押し付けられて驚く。



「……ファ……」


「……アイン(アレ)に肩入れするな。と言ったはずだ……」



 インスが呼び掛けようとするのを遮って、低い声で囁くファンに息を飲む。



「……どうして、そこまでアイン君を厭うのですか……?」



 真っ直ぐにその目を見返して、問い詰める口調になったインスを、鋭い眼光が見下ろした。



「危険だからだ」


「……っ!?」



 声音は低く揺れないのに、腕を掴む手に力が入って、インスは痛みに微かに顔を顰める。



「……説明に、なっていませんが……? 何が、危険だと……?」


「……すべてだ。アレの存在、すべてが危険なものだ……」


「……は……?」



 ギリギリと、捩るように力を加えられ、完全に身動きを封じられる。


 睨みあう二人の間に今しも殺し合いが始まりそうなほどの緊張感が高まり、それとは逆に声は潜められ、感情を抑えてぶつけ合う。



「……まったく、意味が分かりません……ファン卿は、アイン君の()()知っておられるのですか……?」



 そこまで言うのなら、何か根拠があるのかと、睨むインスを冷ややかに見下ろす。



「……むしろ、お前はどうしてアレに肩入れする? 記憶喪失だか何だか知らないが……()()が真実だと、なぜ言い切れる? 装っていないと証明できるのか?」



 言い様に、インスは息を飲んだ。



「アレがクロードに保護されてすぐに、神殿孤児院の一室を破壊したのを忘れたのか? いつ爆発するかもわからない危険物だ……魔族に操られたというのも、どこまで本当だと言える? 実際には、我々を油断させ、信用させるための演技に過ぎない可能性を、なぜ考えない?」



 言葉を失うインスに、ファンは畳みかけるように続ける。



「……もちろん先の事件(あの時)、魔族が姫様を亡き者にすることはできたのだろう……だが、それが失敗した時の保険として、アレを潜り込ませたのではないと……()()は保証できるのか?」


「……っ!!」



 言いながら、ファンは少し、インスの身体を持ち上げた。


 捩じり上げた腕を掴んだまま、背を壁に押し付けた。足が浮くほど引き上げる。


 当然、その分腕にかかる負担が増えて、痛みに悲鳴をかみ殺す。



「……疑いだけで、あの子を排除しようと……?」



 けれど、インスは目を逸らすことなく問い詰める。


 なら逆に、それらを証明できるのかと。



「……記憶もなく、虐待されていた幼い子供が……ほんの五歳ほどの幼子が、恐怖に怯えないはずがないでしょう? それでも、自分がしてしまったことを、ちゃんと理解しているから、ずっと頑張っているのに……それを、疑いだけで、決めつけて、孤立させようと……?」



 言いたいことはもっとある。


 けれど、今、重要なのはそれではないから、インスは真っ直ぐに、ファンの目を睨んだ。



「証拠もない推測……ぃっ……!!」



 遮るようにさらに力を加えられて、微かな悲鳴が零れる。


 顔を顰めたインスを見下ろすファンは何処までも冷ややかで、感情を完全に押し殺している。



「……こうやって、私を脅して、黙らせたところで、何も変わらないと、分からないわけでも、ないでしょうに……っ」


「……お前は目に余る。アレに肩入れし過ぎていること然り。姫様を危険に晒すと承知で、陛下のご下命に従い、脱走に手を貸していたこと然り。リオンのような、理解の足りない平民と馴れ合うのを良しとしていること然り……」



 それでも、インスの言動が目こぼしされているのは、それだけの実力と実績を持っているから。


 本来であれば、ジャンヌを魔族の元に送り込むトリガーとして利用されたインスも処刑対象なのに、甘い処分で済んでいる理由。



「……アレが、私が感じている通りの存在であったとしたら……斬る――お前もだ」


「…………っ!?」



 言い切ったファンを、信じられない思いで見つめる。



「……越権、行為、ですよ……?」


「知っている」



 呪師を、手にかけることが許されるのは法による裁きの後か、護衛官のみ。


 それ以外の者は、どんな理由があれ、魔法を使える唯一の存在である――国にとっての重要資産である呪師に手を出すことは許されない。



 騎士団で団長を務めるファンがそれを知らないはずもなく。


 確認するように声を絞り出したインスに対してあっさりと認める。



「……その後、私は私の責任を果たす……それだけだ……」



 そこまで言ったファンがふっと、視線を回廊の先に流す。


 その動きで、インスもこちらに近づいてくる人の気配に気づいた。



「……これは()()だ……アレに肩入れを続ける気なら、覚悟しておくことだな……」



 そこまで言って、ファンは漸くインスから手を放し、踵を返して去っていく。


 唇を嚙みしめ、痛む腕を押さえながら見送るインスは無言でその背を睨むことしかできない。



(……分からない……どうして、そこまで……)



 ファンがアインを厭う理由。


 そして、あそこまでの覚悟すら、持っている理由。


 それが理解できなくて、インスはそっと、息を吐く。


 かすかに震える指先が痺れて、力が入らなくなっていた。



 回廊を急ぎ足でやってくるのが、皇宮護衛官であるのを見て取って、インスは壁にもたれかかって近づいてくるのを待つ。



 それでも……と、心の中で呟いた。



(……申し訳ありませんが、ファン卿……)



 うっすらと、口元に笑みを這わせる。



 ファンが、譲れないものがあるのは分かった。


 けれど、それと同じように、インスにも譲れないものがある。


 このやり取りで、それが分かっただけでもよしとする。



 どちらにしろ……



(……既に、動き出してしまっているのですから……今更、後戻りはできませんよ……)



 それだけは、変わらないのだから。


第6章第3話をお読みいただきありがとうございます。


前半の、怒鳴るファンと開き直るジャンヌのやり取りには、騎士団の日常的な苦労(?)が見え隠れしていましたが、後半は一気に緊張感に包まれました。


ジャンヌが去った後の回廊で繰り広げられた、ファンとインスの息詰まる対峙。


インスに向けられたファンの厳しい警告と、腕を捩り上げられてなお引かないインスの意志。


ジャンヌの知らないところで、事態は刻一刻と深刻な方へ向かっています。


去り行くファンの背中を睨むインスもまた、腹を括った様子ですが……?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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