第3話・苛立ち募れど手は止めず~反省すれども後悔しない~
第5章 停滞すれども世界は動く
第3話・苛立ち募れど手は止めず~反省すれども後悔しない~
インスに、拒絶されと言われて早くも二週間が過ぎた。
「なんっっっで! お爺様もインスも会ってくれないのよっ!!」
自室で荒れに荒れているジャンヌは、文句を言いつつ何かを書き散らかしている。
「何でも何も……」
若干呆れた口調のリオンが、ジャンヌが床にばらまく書き損じを拾い集めながら口を開く。
「皇帝陛下はお忙しくて当然だし、インスは何でかまた入院してるからだろう?」
「それもおかしいでしょうっ!!」
ビシッと羽ペンの先をリオンに突き付けたジャンヌの目が座っている。
「……そんなこと言われてもなぁ……」
現在、エスパルダ聖皇国には皇族が物凄く少ない。
皇帝陛下と、ジャンヌと、その弟で皇太子のジョン。
それだけしかいなくて、後は臣籍降下し、皇位継承順位が下がっている公爵が五人と、その子息令嬢らが十数人。
公爵本人と、子息令嬢らには皇位継承権こそあれ、皇族ではないので、皇族の公務の代行はできない。
だから、ほぼすべての公務は皇帝が一人で回しており、極偶にジャンヌにも公務が回ってくることがあるのだが……
(ジャンヌは機密意識がなさすぎる……)
リオンですらそう思うほどの意識のなさゆえに、任せると余計な人員が必要になってしまう。
女性が必要な公務で、皇族でなくてもよいものは、まだ素直に公爵家の夫人や令嬢に任せた方が安心だ。
(……それも、どうかと思うけどな……)
改めて噂を集めてみたらそんなことまで分かってしまい、これまでどれだけジャンヌが公務に参加していなかったのか。
皇族としての意識が欠けているのかが分かって、寒気が止まらなかったほど。
そりゃあ、ファンがリオンに口煩くジャンヌを連れ回すなと叱るはずだと、最近になって漸く理解できた。
以前なら、リオンも「気晴らしに皇都にでも散策に行くか?」とか、気軽に誘っていた。
だが、ジャンヌの脱走を手伝ってくれていたインスも入院中だし、そもそも、皇女殿下が散策って、問題大ありだろう、と分かったので誘うわけにはいかない。
「インスは、数日前にまた廃離宮の調査に行ったらしいな……多分、定期的に見回るように言われてるんだろう……ただ、そこで何があったのかは分からないけど、怪我をして入院になったらしい」
「インス! ずるいっ!! わたしも行きたいのにっ!!」
「話し、聞いてた?」
廃離宮に行った。と言う部分だけを抜いて文句をつけるジャンヌに呆れる。
「インスでさえ、怪我をして、入院が必要になってるってことなんだぞ?」
「わたしたちが一緒に行ってれば、怪我しなかったかもしれないじゃない」
その自信はどこから出るのか……
リオンも、室内にいる他の者も、口には出さずに呆れ返る。
この恐ろしいほどのポジティブさに、幼いころから振り回されていたのであろう、ファンやジョンがあれだけ大人なのが何となくわかってしまう。
(ファンはジャンヌの三つ上。皇子はジャンヌの一つ下。なのに、二人ともジャンヌよりずいぶん大人に感じる……ファンはともかく、五年も寝てた皇子の方が大人って……)
一緒に時を過ごし、振り回され続けて来たであろうファンが、十九歳という年齢からは考えられないほど大人びて、ジャンヌ専属護衛騎士団の団長職に就いているのは、恐らく、それだけ苦労してきたからだろう。
皇族近衛の護衛騎士は、基本的に対象の皇族と近い年齢の者が傍に付く。
けれど、その団長職にある者までもが若いのはジャンヌの護衛騎士団長のファンだけ。
まあ、皇子であるジョンの護衛騎士団は、ジョンがずっと眠り続けていたので、最低限の人数だったせいもあるだろう。
若い騎士は一番、目が離せない暴れん坊というか、お転婆な皇女殿下に人員を割いていて……
(……人数が多い理由が、城から脱走するジャンヌの捜索のため……だったみたいだしな……)
片棒を担いでいたリオンに対して、彼らの目が厳しいのも当然と言える。
そんなことにも気づかなかったのだから、自分も相当視野が狭かったのだなと、今頃になって分かって来たのだから救えない。
(……まあ、後悔はしてないけどな……)
インスに、処分が保留されているだけだと聞かされた当初はいつ処刑されるかと震えたものだが、そのつもりならとっくだな……と気づいた瞬間、気が楽になった。
それこそ、神剣と契約を結ぶよりも早く、ジャンヌと知り合ってそう経たないうちに殺されていたはずだ。
だって、ジャンヌはこの国の皇孫皇女で、女神の祝福を受けた巫女姫なのだから。
その尊い身に、どこの馬の骨とも知れない、赤髪の孤児が近づいていたら、即座に無礼打ちにされてもおかしくはない。
「で、今日も陛下に嘆願書を出す気なのか?」
「当然でしょう? すんなり会って下さらないなら、お会いできるまで謁見希望出し続けるわよ!」
拾い集めた書き損じをテーブルに隅に重ねて置いたリオンに、むんっ! と拳を作って言い切るジャンヌが書いているのは、皇帝陛下に対する正式な謁見の希望を提出する書類と、廃離宮への調査に行きたいという嘆願書。
忙しい皇帝に、突撃しても難しいなら……と、ジョンが提案した作戦だった。
(……当然、届いてもいないか、届いていても握りつぶされてるだろうけどな……)
リオンの考えている通り、ジョンも、それらを出したところで皇帝が動くことはないのは分かっている。
ただ、同じことを繰り返して不興を買うより……と言う誘導で、ジャンヌを部屋に縛り付けているだけだ。
(……もっとも、これもどこまで持つことか……)
リオンの考えている通り、そろそろジャンヌも希望や嘆願や要望の書類をいくら書いてもろくに返答が来ていないことに気づいている。
「……次の作戦も、相談しなくちゃ……」
目を座らせるジャンヌが、ジョンに次なるアドバイスを求めようと呟く声を聞いて……
「……お前、皇子に頼り過ぎじゃないか?」
思わずそう口に出したリオンを、室内で様子を見守っている女官兵や近衛騎士らが凄まじい目で睨んで来た。
「……っ!?」
皇女相手に「お前」はまずかったらしいと気づけど後の祭り。
冷や汗を流して謝罪を口にするリオンに、ジャンヌがまったく気にしていない様子を見せたことでとりあえず流して貰えたが、今後はもっと気を付けようと密かに決意を固めた。
第5章第3話をお読みいただきありがとうございます。
インスと会えない苛立ちを、「ひたすら書類を書く」というエネルギーに変えるジャンヌ。
本人はやる気満々ですが、周囲の「これ、部屋に縛り付けるための口実なんだよね……」という冷ややかな視線の温度差がすごいです(笑)。
そして、ついに出たリオンの「お前」発言!
皇女相手にその口の利き方はヒヤッとしますが、それだけ二人の距離が近いということでしょうか。
……まあ、近衛騎士たちの視線は刺さるほど冷たいようですが。
眠りから覚めたばかりの弟の方が、実はよっぽど大人で策士なのではないか……という疑惑。
握りつぶされる書類、姿を見せないインス、そして着々と外堀を埋める大人たち。
ジャンヌがこの「停滞」を力技でぶち破る日は近いのか!?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




