第5話・呪師の不足が招くもの~叶えるようで叶えぬ希望~
第5章 停滞すれども世界は動く
第5話・呪師の不足が招くもの~叶えるようで叶えぬ希望~
手を変え、品を変えと言えばいいのか……
ジャンヌから提出された複数の書類をチラリと見て、ケルンは鼻で笑った。
ここ数日、謁見依頼と共に出される書類は、嘆願や要望というより妄想としか言いようのない内容ばかり。
まともに相手をするだけ時間の無駄なので、一応、受取はするがすべて却下の箱に入れてきた。
「……ジョーン皇子の差し金ですかね……まあ、切り口を変えさせれば、もう数日持つのも事実です」
「何か、新しいことを言って来たのかい?」
ペラペラと書類をめくって呟くケルンに、バリー帝が衝立の向こう側から声をかける。
声をかけられたので、席を立って周り込んだケルンは、バリー帝の正面で立ち止まって一礼する。
提出された書類をそのまま差し出した。
「新しくはありませんね。一言で言えば、インス=ラント呪師に会いたいから、主神殿の医務殿を訪問したい。と言う内容です」
「インス君か……確か、旧都の定期見回りに行って、そのまま入院になってしまったんだったか……」
渡された書類をぺらりとめくって見れば、医務殿入院患者への慰問と題されてはいるものの、中身はケルンの言う通り、インスに会って話がしたい。と言うもの。
どうして、慰問で特定の患者との面会が組み込まれているのか……
特定の誰かと話をするとしたら、医務殿総括である医呪神官長からの説明や取り組みに関する話になると気づけないのか?
「夜間出向を勅令で命じてありますから、日中の任務は他の者に割り振ると思っていたのですがね……」
溜め息を漏らしたケルンの言う通り、インスは夜間出向を勅令で命じられ、数日前から毎晩主神殿に赴いていた。
だから、日中の任務は減らし、他の者に割り振るようにと暗に皇宮呪師長にも言っておいたのだが……
「……報告を見る限り、インス君でなければ厳しかっただろう……特殊隊から複数を派遣する、と言う手もあるが、それはそれで他の手が足りなくなる……やはり、呪師の人材不足が深刻のようだな……」
ジャンヌが出してきた『要望書(笑)』に破棄の印を押し、ケルンに返しながら言うバリー帝の言葉通り。
出向が決まってからインスが入院するまでの五日間で、彼が手がけた任務は恐らく他の者では厳しかったのは分かっている。
そして、その最たる理由が呪師の人材不足なのも間違いはない。
「……五年前に一気に減ってしまったのが痛かったですね……後継を育てきれずに今に至ってしまっています……」
「……………」
目を伏せ、重い溜め息を漏らしたケルンに、バリー帝は沈黙で答える。
五年前。皇太子宮を魔族が襲撃し、多くの犠牲が出た事件。
この、皇帝執務室内にいる者はそのすべてを知っているが、対外的には事故として処理された。
当然、ジョンが呪いにかけられ、時を止められたように眠ったままであったことも、事故とは別件の病として来た。
この事件で、経験豊富で優秀な人材は呪師だけではなく、騎士や兵士、従者たちに至るまで多くが命を落とした。
生き残りはほんの数名。
ジャンヌ、ジョン、ファン卿ディアス。
魔族を目前にして、生き残った子供たち三人と。
皇宮呪師長・キプラ=ペンティス。
そして、数人の女官や侍従ら。
魔族が撤退した後、後続として救援を投入した時には、他にも生きていた者は何人もいたのだが、最終的に生き残ったのはそれだけ。
その中で、今も皇宮で仕え続けているのはキプラのみ。
他は、精神的ショックや身体に後遺症が残ったりなどして、職務の継続が困難になり、退職し、余生を静かに過ごしている。
もちろん、犠牲になった者を含め、全員に見舞金や年金などは支給されていて、生活が困難になるようなことはさせていない。
「……確か、医務殿と呪師殿、双方からインス君とアインに関しての報告が来ていたな……」
ふと思い出したバリー帝に、数日前に決済した書類を素早く取り出したケルンが頷く。
「はい。神剣がらみの問題が発覚したと……あとは、それに関連して、旧都の定期見回りの内容を医務殿の方で先に聞きたい。と……」
内容を確認して伝えるケルンに頷いて、バリー帝も小さく溜め息を零す。
「……そんな状況のただ中に、ジャンヌを行かせられるはずがないのだけれどね……」
どうしてあの孫娘はそれが分からないのかと、少しだけ頭痛を感じる。
「……教皇猊下に頼んで、ちょっとお灸をすえて貰った方がいいかな……」
「……それで反省して下さるお方ではありませんけれどね……」
チラっとケルンを見たバリー帝に、ケルンはにこりと、全く笑っていない笑顔を返す。
「……だよね~……」
はーっ、と大きな溜め息を吐いて、バリー帝は止まってしまっていた執務を再開する。
「……主神殿はともかく、皇宮内神殿の医務殿に、慰問して頂くのはアリかもしれませんね……」
しばし考え込んでいたケルンのその呟きに……
「いいんじゃないか? 皇宮医務殿なら、そう問題は起きないだろう……確か、先日の魔物討伐の負傷兵が入院しているんだったか?」
「はい。少々数が多く、呪師の投入までは必要ありませんでしたが、騎兵に負傷者が出ております」
なら、その方向で調整してくれ。
そう告げた皇帝陛下に一礼して、ケルンは書類の作成を部下に命じた。
第5章第5話をお読みいただきありがとうございます。
変わらないジャンヌと、変わりすぎてしまった五年前からの世界。
必死にインスに会おうとするジャンヌに対し、ケルン卿の「食わせ者」っぷりが光ります!
ジャンヌの斜め上の要望を華麗にスルーしつつ、彼女を納得させるための「次の一手」をさらりと用意する手腕……流石です。
インスの入院、人材不足、神剣の問題……水面下でいくつもの懸念事項が積み重なる中、ようやくジャンヌに外出(?)の許可が下ります。
この「慰問」が、停滞していたジャンヌの状況を動かすのか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




