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第1話・慰問先には不満があれど~手にしたチャンスを掴み取る~

第6章 決壊の予兆



    第1話・慰問先には不満があれど~手にしたチャンスを掴み取る~



 違うっ!! そうじゃないっ!!



 と、叫びたいのを引きつった笑顔で堪え、挨拶を受けているジャンヌがいるのは皇宮内にある神殿に併設された医務殿。



 医務殿への慰問の許可。入院患者との対話の許可。


 という書類を受け取って小躍りして喜んだジャンヌが、訪問日とされた日に連れて来られたのが皇宮医務殿(ここ)だった。



「……ですので、ぜひともジャネット皇女殿下には入院中の負傷兵らにお声がけ頂ければと存じます」



 全然笑っていない笑顔で挨拶を述べているのは、この皇宮医務殿の長官である医呪神官のウスニー=メンテ。


 茶色の髪と青灰色の瞳をした三十代後半ほどの外見の……その実、七十代になっている熟練の神官呪師だ。



 呪師というのは魔法が使える。


 魔法を使うためには魔力が必要で、魔力というのは生命力から作られ、生命力へと還元される。


 だから、一定以上の魔力が身の内に溜まる年齢……多くは二十代の後半から三十代に入ってから……を超えた外見の呪師は老化が遅くなり、長命になる。



 そんなウスニーから漏れ出しているのは、「この忙しい時に面倒なことに巻き込みやがって。」という無言の圧力。



 数日前の魔物の討伐で負傷し、入院中の騎士や兵士の数は数十人。


 その、一人一人のケアに心血を注いでいる真っ最中に、気まぐれ皇女の慰問という名の厄介払いだ。



 愚痴の百や二百を思い浮かべても文句は言われまい。


 実際に口に出しているわけでもないのだし、忙しい合間を縫って、出迎えやら案内やらも行うのだから。



「……分かったわ……」



 言葉以上に雄弁な視線の圧に、ジャンヌも表面的には笑顔のままで承諾し、ではこちらに……と案内されるがまま、入院棟の大部屋を廻ることとなった。



 ちなみに、今日のジャンヌの付き添いはファンとクロード。


 リオンは午前中は付いていたのだが、午後は休みとされたので既に帰っている。



 皇都の南西にある草原地帯において大量発生したヴィアミールという、ヤスデに似た姿の魔物の討伐に、皇国騎士団を中心に、近隣の貴族領からも騎士団が派遣された。



 毎年、秋の終わりごろに大量発生する巨大な虫の魔物で、強くはないが数が多く、巨体であるがゆえに周辺を黒く埋め尽くす。



 ある意味、風物詩でもある。



 ただ、強くはないとはいっても、相手は魔物。


 決して油断できる存在ではなく、性質的には獰猛。



 そして、その討伐に皇宮呪師は基本派遣されず、騎士団に所属する騎士や兵士と言った物理攻撃が主体である者が派遣されるのは、魔法でなくても討伐が可能であるから。



 結果、負傷者が毎年数十人から……多い時は数百人の規模になってしまう。


 それでも、死亡者が出る事が殆どないのは、後方支援として神官呪師らが派遣されているからで、現在入院中の負傷者らも、明日、明後日には全員退院できる見込みだった。



 と、言ったようなことを説明されながら、入院中の負傷者一人一人と言葉を交わし、時には手を握ったりしながら数時間をかけてすべての部屋を回る。



 途中で何か、余計なことを喚きだすかと緊張していた周囲の予想を裏切り、以外にも真面目に……と言うとアレだが……きちんと一人一人に向き合い、話を聞いて回るジャンヌに感心していたのは内緒だ。




 それが。まさか――




「つまり! 例年よりも手ごわかったってことね!! やっぱり、西の塔に行かなきゃだわ!!」



 慰問を終え、部屋に戻ったジャンヌのこの宣言に、隠しもしない溜め息でファンが頭を抱えた。



「……何がどうして、そのような結論に?」



 一応、本当に一応問いかけただけのファンに、よくぞ聞いてくれたとばかりにジャンヌは手元に紙とペンを用意する。



「みんな、例年より手ごわかったって言ってたし! 数も多くて、大きさも一回りも大きかったって言ってたじゃない!!」



 自分が、自分たちが、どれだけ苦労して討伐に挑んだのかを、皆が皆、武勇伝のようにジャンヌに語って聞かせていたのが悪かったらしい。



 どこが例年と違ったのか?


 分布はどうだったのか?


 個体差に偏りは?



 などと聞いて回ったジャンヌは、旧都に近いほど強く、大きく、数も増えていた。



 ……と、結論付けた。



 実際のところは例年とそう大差はなく、分布もそう変わらず、ただただ負傷者が武勇を語っていただけなのだが、ジャンヌは都合よく解釈する悪癖があるらしい。



「だから、やっぱり西の塔に行ってみるべきなのよ!!」



 結局は、この結論にどうにかしてたどり着きたいだけ。


 おそらく、きっと、間違いなく……またケルン辺りに鼻で笑われて終わるだろう。



 それが、はっきりわかって……



((……書類を提出するだけなら、放っておこう……))



 本日の慰問に同行したファンとクロードの二人は、聞き取り調査の結果からの提案と言って書類を書き始めたジャンヌを黙って見守った。


第6章第1話をお読みいただきありがとうございます。


慰問という名の「厄介払い」を受けたジャンヌでしたが、転んでもただでは起きないのが彼女の強み。


負傷兵たちの「ちょっと盛った武勇伝」を、すべて自分に都合よく解釈して「やっぱり西の塔に行かなきゃ!」と結論づける強引さ……。


せっかく真面目に慰問していたのに、最後はやっぱりこうなってしまう、ブレないジャンヌです。


そして、笑顔が全然笑っていない医呪神官・ウスニーも登場!


ジャンヌの猪突猛進ぶりと、それを半ば諦め顔で見守るファンたちとの温度差(笑)


果たして彼女の提出する書類は、皇帝やケルンの首を縦に振らせることができるのか!?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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