プロローグ・夜闇に溶ける囁きと ~目覚めた後も、なお残る~
※本作は第1部の続きとなる第2部です。
呪いが解けた“その後”から、物語は始まります。
剣ではなく、選択と立場が試される物語を、見届けていただければ幸いです。
序 章
プロローグ・夜闇に溶ける囁きと ~目覚めた後も、なお残る~
こつり。こつり。と石畳の上を歩く靴音が規則的に響く。
深夜。すべてが寝静まった神殿の最奥。
東の果ては深い森になっていて、立ち入りが禁止されている。
その森の奥。柵門の先の小路を歩く者が一人。
黒いローブが闇に溶けて、深く被ったフードの下も影に隠れて判然としない。
小路の先にあったのは白大理石でできた壊れた小堂。
壊れてしまったのはほんの一か月ほど前のこと。
一旦、扉を閉ざし、封印術を得意とする神官長によって封印が施されている。
そこは神剣が安置されていた小堂。
その封印をすり抜けてローブの人物が中へと入っていく。
砕けたステンドグラス。二つに割れた台座には五芒星の魔法陣。
ジャンヌが抜いた神剣のあった位置には深い穴。
魔法陣の頂点それぞれに、埋め込まれていた宝石の跡。
トンと、軽く床を蹴って、台座に上がったその人物は、真っ直ぐに五芒星の頂点の一つに向かう。
「………………」
囁くように呼び掛けたその声は男のもの。
宝石の跡と見えたそこに、白い宝石が現れた。
仄かに光を放って揺らめく。
浮かび上がったそれに男が手を伸ばす。
触れるか、触れないかといったところで、そのまま解けるように消えた。
後には何も残らない。
暗い、深夜の神殿奥。
隠され、封じられた小堂に僅かな時間。
仄かに生じた白い光などどこにもなく。
黒いローブに身を包み、顔を隠した男がただ佇むだけ。
「……光の神剣の使い手……女神の巫女……どうしてあなたはこの地の封じを解いてしまったんですか……?」
それが、何をもたらすのかを『知らない』からこそできた暴挙としか思えない。
そして間違いなく知らないのだと、男は知っていた。
「……いずれ、後悔する時が来ますよ……ジャンヌ様……」
囁くようにその名を口にした瞬間。
射し込む月明かりが、ふわりと揺れたフードの下に隠された暗い赤色を一瞬だけ照らした。
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耳の奥に、残る声は誰のもの?
「……からだ、おもい……」
ぼんやりと開かれた天色の瞳が天蓋の暗い青を眺め、ぼそりと漏れた呟きに、控えていた女官兵が小さく息を吐く。
「当然でございましょう。姫様は一週間もお休みになられていたのですから」
「えっ!?」
安堵と呆れの混じった女官兵……
皇孫皇女ジャンヌの身の回りの世話をする女官であり、戦乙女であるジャンヌを守るために戦う戦士でもある女官。
……の言葉に、ギョッとして飛び起きかけたジャンヌ。
ジニア・プローフ・ジャネット皇女は、重怠すぎる体についてこれずに、そのまま後ろに倒れる。
柔らかな色合いの金の髪が枕に広がって、ぼふんと軽い音まで立てた。
「ジャネット皇女!」
「急に動かれてはいけません!!」
慌てて女官兵や侍女らが動き出し、皇女の寝室はにわかに騒がしくなった。
「わたしはいいから! カルロスは!!」
五年前に、魔族によって呪いをかけられ、時が止まったかのように眠り続ける年子の弟ジョン……
カルロス・グラジオス・ジョーン皇子。
魔族を、アーグを倒して、呪いを解いた。
そのはずの弟の安否を問い詰める。
「……ジョーン皇子は、お目覚めになられた後、御身体の回復のために侍医らが付ききりでご容態を見ております」
ほんの一瞬。言い淀まれたのは気のせいか。
「……無事、なのよね……?」
じっと見つめるジャンヌと、女官兵の視線が合わない。
「……どうなの!!」
問い詰める。その叫びに――
「姫様」
騒ぎを聞いて駆け付けたファン……ジャンヌの専属護衛騎士団の団長のファン卿ディアスが、いつも通りの鋭い視線でジャンヌを見据えた。
銀の髪と、整いすぎて冷たい容姿に、鋭く光る赤い目をしているファンは、本人としては普通に目を向けただけでも相手からは「睨まれている。」と誤解されることが多い。
だが、さすがに幼馴染でもあるジャンヌはそんな誤解はしないし、そもそもファンに睨まれても怖くはない。
けれど、今は……
「……ディアス……?」
その眼差しに、陰りを感じて嫌な鼓動が高鳴る。
「……落ち着いて、お聞きください……」
静かな声が、心の準備を促すことに、逆に緊張して、じっとりと背に汗が浮かんだ。
「……皇子は、お目覚めにはなられましたが……まだ……」
闇に囚われておられます。
「…………っ!?」
その言葉に、がんと殴られたように目の前が暗くなる。
ベッドに横になったままだったから倒れずに済んだけれど……
「……ぅそ……」
掠れた吐息が唇から零れ落ちる。
なぜ? どうして?
だって、ちゃんと……!
聞いた覚えのない、けれど知っているような……囁く声に――呼ばれた気がした。
第2部、始まりの章です!
呪いは解けた――
けれど、すべてが元に戻ったわけではありません。
この序章では、
・すでに動き出しているもの
・ジャンヌがまだ知らないこと
・そして、消えきらない“残照”
を静かに置いています。
ジャンヌはまだ、走り出す前の地点にいます。
彼女が何を守ろうとし、何に気づき、
どこで立ち止まるのか。
次話より、本編が始まります。
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【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
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ノリト&ミコト




