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第4話・闇の狭間で聞こえる音は~誘導されるは動きか思いか~

第5章 停滞すれども世界は動く



     第4話・闇の狭間で聞こえる音は~誘導されるは動きか思いか~



 窓辺の椅子に座って、ぼんやりと外に顔を向けているジョンは、耳だけはしっかりと周囲の音を拾い、様々な情報を集めていく。



(……姉上は、今日もお爺様に嘆願書を出そうとしたのか……届いていたとしても、オーヴァ(大伯父上)が受理するはずはないのに……まあ、届いたことくらいはお伝えしているかもしれないけれど……)



 見えない世界というのは、怖い。



 気配を潜めて、息を潜めて近づいてこられると、たとえ正面から来ていたのだとしても全く分からない。


 どこに何があるのか分からないということは、今居る場所が安全なのか否かも分からないということ。



 闇が怖いわけではない。


 見えない。ということは、相手がどんな状態なのか、伝えて貰えないと分からないということだ。



 今、姉上はどんな顔をしている?


 お怪我をされていたりはしない?



 私は、どんな姿をしている?


 姉上と、どう違う?


 ファン(ディアス)とは?



 聞いたところで、想像することしかできないし、それが合っているのか、違っているのかを確かめるすべもない。



 私は、助かって、良かったのだろうか?



 ある時、ふと浮かんだ疑問が、ずっと心の底に横たわっている。



 姉を、庇ったことに後悔はない。


 大好きで、大切な姉上を、魔族になんか傷つけさせたくなかったのだから……



 五年前(あの時)、絶対に、姉上を守るんだと、強く思ったら、急に空気が動いた。


 多分、魔力が動いたのだろう。



 自分は呪師ではないから、本当のところがどうなのかは分からないけれど……


 それでも、どんなに弱い力しか持ってはいなかったとしても。


 見えざるものを見る目を……魔力を、魔力のままで操ることのできる力を持った見者けんじゃに違いはないのだから。



 だから、魔力が動いた。


 それで、ほんの少しだけ、魔族に傷をつけることができて……


 その結果呪いをかけられ、以降、五年もの間、ずっと眠り続けていたらしいけれど……



(……呪いなんかかけるくらいなら……殺してくれていた方がよかったのに……)



 ぼんやりと、そう思ってしまったのは、役にも立たない皇族を生かすのに莫大な税が使われていることを知っているから。


 自分が生きていたから、祖父も、姉も、幼馴染も……みんな、自分を助けるために無理をしたと知っているから。



 もちろん、感謝はしているし、余計なことを……なんて思ったことはない。


 ただ、死んでいたなら、悲しんではくれるだろうけれど、それを乗り越えて、もっと前に進んでくれていただろうと分かるから……



(……あの魔族……質が悪い……)



 それも、これも、全部魔族の思惑通りな気がして、気分が悪い。



 あえて、呪いをかけて、生かし続けた。


 呪われて、眠り続ける自分の姿に、心痛める者がいると分かっているから。


 己の無力さに、不甲斐なさに、嘆き、絶望し、何度も立ち上がっては、押しつぶされるのを……愉しんでいる。



 心だけを戻させたのも、意識を取り戻してもなお、残る呪いで苦しめるため。


 助かったと思わせて、更なる絶望に突き落とすため。


 そして、恐らく……



(……()()、こんな風に思うようになることも、織り込み済み……)



 それが分かっていても、思うことを、考えることを止めることはできなくて……



「……本当に……」



 ぽつりと、唇から音が零れて、ハッとする。



(……悪質すぎる……)



 嫌だな。と言う気持ちを押し隠して、「どうしましたか?」と問いかけてきた乳母だった女官長に笑顔を見せる。



 ちりんと、小さく鈴の音がしたのは、見えないジョンに気遣って、この女官長が腰に小さな鈴を付けるようになったから。


 それを見習ってか、それとも命じられたのか、ジョンの部屋に侍る者らは皆、違う音のする何かを常に付けている。



「何でもない……姉上は、相変わらずだなと、思っただけだよ」


「……そう、ですね……ジャネット皇女は、お変わりになりません……」



 答える声が少し、困ったようなのを聞き取って、ジョンはクスクスと笑う。



「……そろそろ、他の手段がないか、聞かれそうかな……」



 何とも答えようのないジョンの言葉に、「かもしれません。」とだけ返して、女官長はそっと、気づかれないように目元を拭う。



 その『気配』を察して、けれど、気づかないふりで微笑むジョンの読み通り。



 翌朝『お見舞い』と称して部屋を訪れたジャンヌは、ジョンに次なるアイデアを求めた。


第5章第4話をお読みいただきありがとうございます。


今回は、光の中にいるジャンヌとは対照的な、ジョンの静かな「闇」の視点。


助かって良かった、と手放しで喜べない現実が突きつけられました。


あえて「呪い」をかけ、生かさず殺さず周囲を絶望させる。


魔族が仕掛けた毒は、ジョンの心にまで及んでいました。


呪いによって奪われた光と、意識が戻ってもなお自分を責めてしまうジョンの優しさが切ないです。


「殺してくれた方がよかった」という言葉の裏にある、彼なりの愛と苦悩。


そして、それらすべてを「愉しみ」として計算している魔族の悪質さ……。


暴走気味のジャンヌと、達観しすぎたジョン。


次なるアイデアをねだる姉に、ジョンはどんな一手を提案するのか?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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