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F-3 「不埒 -全年齢版-」


     *


 気がつくと、あたしは夢の中にいた。

 なぜか交差点の真ん中に立っていて、まわりから視線を浴びている。人混みのざわめきが、まるで自分を責めているみたいに耳に刺さった。

 どうしてこんなところにいるんだろう、と戸惑っていると、突然、誰かの手に掴まれてしまった。

「隠さなくていいよ。自分のことを」

 そう囁かれて、あたしは恥ずかしくてたまらなくなる。なのに、足がすくんで動けない。

 次の瞬間、夢は急に崩れて、意識が闇に落ちた。


     *


 目が覚めると、汗をかいていた。

 胸もお腹もじっとりと濡れていて、あたしは額の髪をかきあげた。よっぽど寝苦しかったんだろう。

「いい眺めだな」

 ベッドの影から現れた伍如田さんが、茶化すように言った。

 恥ずかしさを隠すために枕を投げると、彼はおどけて笑った。


 それからも、あたしはよく夢を見た。


     *


 甘いのに苦い、不思議な夢。

 夢の中で純子ちゃんと目が合うこともあった。彼女はなにも言わずに微笑むだけで、それがなぜだか切なくてたまらない。


     *


 ある休日、純子ちゃんから突然電話がかかってきた。

 「ちょっと会えない?」

 いつになく真剣な声だった。


 待ち合わせたファミレスで、純子ちゃんはテーブルに手を組み、長い沈黙のあと口を開いた。

「……早く別れなさい」

 思いがけない言葉だった。

 驚いて声を荒げかけたとき、純子ちゃんは携帯を差し出してきた。

 そこには、見慣れた姿が映っていた。


 DDAをつけた誰か。けれど、肌の色や、仕草や、細かな特徴は間違えようがない。

 純子ちゃんだった。


 画面が切り替わる。別の日の映像。そこには、あたし自身も――。


 喉が詰まり、呼吸ができなくなった。

「……病院に行こう」

 純子ちゃんの声は震えていた。

 あたしは言葉を失っていたけれど、隣に座ってきた彼女が、あたしの頭を抱いてくれた。

「ごめんね。わたしがもっと強く止めていれば、こんなことにはならなかった」

「ちがうよ純子ちゃん」

 反射的に言葉が出た。でも彼女は首を振る。

「違わない。……文乃のことが大切だから」

 そのひとことに、堰を切ったみたいに涙があふれてきた。

 泣き声を抑えようとしたけれど、しゃっくり混じりの嗚咽になってしまう。純子ちゃんは強く、でも優しく、あたしの肩を抱いてくれた。


 指先に光るリングに気づいたのは、そのときだった。

 あたしはもう外してしまったのに、純子ちゃんの薬指には、あの日のまま、まだ残っていた。


次は「S-5」。

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