第1話:出会い ― コニーヨでの夜
金曜日の夜、日本橋のビルの一角にあるコンカフェ「コニーヨ」に、俺は少し遅れて足を踏み入れた。
ネオンの光がガラスに反射して、カウンターの明かりが暖かく漏れている。週末の夜くらいは、少し自分を解放したいと思ってな。
「おひとり様ですか?」
小柄な店員に声をかけられ、俺は軽くうなずく。
「せやな、今日も一週間終わったし、気分転換やね」
口に出すと、少し疲れと安堵が混ざって笑えてくる。
カウンター越しに、ひときわ目を引く女の子――碧が座っていた。
ボブヘアで、顔は声優・悠木碧を思わせるかわいらしさ。だが、声は低く落ち着いていて、顔のかわいさとのギャップがあった。
「…なんや、この子」
心の奥で小さくつぶやく。初めて会うはずなのに、胸がざわつく。
碧がゆっくりとカウンターの端に座り、ソフトドリンクを手に取った。
「…あんた、テキーラなんやな」
低く落ち着いた声でさらりと言う。その声と落ち着いた雰囲気に、俺は思わず心が動いた。
俺は笑って答える。
「せや、今日くらいは気分よく飲みたいんや」
店内は賑やかで、常連たちの笑い声が響く。
だが、碧の落ち着いた声と表情が、カウンター越しに静かな空気を生んでいる。
俺はテキーラを一口流し込み、少しずつ心をほぐしていった。
「…酔わんように気ぃつけや」
碧の低い声が耳に届き、思わず顔が熱くなる。
「大丈夫や。でも今日は少し特別なんや」
つい口にした一言に、碧は小さく目を細めて笑った。
「私、酒はあんまり…あかんねん」
碧は軽く笑いながらグラスを置く。水かソフトドリンクを手にしてるだけやけど、その仕草が妙に自然でかわいらしい。
酒を飲まん碧に合わせて、俺はグラスを傾けつつ、話題を変える。
「ほんなら、学校とか忙しいんか?」
「まあ、起きるん遅いし、あんまり行けてへんけどな」
ちょっと天然な感じで答える碧に、俺は微笑んでしまう。
テキーラを重ねるごとに、俺の心の慎重さが薄れ、素直な気持ちが顔を出す。
スマホを手に取り、無意識にメッセージを打つ。
「…今日、ええ夜やな」
送信ボタンを押す手が少し震える。宛先は誰もおらん、ただ心に打ち込むだけの文章や。
碧はカウンターの端で、ソフトドリンクを手にして、低い声で笑う。
「お酒、強いんやな」
その声に、俺は少し照れながらも答える。
「いや、そんなことない…でも今日は特別や」
その一言で、碧はにっこりと笑い返した。
夜はまだ始まったばかり。
日本橋のビルの中、コニーヨの光に包まれた空間で、俺と碧の距離は少しずつ縮まっていく。
年の差も、性格の違いも、日常の忙しさも、すべて絡み合い、二人の心を近づけていくのだろう。
コニーヨの夜は続く。
碧の低い声と笑顔を胸に、俺はそっと小さな期待を灯すのだった。




