第4話・資料の山に籠って留まれ~守りたいから許せないこと~
第2章 思いは熱く、空回る
第4話・資料の山に籠って留まれ~守りたいから許せないこと~
エスパルダ聖皇国の起源は三万と二千年ほどと言われている。
流石に、最初期の記録までは正確に残されてはいないのだが、この世界自体が誕生して数万年から数十万年……もしかしたら数億年か……
確かなことは分からないが、いつからか大陸に生命が生まれ、創世の神によって守護を任じられた四柱の神々が、それぞれ担当する大陸の趨勢を見守っている。と言われている。
(……つっても、どこまでマジ何だか……)
五千年ほど前の資料と言われた中に、そんな、創世神話にかかわる神書の一ページらしきものを見つけたリオンは、若干胡乱げな目でそれを眺めた。
ここ、インフォース大陸では、暁の女王と呼ばれる戦女神・ディエルが守護神として任じられ、四万年ほど前までは緩やかに、穏やかに世界は平和に維持されていた。
しかし、今から約三万五千年ほど前に、赤毛の魔女が誕生し、大陸は混沌に飲まれ、女神による制裁……神と魔との大戦が勃発。
その大戦の中で女神によって見出された巫女と、騎士たちが神剣を授けられ、共に戦い、魔女に裁きの鉄槌を下した。
これが、この大陸に伝わる創世神話で、この大戦の後、女神の巫女と神剣の騎士たちが興したのがこの国の始まり。
(……だいたい、この手の建国神話って、きちんとした記録なんて残ってない眉唾ものなんだよな……)
三万年も四万年も前のことなど、誰がどうやって確かめられるというのか……
当時は記録を残す。といった考えもなかったのか、それともその手段がなかったのか、直筆の書のひとつも残ってはいない。
けれど……
ちらりと、リオンは自身が腰から下げている剣に視線を向ける。
そこにあるのは間違いなく火の力を宿した神剣。
(……神剣は、本当にあったんだよなぁ……)
正直、今思えばどうして本当にあると思ったのかすらわからない。
ほんの二か月ほど前の自分の思考が信じられないリオンは、隣で唸りながら書類をチラ見しているジャンヌを見た。
(……多分。喜ばせてやりたかったから、だろうな……)
自分を拾って、保護してくれたクロードは別として、神殿孤児院の他の子供たちも、外部から出入りする大人たちも、皆、リオンを嫌った。
その理由が、捨てられたのと同じ「赤髪だから。」というもので……
(髪の色が赤っぽいやつなんて、他にもいるだろう!!)
リオンのように鮮やかなまでの赤い髪は確かに珍しい。
けれど、赤くも見える茶色や、紅茶色、赤みの強いピンク色など、赤っぽい髪色自体は多く存在する。
誰だか知らないが、神話に『赤毛の』魔女と記したやつが恨めしい……
素直に『女の呪師』でいいじゃないか。
とも思うが、そうしたら今度は女性で呪師の才を持っている者は全員『魔女』とされていたかもしれない。
実際に、赤毛の魔女が台頭したころに、それが理由で大勢の女性呪師が殺害されたという史実も残っている。
「……こんなの見て、何が分かるっていうのよ……」
ぶつぶつと呟くジャンヌの目が死んでいる。
皇宮図書殿の資料室での調査に借り出されて三日目。
正直、よく持った方だと思うのはリオンだけではないだろう。
チラリと、扉の前で見張るように立っているクロードと視線を合わせ、合図する。
そんな、赤髪ゆえに『魔女の申し子』と影日向に言われ、何もしていなくても全部「お前のせいだ!」と理不尽になじられ続けてきたリオンに対し、女神の巫女であるジャンヌはあっけらかんと、言ったのだ。
「朝焼けの色じゃない。綺麗ね。」と。
信じられなかった。
誰もが『魔女と同じ』と詰ったリオンの髪を、ジャンヌは『女神の空の色』と言い放ったのだ。
クロードは保護者代わりの兄貴分で、大好きで、大切だけれど、リオンがクロードのためにできることは少ない。
だから、その代わりと言う訳ではないけれど……
間違いなく、ジャンヌはリオンの心を救ってくれたから。
(……オレができる事なら、何でも協力してやろうって、決めたんだ……)
まさか、その結果、自分自身の身だけではなく、ジャンヌやクロードまで危険に晒すことになるなんて、思っても見ずに。
半月ほど前の魔族との戦いで、思い知った。
大切な人を、本当に守りたいのなら、何でも許してはいけないのだと。
守り切れるだけの強さを、自分が持っていないのなら、なおさら。
(……悪いな。ジャンヌ……)
「……よし……っ!」
「よし! じゃねぇ」
資料から手を放し、グッとこぶしを握ったジャンヌの目の前に、ばさりと資料の山を積んでやる。
「…………ぇ?」
「さっさと次、調べろ……弟皇子、助けたいんだろう?」
ギギギっと、壊れたブリキのようなぎこちなさでリオンを見たジャンヌに、にやりと笑って見せる。
「……リ、リオン……?」
「……付き合わされてんだぞ? こっちは、この、かび臭い紙の山に……」
顔を引きつらせるジャンヌに向かって、全く笑っていない目で笑って見せると……
「……マジ……?」
「マジだ」
半泣きになったジャンヌに対し、真顔で肯定してやった。
(……お前を、危険に晒したくはないからな……)
その言葉は、心の中だけで呟いて。
第2章第4話をお読みいただきありがとうございます。
資料の山に埋もれるジャンヌとリオン。
「赤毛の魔女」という不吉な伝承のせいで理不尽な思いをしてきたリオンにとって、ジャンヌの言葉がいかに救いだったかが明かされました。
真顔で資料を積むリオンの姿は、一見コミカルですが、そこには、彼女を守るため、二度と危険な目に遭わせたくないという切実な願いがあります。
もしかすると、この資料の山の中に、ジャンヌが探す「弟を救うための手がかり」が隠れているのかも?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
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ノリト&ミコト




